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1話

薄ぼんやりとする視界。

周りの声はヘッドホンをつけている時みたいにかすかに声が聞こえる。

腹部には鈍い痛み。なぜか動かない体で視線を下に向ければ、自分のお腹に何か長いものが刺さっているようだった。

必死に、こうなった原因を思い出そうとした。

あぁそうだ。そうだ。思い出した。なんて嫌な結末なんだろう。反吐が出るような結末だ。

恋愛小説が好きなただの一般人の私に学園の王子様的存在の幼馴染がいて、それが原因で虐められた。

特に気にしていなかったけど、そんな私の側にいたのが大事な親友。だけど、その親友の目的は幼馴染への好感度アップだった。何かを喚き散らした後に、私はその子に刺された。幼馴染の目の前で。

あぁ、今口論してるのはその幼馴染と友人か。僅かに私の視界には男女のシルエットが見えた。救急車の音も聞こえない。他に人の声も聞こえない。たとえ今から呼んだところで私は助からないだろう。

あぁ本当にクソだ。なんだこれ……私はただ普通に生きていて、たまたま幼馴染が周りにとってのイケメンだっただけなのに。私は特別な感情も抱いていないのに、そばにいるだけで嫉妬されて、疎まれて。挙げ句の果てに殺されて……散々すぎる人生だ。

痛みにもがくことも出来ず、私は静かにその命を落として行く。死を体験するのなんて人生に一度きり。刺されて死ぬと、もっと痛みにもがくかと思ったけどそうでも無いみたいだった。もがけるほどに体が動かない。

不思議と死ぬことへの恐怖なんてものはなかった。元々、いまの人生をひどく嫌っていたので。寧ろ嬉しい限りだった。

でも、叶うのであればもう少しロマンチックに死にたかった。理想としては、人魚姫みたいな死に方。流石に泡にはなれないけど、深海に沈みながら死んでいきたかった。

本格的にやばくなってきて、もう周りの音も聞こえなくなってきて、体も全く動かなくなってきた。辛うじてまだ視界だけは保っているが、今だに写っているのは男女のシルエットだけ。

言い合いしてないでいい加減通報でもなんでもいいからすればいいのに……まぁ死人に口なし。もう私には関係ないや。あぁ、もし本当に転生っていうものがあれば……次は……



———タスケテ



「え?」


気づいたその場所は見知らぬ謎の空間だった。

辺りは真っ暗で、自分がいる場所だけが明るい。まるで、ステージ上でスポットライトを当てられているような。

いつの間にか椅子に座り、いつの間にかティーカップを手にしていた。

体の痛みもなく、視界もはっきりしているし、耳にもしっかりと環境音が聞こえる。

確かに自分はあの時死んだはずなのに。


『もう、私は耐えることができません』


不意に聞こえたその声は、テーブルを挟んだ向かいの席に座っている。

しっかりと姿を認識することはできない。だけど、女の子であることは声で認識することができた。


「貴女?」

『私の体は自由にしてもらって構いません。好きに振る舞ってください』

「ちょっと待って、どういうこと。ここはどこなの?」

『勝手なことは重々承知です。でも私は……』

「ねぇ!」


目の前にいるはずなのに、私の言葉が彼女に届いていないみたいだった。

勢いよく椅子から立ち上がって彼女に手を伸ばそうとして。

だけどその時、急に酷い息苦しさを感じた。

手にしていたカップが床に勢いよく落ちて、空間に音が鳴り響く。

テーブルに片手をついて、逆の手で自分の首に手を持っていく。必死に息を吸うが息苦しさが消えることはない。


『私だって、こんな風に生まれることを望んだわけじゃない。ただ、家族と幸せに暮らしたかった。それが望まれないのであれば……』


次に瞬きをした時、目の前にいた女の子はいなくなってしまった。

あの子は一体誰だったんだろう。

だけど、そんな事を考える余裕はない。体を腕一本で支えるのも辛くなってきて、そのまま崩れるように床に倒れた。

何が何だかわからないが、その息苦しさを感じてる中で、次に誰かに頭を押さえつけられているような感覚に襲われる。

本当に何が起きているのかがわからない。理不尽に殺された次は、訳もわかない空間で息苦しさを感じて死んでしまうのか。

そんな事を考えると、次は無いはずなのに顔に水の感触がした。

それを認識すると、頭の中で今自分が水の中に顔をつけて誰かに押さえつけられているビジョンが浮かんだ。そのイメージのせいなのか、より一層息苦しさを感じ、いないはずの背後に向かって腕を伸ばす。

口から唾液が溢れ、目から涙が溢れる。

別に誰かにされているわけでも無いのに、心の中で一思いにやってほしいと願ってしまう。

こんな風に死にたく無い。こんな苦しい思いをして死にたく無い。

いやだ!いやだ!いやだ!

やめて!やめて!やめて!

嫌だ……死にたくない……こんな風に、死にたくない……こんな、訳も分からず死ぬなんて、理不尽だ……

苦しい……嫌だ、嫌だ!!

心の底で、悲鳴のように私は叫んだ。だれかが聞いてるわけでもないのに。

聞いている訳もない、そう思ったけど、そばにだれかがいるような気がした。その人が、私を優しく抱きしめて、まるで私を襲う魔の手を払ってくれたような、そんな気がした……

息苦しさに襲われる中、何かが弾けるような音が聞こえると同時に、私の意識は途絶えてしまった。


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