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17話

暗い暗い森の中。淡い光を灯しながら、私はシュタルク様の隣を歩く。

道中多くの魔物が襲って来たけど、龍族の長である彼にとっては大したことじゃなかったみたいだ。

歩いた道には、ただただ魔物の死体が転がるばかり。


「あ、できました。水の玉」


龍族の国への出入り口まではまだ距離があり、シュタルク様は襲ってくる魔物を軽くあしらっている感じ。この森にいるのは、人間にとっては恐ろしい魔物だが、龍族にとっては兎や狐、狸と大して変わらないらしい。それこそ、苦戦するような魔物なんて、突然変異や、共食いをして力を得ない限り現れないとシュタルク様はおっしゃった。

そんなわけで、ないにも等しい魔物退治をしながら、私は今、彼に初歩的な魔法を教わっている。

白い魔力量にしろ、赤い魔力量にしろ、龍族の魔力は膨大。できないことはないと言われたんだ。せっかく来た異世界で、魔法を使わないなんて勿体無い。


「まぁ、私の娘になったんだ。それぐらいできて当然だ」

「……どのレベルのものができたら褒めてくださいますか?」

「魔法は褒められるために学ぶものではない」

「そうですけど……私は、シュタルク様に褒めていただきたいです」


龍族の長に褒めてもらえるなんて、とても光栄なこと。どんな言葉よりもきっと嬉しくて誉高くて、自信がつく。


「お父様ではないのか?」

「ぅぐ……まだ、なれなくて……それに、呼び慣れない言葉ですから」


今頃、あの家族は宴でもしているのだろうか。

お荷物の、忌まわしい子供がいなくなり、家族も、使用人も、きしも、全員喜んでいるのだろうか。

因みに、私をこの森におびき寄せた理由であ流、龍族が私に会いたがっているというのは嘘らしい。

元々、龍族とシュタッバーテン家が交わしたこの約束はあくまでシュタルク様と当時のシュタッバーテン家の当主との間に交わされたもので、約束を継続する必要は当主が死んでからはないらしい。それでもその関係を続けているのは、あくまでも気まぐれだったり、たまに面白いものを人間が考えるかららしい。

一応シュタルク様は私が龍の国の生活に慣れた頃に、あの家との関係を……人間たちとの関係をこれからどうするか考えると仰っている。


「シュタルク様、一つお願いがあります」

「なんだ」

「もし、私がすごい魔法を使えるようになったら、私を褒めてください。たくさんたくさん、褒めてください」

「……そんなことでいいなら、いくらでも褒めてやろう」

「やった!じゃあ魔法いっぱい覚えないと」


もうどのくらい歩いただろうか。景色は一向に変わることはなく、まるで同じ場所をぐるぐる回っているように感じる。

相変わらず魔物のうめき声は聞こえるし、足元も悪いから魔法に集中しすぎると足を取られて転びそうになる。その度にシュタルク様に助けてもらうのは申し訳ないのだが……


「あ、また失敗した。難しいな……」


早くこの森から出たいと思うけど、長ければ長いほど私には好都合。その間に、シュタルク様にたくさんの魔法を教わることができる。

水を出したり、火を出したり、小さな風の渦を作ったりと、まずはしっかりと魔法を使うということを学んでいく。体の中をめぐる魔力を、意識せずにそれが当たり前のように出せるように。


「魔法はイメージが大事だ。気負いせずに、まずは丁寧にやれ」

「はい」

「それに、お前は知識が足りない。国についたら、まずは頭に知識を詰め込むことに集中しろ」

「作法とかは、そういうのはいいんですか?一応私、シュタルク様の娘、龍の王族ということですよね」

「そこは少しずつ覚えればいいさ。まずは足りないものを補う必要がある」


何よりも知識。確かに、私は何も知らない。知りたくても知れなかったというのが正しいかもしれない。

だからこそ、シュタルク様は私に知りたいことを好きなだけ、自由に知れるようにしてくださっているのかも知れない。そうなのかはわからないけど。


「祝福や寵愛の力も、今はうまく使えていないのだろう。そこの訓練も必要だ。作法を学ぶ時間は今はないだろう。まずは、お前自身がちゃんと、お前にならなくてはならない」

「私が、私に……」


種族が変わっても、祝福や寵愛が消えることはなかった。

忌み嫌われ続けたこれは……龍族の間ではどのように扱われるのだろうか。シュタルク様の反応からして酷い扱いは受けないだろうが、少し不安にも感じる。


「あ、龍族といえば。あの、シュタルク様。龍……ドラゴンになることは可能でしょうか?」

「ん?あぁ、確かにドラゴンになることはできる。だが、お前は無理だな」

「無理?」

「ドラゴンになることができる龍族は、聖龍と呼ばれる純血の龍の血を引くものだけ。お前のように元は別の種族だったり、少しでも他族の血が混ざっているものは、ドラゴンになることはできない」


なるほど。純血のみの特権ということなのか。別になりたいというわけではなかったけど、ちょっと残念に思ってしまった。


「シュタルク様のドラゴンの姿は、きっと美しいんでしょうね」

「……機会があれば見せてやろう」

「本当ですか!楽しみです!」


すると、少し先の方に光が見えた。

灯用で出していた光の玉を消し、シュタルク様が歩き始める。

あの先が龍族の国。私はもちろん、アンジュも足を踏み入れたことのないところだ。緊張する。突然現れて驚かれないだろうか。嫌な顔をされないだろうか。シュタルク様に迷惑がかからないだろうか。


「そういえば、お前に名を与えていなかったな」

「え、名前って」

「龍族になったお前は、もうアンジュ・シュタッバーテンではないだろう」


そうだ。今の私は龍族で、シュタルク様の娘。もう、私は人間ではない。アンジュ・シュタッバーテンではない。


「そうだな……ヘルツ。お前は今日からヘルツ・グナーデだ」

「ヘルツ……」

「”心”という意味だ。気に入らないなら別に考えるが」

「いえ、そんなことはありません。ヘルツ……名をいただけて嬉しいです」


心か……重い。って思うのは、現代っ子だからかな……でも、この世界じゃ名前にはそれだけ重い意味を込めるのは当たり前なのかも知れない。何より、シュタルク様がつけてくださった名前だ。大事にしよう。バカにする奴がいたら泣かせる。泣かせて、立ち直れないほど心をぼきぼきにしてやる。


「何をしている。行くぞ」

「あ、はい」


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