23話
食事を終え、皆が就寝の準備をしている時間帯、私はある人の部屋へと足を運んだ。
軽く扉をノックすれば、中からラフィネ様が顔を出された。
「こんばんはラフィネ様。突然の訪問すみません」
「何かよう……ん?」
不意に、ラフィネ様が鼻を鳴らし、何かの匂いを嗅いで、視線を下に向ける。お、気づいちゃいましたか。私が手にしている籠の中身が。
「読書しながら食べようと思ったのですが、思ったよりも多く作ってもらってしまって、よかったラフィネ様もたべませんか?あ!こんな時間に食べないと言うのであれば、私が頑張って食べます」
ラフィネ様はとてもスタイルがいい。モデルさんみたいに、何時以降は食べないとか、決めているかも知れない。
「……いえ、そう言うことであれば頂くわ」
少し恥ずかしそうにそう言いながら、ラフィネ様は部屋にあげてくださった。
どうやってここに来たかと聞かれたので、シュタルク様に教えてもらったと答える。
準備してもらったテーブルに籠を置き、かぶせていた布をとる。
準備したのはお肉がたっぷり入ったサンドイッチ。龍族はお肉が好きだから、野菜少なめで、お肉増し増しになっている。
「わぁ……」
気に入っていただけたようで、ラフィネ様の目がキラキラと輝いている。
どうぞ。と、一つ取り出してお渡しした。受け取ったラフィネ様はそのままがぶりと豪快に口にされた。
普通だったらはしたないと思われるかも知れないが、あいにく私はそう言うのは気にしない。むしろ、今のラフィネ様の姿に胸がキュンとする。
「あの、ラフィネ様。間違っていたらすみません」
もぐもぐとサンドイッチを噛みながら私に視線を向けられ、ゴクリと飲み込んだ後に「なに?」と返事をされる。
ミスったなぁ。せめて食事を終えてから聞けばよかったかな。でも、仕方ない。今聞くしかないな。
「もしかして、ラフィネ様は《原祖返り》ではないですか?」
ラフィネ様は目を伏せられて、しばらく動かなかった。私も、返事が返って来るまでなにも言わなかったが、約3分ぐらいの沈黙後に頷かれた。
「よく知ってるわね」
「今日、たまたま知ることができました。食事の時に、その……寂しそうにお皿を見つめられていたので、もしかしてと思いまして」
それについてはちょっと申し訳ない。ラフィネ様も少し恥ずかしそうにされていた。
元々、龍族は人型ではなく聖龍だけがなれると言われているドラゴンの姿だった。
ドラゴンの体は、どんな生き物よりも大きく、その分食べる量も尋常ではなかった。
龍族はたまにこの時と同じだけの食欲をもつものが現れる。それを《原祖返り》と呼ばれていた。
よくいえば、ドラゴンとしての血がもっとも濃く、その純潔さと強さを表している。しかし、悪く言えば食糧難の象徴と言われた。
実際、これにより一度この国は食糧難になったことがあった。
食欲を抑えることができなかったラフィネ様は、国中の食料に手を出し、満たされるまで食べ続けた。
今では、食欲を抑える強力な薬や魔法が開発され、通常よりも少し大食いぐらいになっている。
「家族はみんな知ってるけど、私だけ違う食事は嫌だからってわがままを言ったの。でも、結局お腹は空くし、だからすぐに寝るようにしているの。反動で翌朝はすごくお腹が空くけど」
苦しそうな表情を浮かべるラフィな様。
原祖返りだからとか言う理由ではなく、純粋にこのかたは食事が好きな人だって言うのは、夕食前の会話で何と無くわかった。
さっきだって、あんなに幸せそうにサンドイッチを食べていたんだから。
「あの、ラフィネ様。ラフィネ様は勉強や魔法はお得意ですか?」
「え、まぁ。大体の魔法や書庫の本の知識も殆ど知っていますが……」
「もしよろしければ、教えてもらえないでしょうか」
ラフィネ様は首を傾げられているけど、きっと納得してくださるはず。
私は、籠の中にあるサンドイッチと、実はすみに隠れていたカップケーキを取り出す。
「頭を使うと、甘いものが食べたくなりますよね。魔法を使うと、体を回復するために食事が必要ですよね。では、食べながらそれを行えば、ずっとできると思いませんか?」
私が言いたいことがわかったのか、ラフィネ様は目を見開いて驚かれていた。
毎日は難しいけど、週に2、3回であれば食糧の問題はない。
と言うのも、このことについては事前にシュタルク様に相談して許可はいただいている。あとは、ラフィネ様が同意されればOK。
「それは、ラフィネ様が望まれて手に入れたものではありません。だからこそ、苦しい思いをするのはおかしいと思いませんか?」
「そう、だけど……女性がたくさん食べるのって、変じゃない」
まさかの返答!気にするところそこですか!
んー、この世界がどうかは知らないけど、前世は普通に女性の大食いファイターいたしなぁ。というか、寧ろいっぱい食べる子かわいいって人結構いたと思う。
「そんなことないです。少なくとも、今みたいに幸せそうに食事をしているラフィネ様はかわいいとおもいます」
私は、口の端についたソースを拭ってあげながらそう口にした。
そう、本当に可愛い。普段は凛とした佇まいで美しいのに、食事になると可愛らしくなって、そのギャップがなんともグッとくる!
「寧ろ、変だと言う人はラフィネ様を見る目がないんです。そんな人は無視です無視」
「……ふふっ、変な人ね。貴女」
そうね。と小さく呟いたあと、残ったサンドイッチを全てたえらげて、テーブルの上に置かれたカップケーキに手を伸ばす。
「周りの目を機にするのは、よくないわよね。好きなものは、我慢しちゃダメよね」
「はい。寧ろお金を払ってでもラフィネ様の食事しているところずっと見ていたいです」
「さすがにそれは恥ずかしい……まぁそれは置いといて、一つ聞いてもいいかしら」
なんだろうと思って首を傾げれば、ラフィネ様は手にしていたカップケーキを私の口に押し込んだ。
「むぐっ!」
「いつまでラフィネ様って呼ぶつもり?その……お、お姉様とは呼んでくれないの?」
「……むぐ……え、可愛い」
もじもじしながらそんなこと言うものだから、思わず真顔でそう言ってしまった。
恥ずかしそうにするラフィネ様は本当に可愛らしい。私の中で《姉萌え》と言う言葉がうるさく主張してくる。
「はい、ラフィネ姉様」
「ラフィーでいいわ」
「では、ラフィー姉様で!」




