《新人メイド、リムちゃん!》ーリーリウム視点ー
こんにちは。新人メイドのリムです。
私が働いてるのは龍族の王様が治める国の王城です。
そして、私がお仕えしているのは第二王女であるヘルツ・グナーデさま。私の、元お姉様です。
生まれた時から呪いを持っており、家族からも使用人からもひどい扱いを受けていたお姉様は、本来だったらお父様が考えた策略で死ぬはずでした。しかし、龍族の王様に命を救われ、姿を変えて、娘になって私たち家族に復讐をされました。
結果、家族はバラバラ。唯一一緒に、双子の弟のクラウンもこのお屋敷で使用人として働くことになったけど、なんの嫌がらせか、お姉様の専属の使用人。しかも、悪いことすれば痛い思いをするとっても怖い首輪をつけられている。
大した事はないと思っていたけど、使えて間もない頃にクラウンが我慢できずにお姉様に暴言を履吐いたことがあった。その時に首輪の力が発動して、三日間目を覚まさなかった。
怖かった。とても怖かった。正直お姉様が悪魔に見えて仕方がなかった。でも仕方ない。だって私もクラウンも散々お姉様にひどい事をしたんだ者。亡くなったと思った日なんて、屋敷でパーティーも開いたんだもの。これは天罰だと思った。
なのに、だというのに……
「全く……発動しないで欲しかったのに……バカな子……」
お姉様がこんな首輪をつけたせいでクラウンが目を覚まさなかったのに、その本人はクラウンが目を覚ますまでずっとそばにいた。
「どうして……」
悪い人であれば良かったのに。あの時、私たちがお姉様にしたみたいにたくさんいじめればいいのに、怖い事をもっといって、もっとひどい命令をいっぱい言って、家畜みたいに、道具みたいに、そんなふうに扱えばいいのに、どうして優しくするんだろう……
「リム」
「は、はい!なんですか。お姉さ……ヘルツ様」
「……何か欲しいものとかやりたい事はないの?」
「へ?」
「にゃんにゃんから聞いたわ。この前、男の使用人とお話ししたそうね」
私が男性嫌いだという事はお姉様は知っていた。
にゃんにゃんさんが「男の使用人ともお話ししましょう」って言い出した時は意地悪だと思った。嫌だった。話したくなんかなかった。でも、無理やり男性のところに連れていかれた。怖くて嫌悪感を抱いて、声をかけられた時は家にいた時みたいに暴言を吐きそうになった。だけど、首輪の感触を感じてぐっと言葉を抑え、自分の感情を押さえ込みながらにゃんにゃんさんの後ろに隠れた。お話は、全くしてない。
「お話ししてないです。にゃんにゃんさんの後ろに隠れただけです」
「でも、暴言を吐かなかったのでしょ?吐きそうになったけど、ぐっとこらえたのでしょ?」
「そ、うですが……」
「前の貴女だったら、暴言を吐いて首輪の効果が出て以前のクラウンみたいに数日は眠っていたでしょうね」
思い出しただけでゾッとする。痛い思いをして、ずっと眠って。私は女だからクラウンと違って鍛えてるわけじゃないからもしかしたら死んでしまうかもしれない。やだ、死にたくない……死にたくない。
「私がにゃんにゃんにお願いしたのはね、貴女のためなの」
「……嘘です。お姉様は私に意地悪をしてるんです」
「そう思いたいなら思いなさい。でも、今後貴女がここで使用人として暮らす以上困難はあるわ。どうしても男性の力を借りないといけないことがある」
「クラウンがいればいいです」
「常にクラウンがそばにいるわけじゃない」
私が何かを言えば、すぐに言い返してくる。やっぱり、お姉様は私をいじめて楽しんでるんだわ。
「あの日、お父様の娘として初めてあの屋敷に来た時に、貴女たちの声を聞いた時に激しい憎悪に襲われたの」
「え……」
「今すぐにでも殺したい。屋敷を全部壊して一人残らず殺してやりたかった。でも、そうしなかった」
「……どうしてですか?」
椅子に腰掛けて、じっと窓の外を眺めていたお姉様は振り返り、ニッコリと笑みを浮かべる。
その笑みに、思わずどきっとしてしまった。
「ダメだと思ったからよ。感情のままに行動するのは、知性のない獣と同じ。リム……リーリウム……理性を持ちなさい。我慢を覚えなさい。男が嫌いな事を私はいけない事だとは思わない。誰にだって苦手なものはある。でもね、それは頭ごなしに嫌がるんじゃなくて、嫌でもそれをぐっと我慢して、利用しなさい」
「利用……ですか?」
スッと立ち上がったお姉様は私のそばまで来ると、そっと髪を撫でられた。
まるで殿方が女性に優しくするように。
「社交場で散々振りまいたその愛嬌を使いなさい。貴女が笑えば、男はみんなメロメロになっていたでしょ?」
「でも私は、男性ではなく……」
「わかってる。だから、知りたい女性のことを知るために男を使うの」
