おまけ2
「アメリア・バーンスタイン!!君との婚約を破棄するっ!」
私はこの一言を放ってしまった事を、一生後悔して生きていくのだろう。
◇◇◇
今や次代のデジェネレス王国を担う立場となった彼女が、今日から公務に復帰すると聞いた私は、いそいそと登城した。彼女の喜ぶ土産を携え、謁見の瞬間を待つ。
侍従の合図があり、臣下の礼をとる。頭を上げるようお声が掛かり、はやる気持ちを抑えて顔を上げると、そこに、私の生涯求めてやまない姿がある。
美しい銀の髪を艶やかに結い上げ、ほんの少し丸みを帯びた頬は薔薇色に輝いている。第一子、ミリウス様をお産みになられてからも変わらず美しい彼女は、女性の成熟した色気を纏っている。
「まあ、オースティン伯爵。お久しぶりです事!」
顔を合わせるなり、アメリア様はフワリと柔らかく口角を上げる。お子を得たからか、柔らかな慈愛がその笑みに加わり、私の心を鷲掴みにした。
「お久しぶりでございます、アメリア様。ご健勝のようで何より」
「ありがとう。伯爵もお元気そうね。一年振りぐらいかしら?」
丸々一年と2月、お会いする事が出来なかった。彼女と会える日を指折り数えていたと知ったら、彼女はどう思うだろうか?
「随分と久しぶりの登城だな、オースティン伯爵」
彼女の横から険を含んだ声が聞こえ、視線を移すと不機嫌そうなエリオット殿下が、彼女の腰をしっかりと抱いている。お子を得たといっても、彼女への執念深い愛情は変わらない様だ。
「私が呼んでも忙しいと言ってなかなか登城しないのに、アメリアが復帰するとなった途端、暇になったようだな?」
エリオット殿下の嫌味な口調に、私は笑みを浮かべる。
「申し訳ありません。ですがアメリア様のお戻りにどうしても間に合わせたいものがございまして」
「まあ!オースティン伯爵?もしかして…」
彼女の期待の籠った声に胸を高鳴らせ、私は持っていた箱を捧げる。
「まあぁ!なんて美しいの!」
「ほぅ…」
アメリア様のサファイアブルーの瞳を映したような、鮮やかな青。バーンスタイン領の絹織物の職人と我が領の染料職人が新たに開発したものだ。
「素晴らしいわ。なんて深みのある青」
アメリア様のサファイアブルーの瞳がイキイキと輝く。興奮したのか頬が紅潮し、うっとりとした表情を浮かべる。
「公務を休んでいる間も、オースティン伯爵からは何度もお手紙で進捗をご報告頂いてましたけど、とうとう出来上がったのね!」
「ああ。私も目を通させて貰ったが、とても熱心に細かく毎日のように報告を上げてくれたな。オースティン伯爵も忙しいだろうに、ご苦労だったな」
ねちっこいエリオット殿下の言葉に、私は内心ヒヤリとする。報告にかこつけて毎日送っていた手紙は、エリオット殿下も目を通すと思っていたので、私の気持ちが溢れ出ない様に気をつけてはいたが、彼女への賛辞までは抑えきれなかった。あんな手紙を毎日のように妻に送られて、喜ぶ夫はいないだろう。
「私は何も…。バーンスタイン領とオースティン領の職人達の努力の賜物です。彼らが、アメリア様に一番に献上したいと」
「皆様、努力なさったのね」
アメリア様の瞳に涙が滲む。バーンスタイン領やオースティン領の領民や職人たちと深く関わってきた彼女だからこそ、この成果の素晴らしさが分かるのだろう。
「それにしても、本当に素晴らしい色だ。アメリアの瞳と同じだ。この色を身に纏えば、君をいつも感じられそうだ」
エリオット殿下の言葉に、私は社交辞令の笑みを浮かべた。
「王都でも販売予定です。お求めやすい値段ですよ」
「私の分の献上はないのか?!」
「これはアメリア様の分ですので」
エリオット殿下の顔が引き攣る。
「本当にいい性格になったな、オースティン伯爵。3年前とは大違いだ…」
「お褒めに預かり光栄でございます」
私は臣下の礼を執り、深々と頭を下げた。
◇◇◇
学園に通う頃の私は、この世の全ては思いのままになると信じ込んでいた愚かな若者だった。
贅を尽くした生活、恵まれた容姿、少しの努力で知識も簡単に身についた。母は私をこの世で一番価値のある宝として育てたし、私もそう思って生きてきた。
長じてくると美しい令嬢達に囲まれるようになった。鮮やかに着飾った令嬢達に熱の籠った目を向けられ、私はいい気になっていた。何故か父であるオースティン伯爵が私の婚約者を決めなかったので、身軽な気持ちでご令嬢たちと付き合ったり、学友達と夜の花との戯れを楽しんだ。
