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35話

リーリウムが男の使用人に怒ったり、女の使用人に八つ当たりするたびに、その腹いせと言うように彼ら彼女ら使用人たちは容姿の似ている私をいじめた。

クラウンは舞踏会に行くためにドレスルームから勝手にドレスや装飾品を持って行くため、無くなったとわかるとすぐに私のせいにされて母や姉から罵声と暴力を振るわれた。

直接的なものもあるが、二人の行動がきっかけで第三者からの罵声や暴力の方が多かった。

やっぱり、この二人も腐ったシュタッバーテン家の人間だ。タダで済ませるわけにはいかない。


「そういえば、お父様からお聞きしたのですが……」


ねぇ二人とも。楽しそうにお話してるけど、もしかして忘れたなんていわないよね。だって、半年前まではちゃんと存在していたのだから。

私はにっこりと優しい笑みを浮かべながら、悪意など全くない、本当に知らないと思われるように二人に尋ねた。


「確か、もう一人ご兄妹がいらっしゃったはずですが?」


ピキッと、空気が軋むような感覚がした。

まるで、今まで忘れていて、今思い出してハッとしたような、そんな感じ。

この二人、いや、この屋敷にいるほぼ全員が記憶の中からアンジュ・シュタッバーテンの存在を消していたのだ。

リーリウムは言葉に困り、目の前のクラウンは何もいわない。


「あの、どうかされましたか?」

「姉は……半年前に亡くなりました」


意外にも、答えたのはクラウンだった。まぁ確かに、今のリーリウムに尋ねたら余計なことを口走りそうだものね。懸命な判断だ。


「まぁそうでしたの。知りませんでしたわ」

「契約しているとはいえ、我が家……人間側の問題なので、恐らく龍族側に連絡が入っていなかったのでしょう」


もっともらしい言葉だけど、悪い言い方をすれば、龍族に伝えるほど重要なことじゃないと言っているようにも捉えられる。


「まぁそうだったのですね。ご病気で?」

「……まぁそんなところです」


素直に答えない。と言うことは、どうやって死んだか、どういうこじつけで死んだことにしてるのかわかっているのか。

まぁそうだよね。元々は森におびき寄せられた理由が、龍族がアンジュに会いたがっていたから、だったから。

当然龍族側に覚えはない。嘘だとすぐにバレてしまうし、その時どうなるのかは目に見えている。


「それは悲しいですね。大事な家族が死んでしまうことは」

「……はい。そうなんです。私、お姉様のこと大好きだったので」


目をウルウルさせ、姉を慕っていた妹を演じる。

男が喜びそうな表情だ。ま、私にはそんなもの効かないけど。大体、私本人だし。


「ヘルツ様」


その時、側で護衛していたにゃんにゃんとウォルフが声をかけてきた。

表情からして、お父様達の話が大体終わったようだった。つまり、これからは私の番というわけだ。


「それじゃあ戻りましょうか。お話が終わるみたいですし」

「残念です。もっとヘルツ様とお話したかった」

「そうね、私ももっと貴女とお話ししたかったわ」


優しく頬に触れ、にっこりと笑みを浮かべて耳元で囁く。表面上だけの、相手が望む麻薬のような言葉。


「もしお許しがいただけるのであれば、今晩お屋敷に泊まって、貴女の部屋で沢山お話ししたいわ」


顔を離し、再度笑みを浮かべる。

顔を真っ赤にさせた彼女の頬から手を離し、背を向ける。

クラウンがちらりと私の方に視線を向けるが、私はただ笑みだけを返した。


私の少し先を歩くクラウン。そして、隣にくっついて歩くリーリウム。勘違いさせるために、私は彼女の手を取り、いわゆる恋人つなぎをする。

きっと、彼女の頭の中はお花畑。両想いだと思っているんでしょうね。あぁ、可哀想に。

それに、クラウン。貴方もよ。涼しい顔をしているけど、きっと悲しい結果になるわ。

あぁ思ってもいないけど、姉として心が苦しいわ。


「ただいま戻りました」


部屋の扉が開き、私たちは応接間に戻った。

だけど、空気はいいものではない。しかも、私が想像していたよりも絶望的という空気だ。


「戻ったか、ヘルツ」


いつも通りの表情のお父様と兄様。でも、それ以外の人たちは信じられないという表情で私の方を向いていた。まるで、幽霊でも見るかのように。


「あの、どうされたんですか?」

「父上?母上?」


唯一状況がわからない元妹と元弟。

まぁ察しましたとも。恐らく、提案の流れで言わざるを得なかったのだろう。


「言われたのですね。流れで?」

「あぁ。それと、ムカついたからだ」


悪びれもなくそういうお父様。隣ではアニサマが少し呆れながら溜息を零していた。

ふふっ、でもお父様らしくていいですね。


「ヘルツ様?」


不安げに私を見上げるリーリウム。

だけど私は、さっきまでの笑みを消して冷たい視線を向けて彼女の手を振り払った。


「まぁでも、手間が省けてよかったです」


まるでいない者のようにリーリウムから離れ、お父様の隣に腰掛けてクルシュ様と対面する。


「ご無沙汰しております、クルシュ様」

「……本当に、アンジュ……なのか?」


後ろから、何も知らない妹と弟の驚いた声が聞こえたけど、私は気にせず笑みを浮かべて返答する。

当たり前の様に、どうしてそんなに驚くの?とまるで尋ねる様に。


「はい。しかし、今はアンジュではなくヘルツです。アンジュは、半年前に死にました」


信じられないと、王子は頭を抱える。

そりゃそうだ。死んだと思っていた相手が実は種族を変えて生きていたなんて、誰が思うだろうか。

大体、人間で《種族転換》が使える人自体が全くいない。そういう魔法が存在する程度の認識しかないだろう。


「ありえん!」


間を割って入るように、元父、グリード・シュタッバーテン公爵が机を叩き、顔を歪ませながら私を見る。

彼もまた、発言した通りにありえないと思っているけど、同時に焦りも感じているのだろう。だって、嘘の死の報告を国にしているのだから。


「さてクルシュ様。お父様から提案内容はお聞きしましたか?」

「おい!話を進めるな!」

「公爵、少し黙ってていてはくれないか。今、娘が発言している」


ギロリとお父様が睨みつければ、変わらず顔を歪ませはするが公爵はそれ以上何も言わなくなった。


「あぁ聞いた。いや、聞きました」

「最初の話し方で構いません。その反応からして、受け入れてくださるようですね」

「ふっ!」


またしても公爵が前のめりになりながら発言しようとしたが、お父様が再び睨みつける。


「ふふっ、よかったです。お父様に提案した甲斐がありました」

「君が、考えたのかい?」


目を見開いて、随分と驚いた表情をするクルシュ様。私が聞かされた内容を考えたとは思えなかったのだろ。

まぁ前のアンジュだったら考えはしなかっただろうけど、私はアンジュであってアンジュではない。


「はい。龍族も、人間も、この領地の人も幸せになる提案ですから」


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