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26話

「あの、フィエルテ様……大丈夫ですか?」


あの後、我に返ったフィエルテ様は慌てて私から離れ、しばし顔を真っ赤にしながら私を見つめた後そのまま顔を覆いながら座り込んでしまった。

襲ってくる羞恥心には敵わなかった様で、しばらくそのままで、私も落ち着くまで彼の前で座っていた。


「……すまない、取り乱した」


ゆっくりと顔から手が離れるが、やっぱりまだ恥ずかしい様で顔は赤かった。

まぁとりあえず、嫌われてないというか、とんでもなく可愛いと思われていた様で、良かった様なと複雑な感じだ。

そのまま場所を移し、隣の、本来のフィエルテ様の部屋へと移動した。

隣の部屋はしっかり施錠し、隠し通路を通っての移動だったけど。


「とりあえず、改めて聞きますが……私は、嫌われていないということでよろしいでしょうか」

「……あぁ、そうだ」


表情は、さっきまでとは一変し、冷静なきりりとした表情になった。

あ、ちなみにわざわざお茶を出してくれた。とても香りが良くて飲みやすい。


「でも、意外でした。フィエルテ様が、その……あぁ言うものが好きなの。あ、別に否定しているとかはではなく……」

「気を使わなくていい。自分でも、おかしいと思っている。男が、あんなものを」


どこか寂しげ、というか、皮肉にも似たような言い方だった。

彼自身、自分の好きが普通と違うことをわかっている。とどこか諦めているようにも見えた。

男はかっこいいもの。女は可愛いもの。どの世界でも、その認識はどうしても=になってしまう。

でも、そんなものは当たり前とは言わない。


「フィエルテ様は、女性が武器を手にすることをどう思いますか?」

「え?」

「武術や馬術、それらを行う時、女性がズボンを履くことをどう思いますか?」

「なんだ、いきなり……」


私の問いに対し、彼は困惑する。当然だ。私の質問はいまでは当然のことだ。女性も武器を手にして戦うし、馬を乗ることだって当然だ。その中で、ドレスで走り回るなんてことはできない。だから、男性と同じようにズボンを履くことで身軽に動くことができる。

男性の当たり前を、今では女性だってやっている。


「男性はかっこよく。女性は可愛く。でも、男性が可愛く……可愛いものが好きなのは別に悪いことではないと思いますよ」


私だって、戦う男性は確かにかっこいいと思う。でも、だからと言って戦う女性がかっこ悪いのかと言うとそうじゃない。

かっこいい男性がいればかっこいい女性もいる。可愛い女性がいれば、可愛い男性だっている。

男性だから。女性だから。なんてものは結局は差別であり、押し付けだ。

女性がかっこいい物好きだと何が悪い。男性が可愛い物好きだと何が悪い。


「フィエルテ様の好きは、おかしな事ではありません。だから、自分で自分の好きを否定しないでください」


ラフィー姉様が、大食いであることを恥ずかしがるように、フィエルテ様も可愛いものが好きだと言うことを恥ずかしいことだと思っている。

人それぞれ好きも嫌いも、得意も苦手も違う。周りの目を気にしながらそれを自分自身が否定してはいけない。大事な事は、自分の好きをしっかりと認める事だ。


「変、だとは思わないのか?」

「どうしてですか。可愛いは可愛いです。ちなみに私は、先ほどの恥ずかしそうにしているフィエルテ様は可愛いと思いましたよ」

「な!か、からかっているのか」

「そんな事ありません。とても素敵な一面だと思います」


またしてもフィエルテ様は顔を赤くされて視線をそらされた。

でも。と続け、彼は次期後継者らしくないと口にされるが、別に後継者が可愛いもの好きだからダメなんて事はないと思った。

彼のこの可愛い好きは、家族は誰も知らないらしい。だから、知られた時にどう思われるのかが怖いと口にされた。

まさか、あれだけ激しく私を否定されていた彼が、こんなに弱気になるとは思ってもみなかった。でも、私はなんというかやっと心が近づいた気がして嬉しかった。


「大丈夫です。少なくとも私は否定しません。寧ろ、可愛いについてお話ししたいです。実はですね」


午前中の、勉強会でのラフィー姉様の事。無邪気なアンとノーのこと。それらをほぼ一方的に話した。すると、彼は頭を抱えて「ずるい!」と力強く言われた。自分もその場に居たかったと。

昨日の、ラフィー姉様の時と同じだ。好きなことについて話をするとグッと心の距離が縮まる。わざとそうしたわけじゃない。私だって可愛いについてはすごく語りたい。食べ物の話をしてる時のラフィー姉様や、血は繋がってないけど慕ってくるアンとノーの可愛さ。気がつけば、思っていたよりも白熱してしまった。


「……まさか、誰かとこんな話をするとは思ってもみなかった」

「私もです。まさかフィエルテ様とこんなにお話できるとは思ってもいませんでした」

「……昨日は、すまなかった」


手にしたカップを置きながら、彼は私に深々と頭を下げて謝罪されてきた。

当然私は顔を上げるようにお願いしたけど、彼は首をする。


「私は愚かだ。よく知らないでお前のことを否定した。ラフィーのいう通りだ。祝福や寵愛を受けている上に、父上の魔力で龍族になった者なのだ、ただ者であるはずがない。それでも、私は次期後継者として、ここを守りたかった」

「……はい。わかっております。私は元人間ですし、フィエルテ様が血を大事に……家族を大事にされている事はわかっております」


本当に、根はいい人なんだ。それをこの短時間で理解した。

次期後継者としての責務を果たそうとして、少し先走り気味ではあるけど、それは彼がこの国のことを考えてのこと。

それに、血の繋がりもない、突然やってきな者が家族になる不安なんてものは当たり前だ。今までの日常が壊れるかもしれないと、警戒するのも当たり前。

だから私は、確かに怖かったりもしたけど、彼の行動は当然のものだと思っていた。


「ご安心ください。私はただ、平穏で幸せな生活が送れればいいんです。王位を奪おうとかそういうのは全くないんです」


頭にちらつくのはあの屋敷での光景だ。龍族になってアンジュの記憶が消えるわけでもない。そう、贅沢は言わない。私はただ本当に平穏で幸せな人生を歩みたいだけだ。


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