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第21話 再会

 セイヤがダリス大峡谷に到着するのに時間はかからなかった。


 道中で従えた馬を走らせることで直ぐに辿り着いた。暗黒領は魔獣の住処であるが野生の動物もいる。あくまで人間が生活するのに適していないというだけである。


 ダリス大峡谷の入り口には先客がいた。


 白い鎧を纏った銀髪の男を筆頭にした集団である。その数は全部で七人だ。


 彼らは俗にバジル隊とよばれる聖教会直属の小隊である。十三使徒はその性質上から自らの部隊を率いている。今回バジルはダリス大峡谷の捜索に小隊で挑んでいた。


 セイヤが馬で近づくと小隊の一人が気づく。


「止まれ! 何者だ!」


 セイヤの姿を見てバジル以外が一斉に武器を構える。暗黒領で他の人間に遭遇することは珍しいことであり、相手が学生服を着ているなら警戒するのも当然の事であった。


 この地では遭難者に遭遇するよりも魔獣の擬態を疑う方が自然である。


 セイヤは馬を止めると自らの名を口にする。


「僕はキリスナ・セイヤ。セナビア魔法学園に所属する魔法師です!」

「学生魔法師がどうしてこんなところに……」


 バジルが暗黒領にいる理由を尋ねようとした男を手で制止した。

 セイヤと一度だけ顔を合わせているバジルが初めて口を開く。


「君はレイリアに残るべきだと忠告したはずだが」

「でも僕はここまで辿り着けました」


 自分にもユアを探しに行く資格があると主張するセイヤに対してダリスが魔法を行使しようとした。その魔法は以前と同じようにセイヤを拘束する魔法だが、バジルの魔法は不発に終わる。


 クイック・メーカーの異名を持つバジルが一言で魔法陣を構築するが、それよりも早く魔力の波がバジルの展開した魔法陣を消滅させる。


「これは……」


 十三使徒に籍を置くバジルはセイヤが闇属性を使ったのだと理解した。他の魔法師は闇属性の存在を知らないため気づいていないが、バジルだけがセイヤに警戒感を露にする。


「総員、武器を構えろ!」


 使い慣れた槍を構えるバジルを見て、他の魔法師が慌てて尋ねる。


「隊長、どういうつもりですか!?」

「相手はレイリア国民ですよ!」

「どうしていきなり……」


 闇属性の脅威を知らない部下たちからは非難の声が上がるが、バジルは構わずに槍を構えた。その表情は警戒心に満ちている。


「キリスナ・セイヤといったな」

「はい」

「君の目的は一体なんだ」

「僕はユアを迎えに来ただけです。あなたたちと争う気はありません」


 馬から降りて両手を上げるセイヤだが、バジルの警戒心は解かれない。

 両者の姿に隊員たちが息を飲む。


「では質問を変えよう。どうしてユア・アルーニャはダリス大峡谷に向かった」

「それは僕のためです」

「どういう意味だ」

「級友の一人がユアに僕がダリス大峡谷にいると言ったから、ユアは僕を迎えに行くためにダリス大峡谷を目指したと考えています」

「その話を信じろというのか?」


 セイヤの言っていることは筋こそ通っているものの、内容自体は滅茶苦茶である。

 友人を迎えに行くために地獄まで迎えに行く人間が一体どれほどいるのだろうか。

 普通に考えれば納得はできない。


「僕がユアに惚れているように、ユアも僕に惚れています。だから僕もユアを迎えに来ました」


 愛という一言で片づけていいような話ではない。

 しかしセイヤとユアの二人に限っていれば愛ゆえの行動である。


「ならば君の力は一体なんだ」

「それは……」


 自分の力についてはセイヤ自身も完全にはわかっていない。

 闇属性の使い方は思い出しても何故使えるのかセイヤも知らないのだ。


「十三使徒の一人として君を見逃すわけにはいかない」


 聖教会にとって闇属性は異端の力である。このような場合の対処法としてバジルはセイヤを捕縛、あるいは始末しなければならない。


 聖教会では闇属性はレイリアに災いをもたらす力とされているためだ。


「それは僕がレイリアの人間として認めてもらえないからですか」

「何が言いたい」

「口にするより見せた方が早いでしょう。《光矢》」


 黄色い大きな魔法陣が展開されると峡谷の底に向かって無数の光の矢が放たれる。

 雨のように降り注ぐ光の矢は次々と下にいた魔獣たちを始末していく。

 その光景を見た隊員たちは口を揃えて驚きの声をあげた。


「ひゅー、凄い威力だ」

「ここまで大規模な魔法を正確に行使するとはな」

「彼は本当に学生魔法師なの」

「それよりも今、無詠唱だったぞ」

「隊長の詠唱省略とは別物と考えるべきでしょうね」

「どういう仕組みだ?」


 口々に発せられるセイヤの魔法についての感想であるが、バジルは彼らとは異なる点に驚いていた。


「今のは……光属性か……」

「これで理解してもらえましたか」


 セイヤの目的は魔獣の殲滅でも自らの実力を見せつけることでもない。

 光属性の魔法が使えると証明することだ。


 十三使徒の仕事はレイリア皇国の治安維持であり、その仕事には当然レイリア国民の保護も含まれている。そして光属性の魔法はレイリア国民の証明として最も簡単な方法である。


 世界には五つの基本属性が存在するが、レイリアで闇属性が秘匿されているように光属性が秘匿されている国も存在する。つまり光属性はレイリア固有の魔法であり、その使い手は例外なくレイリアの民と言えるのだ。


 バジルが口を開く。


「君は両方を持っているというのか……」

「そうです」

「君のご両親は一体……」


 信じられないという表情でセイヤのことを見つめるバジル。


 光属性と闇属性の両方を使える魔法師は存在しない。理論上は可能であっても、現実では生まれるはずのない存在である。


 光と闇を持つキリスナ・セイヤという存在にバジルが息を飲む。


「もう一度言います。僕はあなたたちと争う気はありませんし、可能ならば同行をお願いしたいです。ですが無理に同行をお願いするつもりもありません。その時は僕一人でユアを迎えに行きます」


 そこにいたのは落ちこぼれ魔法師でもアンノーンでもない。

 一人でダリス大峡谷に挑めると宣言する優秀な魔法師である。


 セイヤの言葉を聞いて隊員たちがバジルの方を見る。彼らはバジルの葛藤を知らない。


 それでも自分たちの隊長が迷っていることは見て取れた。


 バジルは判断に迷う。闇属性だけを考えればセイヤは始末すべき対象であるが、光属性を考慮すれば保護すべき対象である。


 聖教会の規則にも載っていないイレギュラーな存在である。


 十三使徒としてどうするべきか悩むバジルに隊員の一人が助言する。


「隊長、もし迷っているなら自分の意志を尊重してください。俺たちは隊長の決定を信じていますから」

「グリス……」


 部下の言葉にバジルは決心する。


「同行を許可するが、レイリア帰国後に話は聞かせてもらう」

「問題ありません」


 バジルの決定にセイヤは頷く。隊員たちも微笑みを浮かべた。


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