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第10話 新しい自分

 画面の向こうで自分が話題になっているとは思ってもみないセイヤはまた一人クラスメイトを撃破して移動している最中であった。


 授業が始まってから既に四人のクラスメイトたちを倒したセイヤは自らの新しい力に手応えを感じている。ユアとの模擬戦では最後に力配分を誤って自滅してしまったセイヤであるが、ここまでは順調に戦うことができている。


 広大な土地を持つ演習場ではセイヤの新しい力は特に相性が良かった。全体的に木々が覆い茂る中を物凄い速さで駆け抜けるセイヤは自由であるが、ある人物が姿を現したことでセイヤの歩みは止まる。


「探したぜ。アンノーン」

「ザックくん……」


 セイヤの前に現れたのはザックであった。そしてセイヤの背後に回り込むようにしてホアたちも姿を現す。


 この授業ではバトルロワイアル方式が採用されているものの、チームを組むことは禁止されていない。むしろ実戦で生き残るためには戦場で信頼できる仲間を作ることが重要であるという考えからチームを組むことは推奨されている。


 実を言うとセイヤが物凄い速さで森を駆け抜けていたのはユアと合流するためであった。先程まで映像でセイヤの姿を追っていたラミアたちにザックたちの姿は見えていない。


 セイヤたちが立つ場所はちょうど死角に当たる場所であった。事前に死角となる場所を調べていたザックたちは上手くセイヤを誘い込むことに成功したという訳だ。


「アンノーン、てめぇは少し調子に乗りすぎた。ここらで力の差ってものを教えてやるよ」


 セイヤを睨むザックの瞳には憎悪が見て取れる。


 これまでもセイヤに対して負の感情を向けてきたザックであるが、これほどまでに憎しみに満ちた表情を浮かべることは初めてである。級友の見せる初めての顔にホアたちも黙って従うことしかできない。


 セイヤは持っていたホリンズを強く握りしめるとザックに向かって答える。


「ザックくん、なぜ君がそこまで僕に執着するのかはわからない。でも、今の僕はもう君に黙って虐げられる弱い存在じゃない」

「アンノーン! いいぜ、力の差ってものを教えてやる!」


 森の中にザックの怒号が木霊する。


「火の加護を授かる信徒が念う。我が思いに応じて、その御霊を顕現せよ。《火弾》」


 ザックの詠唱によって展開された赤い魔法陣から火の弾がセイヤに向かって撃ち出される。その魔法は火属性でも基本の初級魔法であるが、魔法を自由に使えないセイヤにとっては十分な脅威になりうる、はずだった。


 セイヤは、アンノーンは魔法が使えない。


 その認識を信じて疑わなかったザックたちは己の目に飛び込んできた光景に驚愕を隠せなかった。


「光を司る精霊に願い奉る。敬虔な信徒の願いに応えて災厄を遮る盾となれ。《光壁》」


 セイヤが詠唱を唱えると黄色い魔法陣が展開されて光の壁が現れ、ザックの魔法は光の壁によって防がれて霧散する。


 セイヤが使った魔法も光属性の初級防御魔法だ。彼らの年代ならば使えて当然の魔法であるが、セイヤが魔法を使ったという事実にザックたちに大きな衝撃を与えた。


 そもそもセイヤは魔法が不得意なだけであって、まったく魔法が使えないという訳ではない。単純な魔力量ならば並みの魔法師にも勝る。


 ただ魔法陣を使った魔力変換が極度に不得意であり、魔法の発動に必要な魔力量を供給できずに発動しないだけだ。それならば魔力の供給量を底上げすればいい。


 器の出口が狭くて流量が足りないならば、勢いを強めて流量を増せばいいのである。セイヤは体内の光属性の魔力を直接作用させることで勢いを底上げして魔法の行使を実現したのだ。


 しかし魔法の発動に加えて魔力による直接的なドーピングはセイヤの意識をほとんど占有するため、魔法を使う間のセイヤは無防備になるという欠点があった。


 そのため実戦で使うには頼りないというのがセイヤの本音である。だが今回はその欠点を承知の上で魔法を行使した。


 理由は相手に自分も魔法が使えると誤解させるため。これまで魔法が使えないアンノーンと侮蔑してきた相手が目の前でいきなり簡単だが確かな魔法を発動したのだ。


 ザックたちは嫌でも次の魔法を警戒しなくてはいけなくなった。


「アンノーン! てめぇ!」


 セイヤが魔法を使ったという事実にザックの怒りは増していく。

 冷静さを失えば視野も狭くなる。

 だからザックはセイヤのことを見失ってしまった。


「!?」


 ザックの視界が歪む。


 何が起きたのか理解できなかったザックであるが、遠くから自分のことを呼ぶホアたちの声を聞いて気づく。


「ああん?」


 自分の名前を必死に呼ぶホアたちの姿がいつもよりも大きい。


 そればかりか自分の視線が徐々に下がっている。僅かに目を横に向けると、そこには自分の身体が立っている。


 視線よりも高い位置に上半身があった。直後、ドスという音とともにザック視界は地面に落ちた。


 そこでザックはようやく理解する。

 自分の頭が胴体から切り離されて地面に落ちたという事実に。


 ザックの背後にはホリンズを持ったセイヤが立っている。しかし、その姿はザックの目には見えない。


 地面に転がったザックの頭を見てセイヤが告げる。


「僕はもう前までの僕じゃない」


 アンノーンによって首を斬られたと理解し始めたザックが怒号を発するが、その声が轟く前に彼は演習場から姿を消す。


 規定の精神ダメージを負ったために強制終了したのだ。ザックを見送ったセイヤはホアたちの方を向くとホリンズを構える。


「ちょ、調子に乗るなよ!」

「そ、そうだぞー」


 セイヤに向かって武器を構えるホアたちであったが、その言葉を最後に演習場から姿を消す。最後まで彼らはセイヤの動きを捉えることはできなかった。


 セイヤは新しい力で自らを虐げる存在たちに打ち勝ったのである。


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