5話
約1時間以上にもわたる身支度が完了し、騎士の案内で家族と王太子が待つ部屋へと案内される。
すでに到着されているのに今になって私を呼ぶだなんて、できの悪い子アピールするつもりだろうか。
本当なら、両親も私を呼びたくないだろう。
訳も分からない呪いを持つ娘。本来なら殺したり生まれなかったことにするべきなのだが、それができない。
上位の爵位を持つ家は、子供が生まれるときにその姿を必ず王族に見せる必要があり、王族の目の前に手続きなども行われる。
つまり、王族の目の前で自分が生まれたと言う確認をとられるのだ。そして、死後もしっかりとした証拠が必要となる。アンジュの両親ならそんなこと簡単にできるのだが、それができない面倒な理由があったりするのだ。
「失礼いたします。遅くなり、申し訳ありません。アンジュ・シュタッバーテン、ただいままいりました」
ドレスの裾を少し持ち上げ、お辞儀をする。
顔を上げれば、不機嫌そうな両親と兄弟。そして……
「やぁアンジュ、元気そうでよかった」
若い男性。彼が王都の次期王帝。第一王子のクルシュ・ケニスア。
整った顔立ちに、印象的な赤い髪に赤い瞳。
アンジュの記憶の中に、レイモンドから教わった【虹色順位】と言う知識がある。
髪や瞳の色によって相手の魔力が一目でわかると言うものだった。
赤が一番魔力が高く、紫が一番低いとされている。
7色以外にも白は赤以上の魔力を持ち、黒髪は魔力はないが、別のことで秀でていると言われている。
クルシュ様は一般的な最高魔力の赤色、シュタッバーテン家は代々金髪碧眼とされている。
「クルシュ王太子様。遠路遥々足を運んでいただき恐縮です。身支度に時間がかかってしまい、顔を出すのが遅くなってしまい申し訳ありません」
「気にしないでくれ。ご両親からは体調が悪いと聞いていたが、どうしても君の顔が見たくてね。無理を言ってしまって申し訳ない」
「恐縮です」
ちらりと横目で、家族の方を向いた。両親も兄弟も不機嫌そうな表情を浮かべているが、特に姉の表情がすごい。今にも私にとってかかりそうな勢いだった。
姉がどうしてあんな表情を浮かべるのか。私はあの顔を知っている。前世で何度も嫌という程見てきた顔だった。
「アンジュ、気分は悪くないか?君は座って話を聞くといい」
「お気遣いありがとうございます。しかし、王太子の前で腰を下ろすなど、私にはできません」
姉は、王太子に好意を向けている。だけど、王太子は姉ではなく私、アンジュに好意を向けている。アンジュ本人はそれに気づいていなかったけど。寧ろ、粗相をしないようにと、意識がそちらばかりに向いていたから、王太子の行為に全くと言っていいほど気づいていなかった。
「それにしてもアンジュ。以前来たときよりも作法がしっかりしているな」
早速王子からのお言葉。
今までのアンジュはあたふたとして、言葉もしどろもどろ。そんな様子に母親や姉、妹はクスクス笑いながら出来の悪い子であることを口にし、ばかにした。
だけど、今の私にそんなものは通用しない。
「姉や母のおかげです。覚えの悪い私に、根気よく色々教えてくださりました。私が、王太子の前で令嬢としてしっかり振る舞えるようにと……本当に優しいくて」
我ながら素晴らしい演技。泣き真似をしながらちらりと横に視線を向ければ、それはもうすごい表情。今回もばかにするつもりだったようだけど、残念でした。
「そうか。それは素晴らしいことだ。ただ、もう一点気になることがある」
王太子の視線が、私と姉妹を交互に向けられる。まるで比べるかのように。
まさかとは思ったけど、本当にそのまさかだった。
「アンジュ、そのドレスは誰が用意したんだい?」
あー、それ聞いちゃう?王子様、それ聞いちゃいますか?
好意を持ってる相手が、姉や妹よりも華やかさが劣るドレスや装飾品を身につけていることが気になっちゃいますか?
ごめんなさいね。王太子に聞かれちゃ、答えるしかないでしょ?
「さぁ?私は、お部屋に用意されていたドレスと装飾品を身に纏っただけですので、誰が準備したかまでは?」
「……そうか。私はてっきり、姉妹感で差別があるのではないかと疑ってしまったよ」
「そんなことはありません、確かに姉や妹に比べて華はありませんが、それでも皆こんな私によくしてくださります」
王太子の鋭い視線が家族の方に注がれるが、私の演技でなんとか落ち着いたようだった。
ここはあえて家族の方は見ないけど、きっと悔しがっていたりしているだろう。
まっ、私はただ王太子の質問に答えただけだし、文句言われたり、怒られる筋合いはないな。




