第2話 過保護な同居人
ユアとセイヤは同じ家に住んでいる。
これだけでは同棲のように聞こえるが、実際はユアの家にセイヤが居候していると表現する方が正しいだろう。もっと厳密に表すならばユアの別邸にセイヤは居候していることになる。
ユアの父親であるライガー・アルーニャはこのレイリア皇国に十二人しか存在しない特級魔法師の一人であり、その家は広大な土地の上に建っている。しかしアルーニャ家がある場所はアクエリスタン地方であり、セイヤたちが通うセナビア魔法学園はウィンディスタン地方に所在している。
ユアはこの春から留学という形でセナビア魔法学園に通っており、出身は本家のあるアクエリスタン地方であった。そのためセイヤたちが生活する別邸には数人の使用人がいるものの、ユアの家族は一人もいないのだ。
「えっと、ユア……何しているの……?」
困惑の表情を浮かべながら突然の来訪者にセイヤは驚いていた。
同じ屋根の下に暮らす者同士、家の中で顔を合わせることは不思議ではない。既に居候を始めてから一ヶ月が経とうとしているのだからセイヤもユアと鉢合わせしたところで戸惑ったりはしない。
それがお風呂でなかったならば。
今のセイヤは生まれたままの姿である。お風呂に入るのだから全裸は当然といえば当然のことだ。そしてセイヤの目の前には同じ一糸纏わぬユアの姿があった。
汗を流すためバスチェアに腰かけていたセイヤは扉が開く音に気づいて視線を向けた。セイヤの居候先は特級魔法師の持ち家ということもあって別邸でも一般的な家庭に比べれば大きな家である。
そのため風呂場も大浴場と表現しても問題がないほど広い。
広い家を管理するために住み込みの使用人がいるほどである。だからセイヤは使用人の誰かが入ってきたのだろうと思い、挨拶をするために視線を向けた。
居候という身である以上、家の者たちに挨拶をしないというのは無礼であるから。しかし、そこにいたのはユアであった。
湯気で全ては見えていないものの、その美しい身体のラインはセイヤの目を釘付けにする。シルクのように白い肌がセイヤの方へと近づいてきた。
「ちょ、ユア!?」
タオルも持たずあられもないユアの姿に動揺したセイヤは慌てて背を向けるが、ユアは構わずにセイヤの下へと歩み寄る。
突然の出来事に頭が追い付かなかったセイヤは目を瞑ることしかできなかった。そんなセイヤを見てクスリと笑みをこぼしたユアはセイヤの背中へと抱き着く。
「ユアさん!?」
「なに……?」
動揺するセイヤとは裏腹にユアは落ち着いていた。ユアの意図が理解できなかったセイヤが震えた声で尋ねる。
「これは一体どういう……?」
「一人にするとセイヤは虐められちゃうから……」
虐めという言葉がザックたちの暴行のことを指していることは明白であった。
ザックたちがセイヤに暴行を加えることはセナビア魔法学園においての日常だ。たとえ教職員であっても自発的に止めようとはしない。魔法師の世界は良くも悪くも弱肉強食の世界である。
十三歳を迎えて魔法の世界に飛び込んだ以上は自力で解決するしかないのだ。だからセイヤは三年以上もザックたちの制裁という名の暴行に耐えてきた。
耐えることで生き抜いてきたのだ。
「いや、でもここなら大丈夫じゃないかな」
「ほんとに……?」
どうにかしてユアから離れようとするセイヤであったが、ユアの腕はがっちりとセイヤの身体をホールドしていた。ザックたちもわざわざ自宅に押し寄せてまで制裁などをすることはない。ましてや特級魔法師一族の家ともなれば猶更である。
「ぼ、僕は大丈夫だから!」
「だめ……」
力ずくでユアの拘束から逃れようと身体を捩るセイヤと、絶対に離さないと抱き着く力を強めるユア。
セイヤを捕まえておくために精一杯の力で抱き着くユアであるから、セイヤの背中には必然的にユアの柔らかい二人の丘がセイヤの背中に当たっている。しかも二人は一糸纏わぬ生まれたままの姿である。
ユアの感触が直に伝わっていた。
何とか意識しないようにと気を紛らそうとするセイヤだが、意識しないようにと考えると逆に意識してしまう。動くたびに背中越しに直に伝わってくる柔らかい感触にセイヤの下腹部が反応してしまう。
慌てて両手を使って大きくなってきた小さな自分を隠そうとしたセイヤ。
「ふふ、セイヤ逞しい……」
しかし両手がそれを覆い隠す前に耳元でユアが囁いた。
(見られた……)
この瞬間、セイヤは自らの敗北を察して白旗を上げた。
数年ぶりにメインヒロインを書いた気がします。