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32話

不思議だ。なぜか気持ちがすごく穏やかだ。

目の前には、無邪気に私を案内する元妹と、それに反してあまり表情を出さないものの、丁寧に屋敷の中を説明する元弟。

私自身の体験でのこの二人の印象は少年、少女の皮を被った悪魔だ。いや、私だけじゃない。アンジュの記憶の中でもそれは同じだ。

天使のように愛らしい顔で近づき、悪魔のような行動をとる。今すぐにでも殴りつけて泣きながら惨めに土下座させたい。そんな激しい感情があると思ったけど、意外にもそんな感情は抱かなかった。

何が原因だろう。今の私が、目の前の種族より上だからかな。


「そしてここは庭園です。お花が素敵でしょう?」

「えぇ、とても色鮮やかね」


あぁなんて忌々しい場所だろう。

ちょうどあそこだ。陰になっている庭園の隅の水場。あそこで、兄姉妹弟きょうだいたちにゲームにされていた。

私が、アンジュになった日だ。


「ヘルツ様は、お花がお好きですか?」

「えぇ。よく、兄様や姉様にここと同じ、花がたくさん咲いている場所で勉強を見てもらっていたんです」

「そうなんですね。きっと勉強も捗るでしょう」


ニッコリと、まさに天使のような笑みを浮かべるリーリウム。媚びるような声は、姉の真似だろうか。それとも、本心からの甘え声か。どちらにせよ不愉快ね。


「少し疲れたのですが、あちらのベンチに座ってもいいかしら」

「あ、ごめんなさい。連れまわすようなことをしてしまって!」

「いいのよ、二人は私を案内しているだけだから」


私たちは近くのベンチに腰掛けて、少し休憩した。

にゃんにゃんとウォルフたちには、少し離れた場所に待機してもらっている。ちょうど、この二人が護衛がいることを忘れるぐらいの距離。


「ヘルツ様の髪はとてもお綺麗ですね。ね、クラウン」

「あぁ。白髪の方は初めて拝見しました」

「人間で、白の方はいないの?」

「今のところは、今日いらっしゃってる、クルシュ様たち王族の方の赤髪が上位です」


私の隣に当然のように座るリーリウム。座りはしていないが、私の前に立っているクラウン。

私の正体を知らない二人は、特別な来賓相手として会話をする。あぁ、もし私の正体を知った時、この二人はどんな顔をするのだろう。


「あの、ヘルツ様。一つお伺いしても」

「なんでしょう、クラウン様」

「そちらのドレスは、龍族特有の品でしょうか?」

「あぁ、これは羊族の方の毛で作ったドレスなんです。毛のある種族は生え代わりで古いものが抜け落ちるんです。それを利用して色々なものに使うんですよ」


こちらでも、家畜である羊や鳥の羽を使った似たような品がある。そんなに珍しくはないけど、家畜と種族としての生き物では手入れに差があるため、同一と考えらていないため、価値が大きく違ってくる。


「ご興味がおありで」

「……まぁ……うちの女性陣は着飾るのが好きなので、それだけ美しいと興味を持たれると思って」


女性陣、ね……


「そういえば、お二人は双子でしたね」

「はい。そうですよ」

「実は、私にも双子の妹と弟がいるのだけど、顔はそんなに似てないけど、まだ幼いとうこともあり、顔立ちが随分可愛いの。だからよく、お互いに服の交換をして遊んでいるのよ」


その言葉に、クラウンがピクリと反応したのを私は見逃さなかった。

あぁやっぱり、まだ続けていたのか。調べた通りだ。


「まぁそうだったんですね。実は私たちもそんな遊びをしていたんです。ね、クラウン」

「……あぁ、そうだな。随分、昔のことだが」


無邪気に答えるリーリウムに反し、無表情ではあるが、顔をそらしながらそう答えるクラウン。

私は知っている。彼がなぜ顔を背けたのか、なぜ彼女がこんなにも目を輝かせ、うっとりとした表情を私に浮かべるのか。

その答えもまた、前のアンジュの記憶の中にあった。


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