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織姫と彦星には成れなくて  作者: 烏川 ハル


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2/2

後編

   

「ふう……」

 期待以上の夕食に舌鼓を打った後、夜のメインイベントとして露天風呂に()かる。

 心地よい湯の中から空を見上げれば、冬の星座が浮かんでいた。有名な冬の大三角だ。

 おおいぬ座のシリウスと、こいぬ座のプロキオンと、オリオン座のベテルギウス。シリウスとプロキオンは地球から約10光年の位置に存在するが、ベテルギウスだけは500光年の彼方にあるという。

 ……といった知識は、全て昔の恋人からの受け売りだ。星座や天文学に強い興味がある女性であり、空気のきれいな――星空がよく見える――場所でデートするのを好んでいた。

 一緒に冬の大三角を眺めながら、彼女が口にした言葉を、私は今でも覚えている。

「500光年先だから、私たちが今見ているのは500年前の星のきらめき、つまり500年前の姿なの。そしてあっちの二つは、10年くらい昔の姿……。そう考えると、こうして冬の大三角を見るだけで、長い銀河の歴史を目にする気分にならないかしら?」

 冬の大三角だけではない。夏の大三角も、彼女と一緒に見上げたことがあった。

「こと座のベガと、わし座のアルタイルと、はくちょう座のデネブ。ベガとアルタイルは七夕の織姫と彦星だから、あなたでも知っているでしょう?」

「うん、さすがにわかる」

「遠く離れて、一年に一度しか会えない二人……。本当にロマンチック! ねえ、もしも私たちが同じ状況になったら、どうなるのかしら?」

 そんな冗談を言いながら、明るく笑っていた彼女。

 しかし私の転勤により遠距離恋愛となり、会えるのが一ヶ月に一回程度になったら、あっさり破局を迎えたのだった。

 あれから三年。

 いまだに私は、彼女への想いを断ち切れないのだが……。


「500光年先だから500年前の姿、か……」

 改めて昔の彼女の言葉をリフレインして、ベテルギウスの輝きに意識を向ける。

 私は露天風呂に()かりながら、まさに彼女が言っていた通り「長い銀河の歴史を目にする気分」に(ひた)っていた。

 旅館の運転手が口にした『一昔前』にしろ、私にとっての『三年』にしろ、星々の歴史に比べれば、ほんの一瞬の出来事に過ぎないのだろう。




(「織姫と彦星には成れなくて」完)

   

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