29話
龍族になって、半年が経った。
フィル兄様やラフィー姉様の厳しい指導のおかげで、私は立派に龍族として生きています。
もう本当に大変な日々でした……あまり思い出したくないけど。
知識も蓄え、魔法も二人が知っているほぼ全てを覚えた。
叛龍ではあるが、白髪ということで魔力もそれなりにあり、二人が使えない魔法も覚えた。
あ、そうだ。この半年で変わったことが二つほどありました。
まずは、私に専属のメイドと騎士がついたこと。
「ヘレス様。お茶のお代わりはいかがですかにゃ?」
「ありがとうにゃんにゃん」
私の専属メイドの名前は「にゃんにゃん」。獣族の黒猫族だ。
半龍というわけではなく、純粋に猫族である。
明るく、面倒見がとてもよく、私のことをよく気にかけてくれる。
ただ、前の家のことを聞いたらしく、必要以上に世話を焼くところはちょっと難点ではあるけど、根はとてもいい子だ。
ちなみに、専属メイドではあるが、猫族は身体能力が高いので護衛も兼任している。
そして、私の護衛騎士であるウォルフ。龍族の血を引いているがそれは4分の1で、基本的に狼族の血が濃い。剣術体術ともに申し分なく、私もたまに稽古をつけてもらっている。
犬科ということもあり、たまに人目を盗んで、耳や尻尾を撫でたりしてお互いに欲求を見たいしている。あ、別にはしたない意味はないです。純粋に、もふもふの癒しを楽しんでるだけです!!
二人とも、とてもいい人たちで、私の部下ではあるが、良き友人と思っている。
そして、変わったこと二つ目。やっと私はシュタルク様をお父様と呼ぶことができました。(ちなみに、アルバ様はほぼ流れというか勢いでここにきて1ヶ月ぐらいからお母様と呼ぶようになった)
長かった……初めて呼んだときは正直恥ずかしかったけど、とっても喜んでもらえた。シュタルク様の笑顔なんて破壊力やばすぎた。
そんなこんなで、私は龍族としての穏やかな日々を過ごしていた。
元いた世界でヤンデレ友人に刺されて死んで、転生……憑依した先でも散々な日々。まさか自分にこんなにも穏やかな日々が訪れるとは思ってもいなかった。
遠い昔を懐かしむように、窓の外をぼんやりと眺めていると、不意に部屋の外の警備をしていたウォルトが声をかけてきた。
なんでもシュタルク……お父様が私を呼んでいるとのことだ。
読んでいた本を閉じ、にゃんにゃんとウォルトと共にお父様の執務室へと足を運んだ。
「お父様、失礼いたします」
礼儀もしっかり覚えた。
実際前の家での作法は全て漫画やアニメなどの見よう見真似。ちゃんと教えてもらえば、細かいところが違ったりしていて、大変だった。
「あら、お兄様もいらっしゃったのですね」
執務室にはお父様とお父様の部下以外に、お兄様の姿があった。(もちろんお兄様の部下もいらっしゃる)
「少し話が長くなる。座りなさい」
お兄様の向かいの席に座り、お父様の方をむく。
いつ見ても、威厳のあるお姿。やはり、龍族の長はなんとも神々しい。
「ヘルツ、お前がきてもう半年になるな」
「はい」
「私は、いや……私たちはそろそろだと考えている」
「そろそろ、というのは?」
「お前の、元家のことだ」
元家……つまり、シュタッバーテン家についてだろう。
私が龍族になった。=アンジュが死んだということ。
あれからもう半年が経ち、すでに私の死に関する事柄は片付いていることだろう。
「私はあの家との契約を白紙に戻すつもりでいる」
「よろしいのですか?」
「元々父上が契約したのは初代とだ。今の当主と交わしたものではないからな」
「フィルの言う通りだ。ヘルツのこともある。このままあの家を好き勝手にはできない」
今すぐにでも全てを終わらせるということだろう。お父様、というよりもこの国がその力を持って人間の国に攻め込めば数時間と経たずに制圧できる。
でも、悪いのは一部だけ。どの種族でもいい人も悪い人もいる。
「お父様、ご意見よろしいでしょうか」
「なんだ」
「ことをすぐに済ませるのは簡単です。しかし、メリットデメリットを考えましょう」
ただ潰すのなら簡単だ。でも、そんなことをすればこちらと人間の間に溝ができてしまう。だからこそ、お互いに利益になるものが必要になってくる。こちらにとっても、あちらにとっても。
「レイモンドとは、まだやりとりは続いていますね」
レイモンド。アンジュに唯一優しかった、元祖父の家臣。今は人の寄り付かない馬小屋で馬の世話をしている。私も数日だけだけどお世話になった人だ。
私がここにきて数ヶ月後、お父様がグリード・シュタッバーテンにばれないように彼と接触をし、私の状況を報告してくれた。
その時に、家の状況を随時報告してもらうように手を結んでもらった。
「次に、いつクルシュ様がいらっしゃるかお聞きになりましたか?」
「人間の王子か……確か、数週間後だという話だ」
「であれば、その日に合わせて尋ねるのが良いかと」
「ふむ……つまり、王子に直接交渉すると?」
「それがよろしいかと。王子は聡明なお方です。グリード・シュタッバーテンはおそらく、提案しても色々と言い訳をするでしょうから」
欲深い男だ。きっと、自分の都合の悪いことにならないようにどうにかしようとするはず。
まぁそれだけならいいのだけど、下手にお父様を刺激してお父様が手を出したりなんてしてはいけない。
クルシュ様ならきっと、国のために何が大事かをしっかり見分けてくださる。
「それで、ヘルツ。お前が考えるメリットとデメリット……いや、今お前が考えている、あの家が地獄に落ちる提案をしてくれ。あぁもちろん、それは我々にとってメリットな内容なのだろう」
「えぇお兄様、お父様。もちろんです。お互いに良い結果となる内容です」
私も、そして向かい側に座るお兄様も不敵な笑みを浮かべる。
お父様も少しため息をつかれるが、楽しそうに笑みを浮かべられた。