悪い顔をするお姉様。今ならわかる。あの時、今の姿で初めて会った時に私とお話をしている時もこの顔をしていた。そうか……これが騙すってことなのか。
「一応、私はお姉様の使用人ですよ」
「そう。だからこそ教育よ。貴女はまだ幼くて、尚且つずっと甘やかされたり、悪いものを当たり前に思って、わがままが通ると思っている。でもそれは、世間では悪でしかないの。貴女は、あの母親やあの姉のようになりたいの」
「っ!」
知っていた、わかっていた。いや、ここに来て嫌という程自分の環境がいかに異常なのかわかった。
元の家の使用人は必要最低限の労働しかしなかった。頑張っていたのは私ぐらいの入って来たばかりの子たち。それに、ここでは使用人でも当たり前のようにし読み書きもできた。私ですら、そこはおぼつかないのに。
それに何より、暖かかった。
お母様は優しくしてくれた。だけど、お父様以外の人と淫らなことをしていたと知って嫌悪感を抱いた。
お姉様は、元々あまり好きじゃなかった。だって、お姉様が令嬢を虐めるせいで、家名を言っただけでみんなそそくさいなくなった。
あの家は、とても汚かった……
「んー、そうね。じゃあ一つ約束してあげる」
「約束、ですか?」
「そう。リムみたいに、男性を愛せない人って結構いるの。だからもし、リムが心から好きになった人がいたら、私が全力で応援してあげる」
「応援……」
「たとえ私たちの敵だったとしても、貴女の恋を応援してあげる。貴女の夢見ている恋愛を、ヘルツ・グナーデの名の下に約束してあげる。なんなら契約書も書いてあげてもいいわよ」
本気なのかわからない。でも、嘘でも構わない。どうせ、お姉様から今は逃げることなんてできない。だったら、それがホントだと思って頑張るしかない。
あの二人……あの家にいた人たちみたいにはなりたくない。
「私に、できるでしょうか……」
「ん、何が?」
「男性と話すことです」
「でも社交場では出来ていたんでしょ?」
「そう、ですけど……その後部屋のものに当たりました」
「でも、まずはそれからでもいいわ。あ、なんならウォルフからお話を始めたら。八つ当たりでもなんでも、大丈夫だと思うし」
「護衛騎士をなんだと思っているんですか?」
「私がお願いすれば協力してくれるわ。もちろんにゃんにゃんも」
ふと私は思った。前にクラウンと話したことがあった。
本当に、あの気弱なお姉様なのだろうかと。まるで、別人だと。
違う人……そう、私のお姉様はあの日死んだ。今ここにいるのは私が使えるべき人。
そして私は、もう令嬢じゃない。ただの使用人だ。
「先ほどの」
「ん?」
「欲しいものとやりたいことです」
「あぁその話ね。何が欲しいの?」
「欲しいというよりは、やりたいことなんですが、魔法を覚えたいです!」
その発言にお姉様……ヘルツ様は驚かれた。あ、もしかして私が悪いことのために覚えようとしてると思われたのかな?
「違います!その、さっきの、男性になれるための練習で、相手へに危害を加えたら首輪の力が発動するので、物とかに当たるかもしれないので」
物か、ないとは思うけど我慢するために自分を叩くかもしれない。
そのために、治す力が欲しい。怪我と物。あ、破れた服とかも治せたら便利だよね。汚れとかも落とせたりとか。
それを説明すると、またヘルツ様に笑われた。
「魔法は応用すれば色々な可能性があるわよ。そうね、いいわよ」
ヘルツ様がその許可をくださった翌日から魔法が使える女性の使用人に教えてもらった。時々ヘルツ様や姉のラフィネ様も魔法を教えてくださった。男性とはまだお話ができなくて、ウォルフ様が練習相手になってくださるけど、中々うまくいかなくて、今のところ自分を叩いたり、枕に八つ当たりをした。今使ってる枕は4個目でそろそろ治す魔法を本格的に覚えようと思った。
「最近楽しそうだな」
一緒にお昼を食べてるクラウンにそう言われた。
そう言われて、私は今、自分が今の生活を楽しんでいることに気づいた。
今まで経験したことがない日々。鎖で繋がれてはいるけど、ある意味これのおかげで私は今、やっと人間になれていると実感する。
「クラウンも楽しそうだよ。この前も、調理室の使用人さんとお話してたし」
クラウンも、私とは別にいまの生活を楽しんでるみたいだった。
昔は冷たく、何かを満たすようにお姉様をいじめていたから。
「私たち、死ぬまであの人に飼われるのかな」
「そうならないために頑張るんだよ」
「あはは、そうだね。頑張らないと」
ここまで作品を見てくださりありがとうございます。
今回のお話を持って、一章完結となります。
次回がいつかになるかはわかりませんが、二章も書き進めたいと思いますので、投稿した際はぜひ読んでください。




