36話
時間は少し遡って、お父様に呼び出されて、シュタッバーテン家との契約を白紙にすると発言した日に戻ります。
「それで、ヘルツ。お前が考えるメリットとデメリット……いや、今お前が考えている、あの家が地獄に落ちる提案をしてくれ。あぁもちろん、それは我々にととってメリットな内容なのだろう」
「えぇお兄様、お父様。もちろんです。お互いに良い結果となる内容です」
まず、お父様はシュタッバーテン家との契約を白紙にするというのはなし。
もちろん、あの男の一族と契約なんて結びたくないのはわかる。私が提案したいのは契約する相手を変える。つまり、シュタッバーテン家の当主を別の人物にすること。もちろん、あのクズ長男ではない。
「実は、現当主には弟がいるんです」
「初耳だ」
「当然です。勘当されてしまい、どこにいるかもわからない状況でしたから」
「なぜ勘当されたのだ」
「レイモンドの話によれば、叔父が魔族や魔獣の研究をしていたのが原因だそうです」
叔父であるシェルシェールは、昔から生き物への探究心が強かった。
動物を捕まえてはその生態なんかを調べたりと、ちょっと異常な学者というか研究者みたいな感じ。
元々権力などにも興味がなく、次男ということもあり自由に過ごしており、彼のやることに当時のシュタッバーテン家当主。つまりアンジュの祖父は何も言わなかった。将来的には生物学の学者にでもなるだろうと、当時のレイモンドに話していたそうだ。
そして、ある日叔父は魔獣の死体を見つけ、屋敷に持ち帰った。
頻繁に動物の解剖をしていたこともあり、祖父から専用の部屋を与えられていたこともあり、誰にもバレずにそこで魔獣を解剖して、叔父は他の生き物との違いにひどく興味を持ったらしい。
叔父はただ未知に対する探究心を募らせていたが、周りからはその姿が異常に見えていたのだろう。
祖父が亡くなり、公爵が後を継ぐことになったその日のうちに、叔父は屋敷を追い出されてしまった。
「つまり、その男を次の当主に?」
「はい。でも、あくまで一時的で実際に当主になって欲しいのはその息子です」
この半年の間に、叔父の所在を調べることができた。
今は同じ研究者の女性と結婚し、息子が一人いるらしい。しかも、幸運なのか不運なのかわからないけど、その息子は父親には似ず、一緒に研究はしているが随分まともな上にとても優秀な人物のようだ。
「彼を当主に?」
「はい。研究できる環境を与えれば、おそらく提案には乗ってくれると思います」
私の次の提案。それは、契約内容の変更だ。
元々は、人間の国を魔獣や魔族から守る代わりに、人間側の技術や物資を龍族側に与えるものだった。
しかし、それが果たして守られているかといえば、そうではない。
お父様自身、契約への関心はなくなり、気まぐれで魔獣の討伐を行なっている。人間側も、表面的に契約を守っているだけだった。現に、アンジュの記憶に、公爵がまともに契約通りのことをしている様子は全くなかった。
うわべだけで、王子に報告しているだけだった。
「私は、あの領土を魔獣の研究に特化した場所にしたいのです」
考え方はいたって単純。
龍族が魔獣の討伐。
その魔獣を人間に渡して研究。
その成果を国に献上。
という感じが私の流れの理想である。
種族間でのやり取りで考えるのであれば、龍族が森での警備と魔獣の討伐を行う。人間側は、警備費と倒した魔獣のランク(×数)によってお金やそれに見合った物資を渡すといった感じ。
そして、人間側。つまり領地と国のやりとりは、領地で行った魔獣や魔物の研究成果と、魔獣の資材(角や毛皮など)を提供し、国からは研究費(結果が出ればその分+)と資材分の金額を与える。
こうすれば、龍族側も人間側、領地や国側もメリットはあると思う。経済が回るのはいいことだ。
「確かに提案としてはいいが、一ついいか?」
「何でしょう?」
「龍族と人間の領地。人間の領地と人間の国。このやりとりは存在するが、龍族と人間の国のやりとりが存在しない」
「ヘルツ的には一直線のイメージか?」
「いえ、そこも一応考えはしてます」
とは言っても、あまり魅力的には感じないかもしれない。
王城から龍族側への報酬はないが、その代わりにパーティーなどの交流の場を設けてもらうというのを考えていた。
龍族にだけの話ではないが、ほぼ全ての種族が人間との関わりを持っていない。
知識や技術に偏りがあるため、情報交換の場という意味で一応考えていたが、ここに関してはなくても問題ない。
「私はあくまで、今の関係を保ちつつ、内容を変更してより良いものにしたいと考えています。私たちにもメリットがあり、人間側にもメリットがある」
お父様と兄様はうつむきながら私の提案を考えてくださっている。
正直、不安は残る。ある意味理想論に近いからなー。こういう政治的なことって責任重大だから嫌なんだよ。
でも、あのクソ家族が今でも悠々と生活していると思うと腹がたつ。どんな手を使ってでも追い出したい!
「どうだ、フィル」
「そうですね。悪くないと思います」
「本当ですか!」
「あぁ。まぁ、龍族と人間の王族との関係は薄いけどな」
うぅ、わかってはいたけど、やっぱりそこだよなー。もっともらしい答えがもっとあればよかったけど……
「でも、しっかりと目的の部分は答えが出てる。しっかりメリットもある。私は問題ないかと」
「そうだな。私もこれでいいと思う。龍族と人間の王族部分は、おいおい考えればいい」
「ということは……」
「あぁ、早速動くぞ」
私の提案は無事にお父様と兄様の許可が降りた。
それから、シュタッバーテン家に行くまでに、裏で手を回し、ある程度外側を固めて行き、当日を迎えることになった。




