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20話

「ここが書庫よ」


ここに来るまでの道中はほぼ無言だった。特に話す話題もないし、私から話しかけてもいいものだろうかと考えているうちに書庫へとたどり着いた。

そこは書庫というよりは図書館に近かった。

天井近くまである本棚がいくつもあり、その中に書物がぎっしりと隙間なく収まっていた。

目を奪われるほどに圧巻だった。なんと言うか、ファンタジーのイラストとかでよく見る感じの図書館。


「ねぇ、聞いてもいい?」


不意にラフィネ様が私に声をかけてこられた。

視線は私の方に向いていなくて、近くの本を手にとって、ページをめくっていく。

その姿は絵画のように本当に綺麗だった。


「どうして、お父様の誘いを受け入れたの?」

「……ラフィネ様はどこまでお聞きになりましたか?」

「娘ができたということだけ。詳しいことは聞いてないわ」

「……そうですか。えっと、一言でいえば、新しい人生を歩むため、ですかね」


過去の話をここでするのは、同情を誘っているようで嫌だった。

もし、あの時シュタルク様の手を取らなかったら、私は死んでいた。殺した相手は魔物かもしれないし、あの家族かもしれない。私は死にたくなかった。今度こそ生きて、幸せになりたかった。そして、シュタルク様からのお誘いはまさにチャンスだった。だから私はその手をとった。


「人の時はいい生活ではなかったので。知りたいことも知ることができなくて、ずっと無知のままでした。生まれ変わって、私自身がちゃんと、私にならなくてはならないので」


後半はシュタルク様がおっしゃったことを少し言い換えただけだけど。

結果として、私は無事に龍族になった。そしていま、こうやって知りたいことを知るチャンスがやってきた。まぁ家族関係は頑張りましょう状態だけど、私自身がしっかりと行動で示さないと!


「そう……まぁ何はともあれ、私は貴女を妹として受け入れる。わからないことがあれば言いなさい」

「ありがとうございます、ラフィネ様」

「……しばらくは、私が部屋と書庫の送り迎えをしてあげる。暇があれば、城内も案内してあげるから」

「ありがとうございます」

「しばらくしたら迎えに来るから、それまでは自由に読んでいいから」

「はい」


そのままラフィネ様は書庫を出られた。

しんと静まりかえる書庫は私だけになってしまった。少し、寂しい感じもしたけど、思いっきり両頬を叩いて気合を入れて、私は書庫の本を一冊ずつ読んでいった。

とはいえ、これだけの本を全部読むのは大変だ。せめてまずは、私が知りたいことが書かれている本だけでも読みたいと思った。


「えっと、知りたいのは、とりあえずは祝福と寵愛のことかな」


本の文字はレイモンドに教えてもらったのと同じで、共通語のようでよかった。

でもやっぱり、違う文字もあるから、種族ごとに言葉があるのだろう。そこもまた、おいおい覚える必要がある。


「あ、この本だ」


少し分厚めの、赤紫の冊子。

背伸びをしてそれを引き抜き、近くの椅子に腰掛けて目を通す。

手にした本は、祝福と寵愛がなんなのかという説明と、能力について。そして、私と同じように祝福と寵愛を受けた人たちの意見というか、自分はこうだったということが記されている。


「この二つの説明はシュタルク様にざっくりと教わったから今は読み飛ばそう。とりあえず、どういう能力が発現するのか知らなくちゃ」


ページをめくっていき、この能力の種類について読み進めて行く。

記されているものを読み進めて、魔女の寵愛に比べて女神の祝福を受けた人の人数はかなり多い。

女神は人々を平等に愛す。魔女は一途に人を愛す。だから、これだけ数に差があるのかも知れない。

祝福の実例について、いくつか目を通すと。


——— 私が受けた祝福は、好意を向けられているときは《小さな可愛い妖精》で悪意などを向けられたときは《悪戯っ子の妖精》が見えました。


——— ワシが受けた祝福は、好意を向けられているときは《白いワタのようなもの》が飛んでおり、悪意などを向けられたときは《黒いほこりみたいなもの》が飛んでおった。


——— 俺が受けた祝福は好意を向けられているときは《ハートみたいなもの》が飛んていて悪意などを向けられたときは《針の塊みたいなもの》が見え。


「意外と、人によって見え方は違うのか……でも、数が多い分、思い当たるものがあるかも知れない。次は……」


次のページ、次のページと、自分の思い当たる事例がないか読み進めていく。

そしてやっと、思い当たるものを見つけることができた。


「好意を向けられているときはその人の周りが《キラキラと輝いて》見えて、悪意などを向けられたときはその人の体から、《黒い靄》が溢れ出ていた……あ、これ……」


思い当たることがある。好意の方は、先ほど家族にお会いした際にアルバ様の周りがそう見えた。彼女だけじゃない、前の屋敷でも、新人の使用人やクルシュ王子の周りにもキラキラと光るものが見えた。


「エフェクトじゃなかったのか……」


そして、黒い靄。これは薄々気づいてはいた。フィエルテ様や元姉、元使用人などなど、振り返ってみれば多くの人の体からこの靄が溢れていた。

アンジュ自身、それについて幼い頃に両親に話したことがあったが、頭のおかしい人間扱いされ、ひどい罵倒と暴力を振るわれた。


「嫌なこと思い出した……」


とにかく、自分が受けた祝福の力の見え方はわかった。

次は寵愛についてだ。

寵愛は、女神の祝福とは違い、一人の魔女から一人にしか寵愛を受けられない。つまり、魔女の数だけ寵愛者がいるということだ。

寵愛者の能力は例外がなく、全員が同じ力だそうで、《自分に触れてくるものへの拒絶》だそうだ。主に、無機物以外の物理的な接触を拒絶する能力らしく、寵愛を与えた魔女、または寵愛を受けた者が許さない限り触れることができない。とのことだった。

私自身の実体験は、ここに来てすぐの窒息死ギリギリ耐久ゲームの時。あの時は、すでに触れられてる状態で、途中で力が発動した感じだった。


「祝福も、寵愛も、コントロールはできるみたい。親切だなー、ちゃんとやり方も書いてある」


特に寵愛は、自身の身を守るためにコントロールできるようになっておいたほうがいいと書かれている。そうすれば、触れられる前に拒絶することができるらしい。


「うん。とりあえず理解した。ラフィネ様がいつ来られるかわからないし、ここから色々関連付けながら本を読んでいこうかな」


書庫の中は暖かい。心地いいと思えるほどの気温で、快適に過ごすことができた。

ただ、少し不思議に思ったのは側にあったテーブルに、いつの間にか飲み物があったことぐらいだ。


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