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2話

激しくえずく。

体は冷たい水のせいで酷く冷えてしまってガタガタと震える。

誤って飲み込んでしまった水を吐き出すように、喉を痛めるような咳をする。

酸素が脳に巡っていなかったせいか、頭もうまく回らない。だけど徐々に周りの音が聞こえる。


「チッ、もう終わりかよ」

「兄さんが強く頭を押すから、すぐに弾かれたじゃん」

「お兄様が最下位」

「それじゃあ兄上、約束守ってくださいね」

「はーあ、しゃーねーな」


見知らぬ男女の声が聞こえた。

かなり大きく声が聞こえるから近い距離にいるのだろう。なのに、全くと言っていいほどこっちのことを気にした様子はなかった。


「おい、きたねーから今日は馬小屋の方で寝ろよ。優しいから、井戸の水は好きに使うことを許してやる」

「わぁ、兄さん優しい」


偉そうな男の言葉に、周りの男女がきゃっきゃっと騒ぎ立てる。あぁこの感じ、学校の陽キャ男女を思い出す。無駄に騒いで本当うるさかったなぁ。


「あぁ?んだよその目」


私はただ、視界がぼんやりしていて、相手の事がよく見えていないから見ていただけなのに、相手にはそれが睨んでいるように見えているようだ。

まだ息苦しさがあるせいで言葉も馳せないため否定したくてもできなかった。


「生意気なんだよ!」


予想外の行動だった。

近づいてきた男に思いっきり殴られ、次は何度も蹴られ、踏まれた。

なんで自分が見知らぬ男にこんなことをされるのか全くわからない。


「ダメですよお兄様。これでも女の子なんですから」

「そうそう。兄上は加減を知らなすぎです」


柔らかい、可愛らしい男女の声。その主たちがゆっくりと私に近づく。手に、何かを持って。


「あーあ、かわいそうな”お姉様”。そんなに服を汚してしまって……私たちが綺麗にして差し上げますね」


可愛らしく、優しい言葉と裏腹に、私に襲ってきたのはとんでもない量の冷水。それが勢い良く私にかけられた。

さっきは肩より上が濡れていたが、今ので体全体がびしょびしょに濡れてしまった。量が量だったため、かけられた時に思わずその場に倒れこむ。

冷たい水が、私の体の体温をどんどん奪っていき、カタカタと私は震えた。


「ほら、これで綺麗になった」

「あーあ、私たちってなんて優しいんでしょうね」


寒さで震える私を見下ろしながら、クスクスと笑う幼い男女の声。

明らかに自分に向けられている悪意。その悪意を感じて私の頭の中に覚えのない記憶が流れ込み、そして理解した。

不意に鐘がなる。時間を知らせる鐘だった。

それを聞いて、男女は軽いため息をついてその場を離れて行く。


「あぁ、さっきのは冗談じゃないからな。屋敷に入ってきたらただじゃすまないからな」

「さすがにお姉様も立場を巻きまえてると思いますよ」

「そうだよ兄さん。兄妹と思うのも悍ましい。あんな”呪い持ち”と同じ血だなんて」


憎々しい声を上げながら、男女はその場を離れて行く。

私は、しばらくして体を起こしてぼんやりと彼らが去って行った方向を見つめる。

大きなお城のような屋敷。この領土では一番大きな屋敷。領主の屋敷。そして、彼女ワタシの家。

ゆっくりと、側にある木の桶の方を向く。中には数センチほどの水位がある水が入っている。その水に反射して自分の姿が映っている。

自分が知っている姿とは全く違う姿。薄汚れてくすんでしまった金髪に、毒を注がれたように濁ってしまった青い瞳。

アンジュ・シュタッバーテン。この領土の領主の次女であり、私の転生先の体である。


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