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25話

「あー、疲れたぁ……」


部屋に戻るなり、私はそのままベッドに倒れこんだ。

またしても兄であるフィエルテ様がすごく睨みつけてきた。はぁ、平穏に食事を取れる日がいつか来るのだろうか……そう思いながら、私はぼんやりと外を眺める。

ラフィー姉様との魔法特訓は、彼女の用事が終わるまでお預け。特にやることもないし、私は書庫で本でも読もうと思い、部屋を出た。

ただふと、好奇心を抱いてしまった。

まだ城の中を案内してもらっていないため、書庫以外は一人で出歩くことを禁止されていた。でも、元人間だった私にとってダメだと言われるとしたくなるというか、やっぱり好奇心にはどうしても勝てず、足を運んだことのない道を歩いてしまった。

廊下によって壁紙や装飾品、窓の形なども違っていて、なんだかとても面白い。飽きないというか、むしろこれだけ違うと迷ったりせずに、自分が今どこにいるかわかっていい。


「ん?なんだろう、あの部屋」


ふと、足を止めた視線の先には、少しだけ開いた扉があった。

他はしっかり施錠されているのに、そこだけ少し開いてるとやっぱり気になってしまう。

勝手に入るのはダメだとわかっているけど、やっぱり好奇心には争うことができず、私はその扉に近づいて中に入った。


「へ?」


その部屋は、まさに可愛いだった。

ピンク色の壁紙に、なんとも可愛らしいベッド。そして、たくさんのぬいぐるみや可愛い絵が飾られている。

さっきも言ったけど、まさにこの部屋は可愛いを形にした様な部屋だった。


「こんな部屋があるんだ……誰の部屋だろう」


それにしても胸焼けしそうなほどに可愛いが詰まった部屋だなぁ。

ラフィー姉様の部屋だろうか。それとも、アンの部屋?以外にもアルバ様の部屋だったり?

私の頭の中では、この部屋が当然”女性”の部屋だと思っていた。

だから……


「ここで何をしている」


この部屋に全く似つかわしくない男性的な低い声がした時に体がとてつもなくビクついた。

慌てて振り返ったその先にいたのは、まさかの……


「フィエルテ、様」

「なぜお前がこの部屋にいる」


義兄であるフィエルテ様がとてつもない不機嫌な顔で私のことを見下ろしてらっしゃった。

なぜと聞かれても、扉が空いていて好奇心で入ってしまったとしか言えないけど、むしろどうしてあなたがここにいるのか聞きたいくらいだ。

だって、こんな可愛らしい部屋に男の人がいるなんて違和感でしかない。


「おい、なぜ答えない」

「いや、あの……」


答えたいのは山々なんですが、脳みそパニック状態なんです。

せめて落ち着いてから話を聞いてください。

あと、そんな怖い顔しないでください。人間は平気ですけど、龍族にそんな怖い顔されたら身震いします。

うっすらと、私の目から涙が溢れた時、彼は奥歯を噛み締めて私に怒鳴ろうとした。


「そんな”可愛い顔”すれば俺が許すと思ってるのか!」


ん?

しかし、私の感情がスッと落ち着いた。

というのも、さっきの発言の中に《可愛い顔》という単語が飛び込んできたのと、目の前にいる彼が怒ってはいるのだろうがとても顔を赤くさせている。それはなんというか、恥ずかしいというか、なんというか。

私は直感的に「まさか?」と思い、恐る恐る尋ねた。


「もしかしてこの部屋、フィエルテ様のお部屋ですか?」

「……だったらなんだ」


口元を尖らせながら目をそらせるフィエルテ様。拗ねた表情を浮かべるが、私の中でいろいろなパーツが組み合わさっていき、ついに答えにたどり着いた。


「フィエルテ様は可愛い物がお好きなんですね」


別に追い打ちをかけるつもりではなく、あくまで確認だった。

だが、彼はほぼヤケになりながら「あーそうだ!そうだとも!」と言って、私に背を向けてブツブツと独り言を言いはじめる。


「くそ、いつもは部屋の鍵は常に閉めて、隣の自室の隠し通路からしか入れない様にしてたのに、今日に限って施錠を忘れていて慌てて戻ってみれば、案の定……」


なるほど。隣は彼の部屋の様だ。

つまり、彼のうっかりが原因で知られることのない秘密の部屋を私は知ってしまったということになる。

……うん。私やばいな。

このままいけば秘密を知ったからには的な感じで何をされるかわからない。

そのためにも、私はある確認をしなければならない。


「あの、フィエルテ様」

「今度はなんだ!」

「私の事、可愛いと思ってくださっていたのですか?」


そう、先ほどの態度や発言などなど。

あくまで私の推測ではある。

彼は、シュタルク様から娘ができたことを聞く。もちろん、血を重要視している彼にとって、祝福と寵愛を受けているとはいえ元人間の叛龍など信用できない。

だが、実際に会って見て私の見た目は彼にとって彼の大好きな“可愛い”だったのだ。

妹になるのは嬉しい。だけど、次期後継者である自分が私欲で彼女を認めるわけにはいかず、可愛いと思いながらもずっと私を反発していた。ということなのだろう。

現に今、会ってから見たこともないほどに顔を赤くして動揺している。

まぁ、詳しい事情はわからないけど、少しは好意を抱いてくださっている様でよかった。


「私は、確かに叛龍です。この見た目だってシュタルク様にいただいた様なものです。でも、それでも、貴方が私に少しでも好意を持ってくださっているのが知れて良かったです」

「な、何を……」

「信じてくださいとは言いません。でも、これだけは信じていただきたいです。私に新しい人生をくれたシュタルク様を貶める様なことはいたしません。元人間でも、私にとってもとても大きな存在ですので」


これは、私の本心。人間が卑しい存在だってことは私もよく知っている。だから、彼が私を警戒している理由はなんとなくわかる。


「私は悪い存在に思いますか?」

「……正直、そうは思わない」


彼はポツリと口にし、私を抱きしめる。

あまりにも突然のことで流石に私は動揺してしまう。というか、なんで私こんなことされてるの!?


「本当に嫌になるほどに可愛くて仕方ない!他の妹や弟も可愛いが、お前も可愛くて仕方ない!ずっとこうやって抱きしめたかった!」

「えええええ!フィエルテ様!?」

「なぜこんなにも可愛い存在が叛龍なのだ!聖龍であれば良かったのに!あぁなんて複雑な気分なんだ」


一瞬にしてキャ崩壊。私を人形の様に抱きしめる彼は、初めて会ってからついさっきまでの人物とは全くと言っていいほど別人だった。

これが本来の彼なのだろう。普段の彼は次期龍族長としての姿で、実際は極度の可愛いもの好き。

ラフィー姉様といい、今回の兄と姉は随分と可愛らしいギャップをお持ちだ。


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