第11話 問題発生
ラーニャたちの見つめる画面の中ではユアが戦っていた。
白を基調とした弓を握るユアが弓弦を引くと黄色魔力で形作られた矢が姿を現し、相手に向かって放たれる。その姿はまるで森に住むエルフのようであった。
「さすがはユアさんね」
「さすがは上級魔法師って感じだな」
「動きに一切の無駄がない」
ユアの戦い方を見て感嘆する一同。
それは担任であるラミアも同じであり、ユアの戦い方を興味深そうに見つめている。
「先生、ユアさんの完全無詠唱も何かの技術ですか」
画面を見ながらラーニャが尋ねる。
その容姿と家系から注目を集めるユアであるが、彼女が最も注目を集めた瞬間は初めて無詠唱魔法を披露した瞬間である。詠唱を短縮できる魔法師は存在するが、完全無詠唱で魔法を行使できる魔法師はレイリア皇国を探してもユアくらいである。
セナビア魔法学園の生徒たちの間ではそのような認識が一般となっていた。
だがユアの無詠唱に関しては教職員も理解できていない。
「残念だけど私にもあれはさっぱりだ。詠唱学のボクト先生が数年前に完全無詠唱魔法理論は証明したけど、ボクト先生いわく実現は不可能って話だ」
ラミアは肩をすくめながら参ったというポーズをとる。
「基本的に詠唱は魔法陣を構築するためのものだ。さっきも言った通り魔法陣は魔法を安全に発動するためのものであり、その魔法陣が脆弱だと魔法を発動はできてもうまくはいかない」
ラミアが説明している内容は魔法師にとっては当たり前の常識だ。
「でも詠唱を一部簡略化することで魔法陣の展開速度を向上させることは可能ですよね」
「そ。その究極系が一言で魔法を行使するクイック・メーカーの異名を持つ十三使徒」
「つまりユアさんは十三使徒以上の実力者ってことですか」
十三使徒という単語にラーニャたちが息を飲む。
「あんたたちもよく知っている通り十三使徒になる魔法師は規格外だ。そして十三使徒と並び、この国の頂点に君臨する特級魔法師も然り」
ラミアが画面に映るユアを睨む。
「その特級魔法師の娘だ。十三使徒と並ぶポテンシャルを持っていても不思議ではない」
ラミアがユアを受け持つようになって一か月が経ち、その実力は嫌というほど思い知らされている。既に上級魔法師という階級を持つユアが学園で得られることは少ない。それなのにユアはわざわざ留学という面倒な形式でセナビア魔法学園にやってきた。
(目的はキリスナ・セイヤなのか……?)
特級魔法師の一人娘が遠くの地から留学をし、アンノーンと蔑まれる魔法師と交流を持った。そしてユアとの接触に触発されるようにしてセイヤが飛躍的な成長を遂げている。
家も記憶も持たない謎の魔法師と、それを導くように現れた特級魔法師の娘。
その歪な組み合わせにラミアは不気味さを覚えた。
前半組の授業が終わると後半組の番となる。
待機室には激戦を終えた前半組の姿があり、その中にはユアの姿もあった。しかしユアの隣にセイヤはいない。一足先に演習場を後にしたはずのセイヤの姿がないことにユアは一抹の不安を覚える。
セイヤの姿は教室にあった。
授業を終えて待機室に戻っても良かったのだが、ザックたちと顔を合わせれば無用なトラブルに巻き込まれるだろう。去り際に見せたザックの表情はクラスメイトに向けるものではなかったことからも今後も距離を取った方がいいに違いない。
既に実力を見せた上に反撃の意志を見せているセイヤであるからザックたちも今までのような態度をとることはないだろう。
「アンノーン!」
セイヤがそんなことを考えていると、教室に一人の男子生徒が駆け込んでくる。
その少年の名前はホア。ザックの友人にしてセイヤへの制裁に加担していた張本人の一人である。
焦った様子で教室に駆け込んできたホアを見てセイヤは警戒心を強める。
先ほどの授業で力の差を示しているが、これで諦めたとは思えない。何かしらの理由で自分を貶める可能性だってある。警戒心を抱くセイヤに対してホアは息を切らしながら告げる。
「た、大変だ! 学園長が!」
その言葉を聞いた瞬間、セイヤは教室から駆け出した。




