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前編

   

 トンネルより手前にあるホームが、その路線の終着駅だった。

 車内から見た限り、ここまでは無人駅が続いていたようだが、さすがに終点は別格らしい。暇そうな駅員が一人いる改札をくぐって、私は駅前広場に足を踏み入れた。

 駅前広場といっても、数軒の商店に囲まれているだけ。広場の『広』の字に申し訳ないくらいの、小さなところだった。

 そんな規模にもかかわらず、数台の自動車が列を成して停まっている。黄色の車体に赤いラインの入った、いかにもタクシーでございという色合いの車たちだ。

 私と同じ列車から降りた乗客たちは、少数しかいないうちのほとんどが、そちらへ向かっていた。なるほど、立派にタクシーの需要はあるのだろう。

 しかし私にはタクシーは必要なかった。少し周りを見回すだけで、タクシー乗り場から数メートル先に停車しているミニバンが視界に入る。

 白い車体の横には宿の名前が記されていたし、同じ名前入りの法被(はっぴ)を着た男性も(かたわ)らに立っている。

 私が今晩宿泊する温泉宿の送迎車だった。


「一昔前は、うちの近くまで鉄道が敷かれていたんですよ。それなりに名の知れた温泉地ですからねえ」

 初老の運転手は、気さくに話しかけてくるタイプだった。

「赤字区間の廃線ですか。ローカル線には色々とあるのですね」

 先ほど目にしたトンネルを思い出しながら、私は適当に相槌を打つ。

 山奥の秘湯……というほどではないが、少なくとも山ひとつ越えないと辿り着かない温泉旅館だ。その隠されたみたいな雰囲気が人気の秘密、とガイドブックには書かれていた。

 交通が不便になったことは、むしろこの旅館にとってはプラスなのかもしれない。いや、あるいは逆に「転んでもただでは起きない」の精神で、マイナスをアピールポイントに変えようとしているのだろうか。

「地元住民にとっては死活問題ですよ。鉄道の有る無しは、天地がひっくり返るほどの違いです。それでもうちは……」

 彼の言葉を聞き流しながら、私は窓に目をやり、意識を外の景色に向けていた。

 既に紅葉の時期は終わっているが、まだ山々は雪を被っていない。おそらくこの辺りは、かなり暖かい地域なのだろう。

   

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