19話
「認めません!」
城に入ると、シュタルク様は近くにいた使用人に事情を話して、私を綺麗にしたり、服の準備をしてくださった。
前はイヤイヤでされていたけど、ここの使用人さんは、それはもうニコニコととても嬉しそうに私を洗ってくれたり、ドレスを着せてくれたりした。
私がそんな風に身支度を整えている間に、シュタルク様は家族に私のことを話してくださっている。
身支度を整え、指定された場所へとやってくると、シュタルク様とそのご家族がいた。
全員、赤毛に赤い目。さすが龍の国の王族。全員が赤の魔力量を持っている。
「ヘルツ、そこに座れ」
「あ、はい」
シュタルク様に言われ、私は唯一空席となっている席に腰を下ろす。不意に視線をあげると、あからさまに一名、こちらを睨みつけている男がいた。
一人一人紹介を受け、その男性が私の兄となる人であるとわかった。名前は、フィエルテというらしく、確か門番が話していた人だ。
元姉と同じように一目で私をよく思っていないのがわかる。目に見えてはっきりと。
そして、私のことも紹介してもらってすぐに、さっきの言葉をこれから兄となるフィエルテ様がテーブルを叩きながら口にされた。まぁ、ですよねー。
「父上、なぜ叛龍などをおつくりになったのですか!我々は王族。全員が聖龍なのですよ!」
「フィエルテ、私が何をしようと私の勝手だ。それよりも、今お前はヘルツを物のように発言したな」
「……失言だったことは認めます。しかし、純潔の龍である我々の家族に半龍ならともかく……」
またぎろりと睨まれた。そんなこと言われてもなぁ……全部私が悪いみたいな顔されても困る。
「あらあらいいじゃない。だって、この人の魔力で生まれた子でしょ?とてもすごいことよ」
ルンルンとされている、シュタルク様の隣に座られている女性。これから私の母となられるアルバ様。
アルバ様は随分私に好感を持ってくださっているようで、キラキラとした光が見えるほど、満面の笑みを私に向けてくださっている。
「何を呑気なことを!確かに父上の魔力で龍族になったのはすごいことかもしれません。しかし!」
「お言葉ですがお兄様。お兄様がそこまで激しくこの子を否定してるのって、見た目がお父様と瓜二つだからでしょ?」
フィエルテ様の向かい側、少し彼を睨むように話されているのが、私の姉となるラフィネ様。目を奪われるほどに美しい彼女に、ついつい私は見とれてしまう。
「実子は誰一人お父様に似なかった。でも、この子は叛龍でありながら、お父様と同じ髪色。次期後継者の地位を奪われると焦っての否定でしょ?」
「そんなわけないだろ!大体、お前はあれを認めるというのか!叛龍を、王族として」
「……お父様、一つ再度確認してもよろしいでしょうか」
「なんだ」
「本当に、お父様からあの子に、子供にならないかと言われたのですか?あの子が、縋ってお願いして、仕方なくではなく」
対面にいるフィエルテ様とは対照的に、落ち着いた口調で冷静にラフィネ様はシュタルク様に尋ねられた。
凛とした姿勢と雰囲気は、元姉や妹ととは比べ物にならないほど、貴族……王族らしい振る舞いだった。
「あぁ、私からあの子にもちかけた。それは事実だ」
「そうですか。それならば、私はあの子を妹として受け入れます。もともと種族が違うのですぐには仲良くなることはできませんが」
「それで構わない。あの子も知らないことが多いからな」
「ふざけるな!」
ラフィネ様は納得したようで、すぐに体の向きを元の位置に戻して、軽く頷かれた。
しかし、フィエルテ様はそれでも納得はいかないよで、先ほどと同じように激しくテーブルを叩く。怒りで顔は歪ませ、感情が高ぶり息を荒げていらっしゃる。酷く私を毛嫌いされているようだけど、ここまでくると一周回って清々しいとさえ思えてしまう。
「あれを、受け入れるだと……お前、正気か」
「えぇ。あの子からの求めたのだったら受け入れませんでしたが、お父様の意思であれば文句はありません」
「だがっ!」
「それに、彼女はお父様の魔力で生まれたのはもちろんですが、祝福と寵愛の両方を受けているのでしょ?そんな子を否定するなど、それこそあり得ないでしょ?」
私にはまだ知識がない。だけど、この国の人々にとって私という存在は随分特別らしい。特別ではあるが、恐らくフィエルテ様がお怒りになっているのは、何よりも血を重要視しているからだろう。
どんなに偉大な父の魔力から生まれ、祝福と寵愛を受けていたとしても、王族は純潔の龍族。私が入ることでそれを汚されると思っているのだろう。
「否定的なのは、お前だけのようだな、フィエルテ」
不意に、両側から誰かに服を引っ張られた。
視線を向ければ、小さな龍族の男の子と女の子がいた。
「新しいお姉様!」
「新しいお姉様、お父様と、同じ髪」
「アン、ノー!そいつから離れろ!」
「「いや」」
これから私の妹と弟になる双子。妹のアンブルと弟のノブル。双子ではあるがあまり顔は似ていないので、見分けはつきそうで安心した。
無邪気な笑顔。元妹や弟よりも幼く、もしかしたらまだ私という存在がどういうものかもわかっていないかもしれない。だから、こうやって私にはしゃいでるかも知れない。いっときの事かも知れないが、それでも、嫌われるまでは仲良くしたいと思った。
「あのねあのね!ヘル姉様って読んでいい?」
「読んでいい?」
「え、あぁうん。いいよ」
ヘル。というのは愛称だろうか。フルネーム三文字だけど、このぐらいの子は多く感じるのかな?大して変わらないだろうに。
「とにかく、お前がどんなに否定してもヘルツは今日から私の娘だ。良いな」
アルバ様とラフィネ様は頷き、両側にいる双子は手を上げながら返事をする。そして、フィエルテ様は返事はしたものの、納得はしていないようで、再び私を睨みつけて部屋を出ていった。
「すまないな、ヘルツ」
「いえ、お一人ぐらいはいらっしゃると思っていたので。ただ、他の方がここまですぐに納得されたのは少し予想外でした。」
すぐに受け入れてもらえないのはなんとなく予想はしていた。むしろ全員大歓迎じゃなくてよかったと、少しホッとした。
「さて、紹介も済ませた。お前はこれから足りない分の知識をつけてもらう。ラフィー。書庫の場所を教えてやってくれ」
「かしこまりました」
「えー、お勉強?」
「遊びたい」
「彼女は、龍族になったばかり。それに彼女自身、常識も踏まえて色々と知識が足りないのだ。しばらくは我慢しなさい」
「「はーい」」
「それじゃあ行きましょうか?」
立ち上がり、私の隣に立つラフィネ様に言われ、私は慌てながらも返事をして後をついていった。




