15話
シュタルク様は教えてくださった。私の、首に咲く二輪の花について。
《愛》とは言われが、この花にはちゃんとした呼び方があるそうだ。
——— ルドベキアの模様の方は《女神の祝福》。
女神は、人々を差別なく愛し、多くの者に祝福と言う名の力を与える。
その力は、自分への好意と悪意を見分けると言われている。
——— 対し、薔薇の模様の方は《魔女の寵愛》。
魔女は、人々を誑かして欲を満たすが、たった一人の寵愛者に力を与える。
その力は、力を与えた魔女、または授かった者が許可を出さない限り、触れることが許されない拒絶の力だと言われている。
そう、この模様は、女神と魔女が愛した証だと。
決して呪いだと、酷い扱いを受けていい存在ではないと。むしろ愛されるべき存在だと、そう、シュタルク様はおっしゃられた。
愛されるべき存在……私は……アンジュは……。
「……好きなだけ泣くがいい」
目から涙が溢れる。
それは、安堵からくる涙だった。
家族から愛されなかったアンジュ。生まれてからずっと、酷い扱いを受け続けた彼女。臆病で心の弱い彼女は、ずっと自分のせいだと口にしたが、本当は、愛されるべき存在だったと。呪いは、呪いではなかったのだと。それがわかっただけでも、あの子の人生は道を変えれば幸せな世界だったんだと知れてよかった。
「しかし、残念だ。事実を知る前に、入れ替わってしまったのだな……」
「え?」
シュタルク様がポツリと溢された言葉に、私は思わず顔を上げてしまった。
だって今、入れ替わってるって、言った。
「その体は、元々別の者の体だろう。体と、魂の色があっていない……」
「……わかるの、ですか……」
「あぁ、500年生きてきた中で、僅か10人ほどだけだが、お前と同じように、体と魂が違う者を見たことがある」
「10人……」
その、見分ける力は龍族だけのものだろうか……それなら、レイモンド……人間が知らなくて当然だ。そうか、私だけじゃないんだ……。
「はい。シュタルク様のおっしゃる通りです。この体は元々私のモノではありません」
この方は、私が知りたかったことを知ってらっしゃった。だから私はこの方に全てを話した。
元々はこことは違う世界の人間で、死んだことをきっかけにアンジュにこの体を押し付け……託されたことを。
「なるほど……そなたの境遇はわかった。同時に、その体の持ち主の境遇も。ならば、いっそう……そなたも、その体の持ち主も、次は幸せになるべきだ」
優しい微笑み。やっぱり、とても綺麗な顔だ。キラキラと、輝いて見える……。
シュタルク様は、そっと私の手を取り、さっきと同じ言葉を口にして、私をお誘いする。
「私の子に、ならないか?」
「……いいのですか……祝福や寵愛を受けてるとはいえ、私は人間ですよ……」
「それについては問題ない。この世界には、とある魔法が存在する」
「とある魔法、ですか?」
「あぁ、今からお前に、種族を変える魔法をかける」
「種族を変える魔法、ですか?」
その魔法は、【種族転換】と言うらしく。種族を別の種族に変えることができるらしい。
つまり私はこれから、人間から龍族へと生まれ変わるとのこと。
この魔法は上位魔法に分類され、一歩間違えれば死んでしまう、とても危険なもの。成功例は、あまりないとのことだ。成功したとしても、魔法を使用したものが死ぬと言うことが大半だとか。
「もし成功すれば、魔力の量も変化する。それにより、見た目も変わる。そうなれば、お前であることは知られることはない」
「……姿を変え、種族を変え、新しい人生を歩む……」
でもそれって、私(魂)はそのままにアンジュ(体)は消えるってことだよね……いいのかな……あの子は、許してくれるのかな……
———— 私の体は自由にしてもらって構いません。
「……わかりました。私を、シュタルク様の子供にしてください」
「わかった。だが、一つ確認だ。死ぬ覚悟はあるか」
今更です、シュタルク様。私、あなたがここに来なければ死んでいたのですから。それに、貴方の子になれないなら私には死ぬ以外の選択肢はありません。
そんなことを聞くと言うことは、きっと痛くて苦しんだろう。でも、それを乗り切った先、私は愚かな人間ではなくなる。憧れていた、人以外の存在になるんだ。
「もちろんです。言ったじゃないですか。死ぬならあなたに殺されたい、と」
「……そうだったな」
そっと、シュタルク様の手が頭に乗る。空気が変わった感じがする。
風が吹いて木々が揺れているのに音が聞こえない。まるで、世界が遮断されたような感じ。
同時に、体が徐々に熱くなるのを感じる。徐々に徐々に、血液が沸騰するような感じ。暑い、暑い、暑い……このまま燃えてなくなりそうだった。
意識が遠くなる。あぁ……失敗かな……私、このまま死んじゃうのかな……悔しいな……人外になれるチャンスだったのに……
だめだ、心が諦めてる。死ぬことを受け入れようとしている。
『がんばれ』
誰かが、私の左手を握る。
誰かが、私の右手を握る。
そして、同時に私を励ましてくれた。
そうだ……私は幸せになるんだ。私だけじゃない。あの子も……私にこの体をくれたアンジュの分も、私は幸せになるんだ!!