そんな時、父がようやく婚約者が決まったと満面の笑みで言ってきた。
初めての顔合わせの時、彼女は緊張していたのか、硬い表情だった。銀色の髪と青い瞳の可愛らしい少女だったが、それまで私の周りにいた女性とは違い、華やかさも楽しさも感じられなかった。物静かな深窓の令嬢といった様子に、私は内心とてもガッカリした。
同じ学園に通っていると聞いて、一度も見かけたことが無かったので驚いたが、アメリア様に対して抱いた印象は、その時はそれぐらいだった。
それからあの愚かな婚約破棄を経て、エリオット殿下とアメリアの婚約を発表したあの夜会が終わった後、私は父から、私とアメリア様の婚約の経緯、領地のこと、そしてアメリア様の献身を聞いた。
驚く事に、我が領の経営は母の散財により、破綻寸前だった。母が遣った金額を父から聞いた時、私は耳を疑った。何故そんな浪費をしたのか、そしてその浪費を許した父の正気も疑った。父が母に惚れ込んでおり、その言葉に逆らう事はないと知っていたが、それにしたってどうかしている。
バーンスタイン家との婚約で、我が領は資金援助や領地改革により何とか持ち直し、治水工事とバーンスタイン家との共同事業で潤うまでになった。恩義しかない相手に何をしているのかと、私は過去の自分をぶん殴り、土に埋め二度と這い上がれぬように永遠に封印したい気持ちになった。
知らなくてはならなかった。エリオット殿下の言う通りだ。
私は夜会の後、すぐにバーンスタイン家に謝罪に向かった。バーンスタイン伯爵とその弟、オリバー様は、平身低頭謝る私に、不思議そうな顔をしていた。
「ルイス君とは初めてまともに会話をしたけど、やはりオースティン伯爵の子だねぇ。しっかりしている」
バーンスタイン伯爵の言葉に、私の顔は羞恥に染まった。婚約者だった人の父ともまともに話した事がないぐらい、私とアメリアの間は疎遠だったのだ。時々夜会のエスコートをするぐらい、彼女の家を訪ねてお茶をすることも、贈り物をすることもない。彼女からは季節の挨拶の手紙や、誕生日の贈り物は届いていたというのに。私が贈ったものは…、た、誕生日のカード以外、思い出せない。最低だ。
「顔付きが一晩でまるで別人のようだ。エリオット殿下に何を言われたのか…。あの人はアメリアの事になると自制をしない方だからなぁ。まあ、それで臣下を潰すような事をしないのは、流石ですが…」
オリバー様の言葉に、私はエリオット殿下の言葉を思い出す。穏やかな声の叱責だったが、迫力が恐ろしかった。喉に剣を突きつけられている様だった。
「何を言われたのか知りませんが、励みなさい、ルイス君。これまでの様に、我がバーンスタイン家はオースティン領を援助することは無い。だが良き隣人として、共に努力することは出来るでしょう」
私たちのしてきた事を考えれば、関係を断絶されてもおかしくは無い。それでもそんな言葉をかけてくださる懐の広さに、私は頭を上げる事が出来なかった。
それから私は、学業の傍ら、父に付いて領地のことを学んだ。以前は父と共にアメリア様がしてきた仕事をなんとかこなしながら、彼女の凄さを思い知らされた。
膨大な書類仕事に加え、領地で起こる様々な問題の解決。もちろん父の部下も優秀なものが多く、領主の仕事は書類を読み判断し、決断することだが、これほど重責を伴うものとは思いもしなかった。私の決断一つで領の先行きが決まるのだ。そこには、多くの領民達の生活が掛かっている。それをまだ年若いアメリア様が3年も前からこなしていたのだ。
また、領地に赴き、領民達と直に触れ合うと、いかにアメリア様が彼らの生活の為に心を砕いていたのか思い知らされた。そして領民達が月の姫と彼女をどれほど慕っているのかも…。彼女が領主夫人にならないと知って、多くの領民が声を失ってショックを受ける様は、私の心を深く抉った。
「ご領主さま、月のお姫様はもう来てくださらないのですか?」
村の小さな女の子に泣きべその顔でそう聞かれ、私は声を詰まらせた。
「いいや。月の姫様は、デジェネレス王国の王子様と結婚する事になったんだ。オースティン領だけでなく、デジェネレス王国のお姫様になるのだよ。今までの様にオースティン領にだけいらっしゃる事は出来ないけど、君たちが毎日お手伝いとお勉強を頑張ったら、きっと来てくださるよ」
「ほんとう?!わたしね、月のお姫様に文字を教えてもらったのよ。毎日練習して、もうお名前も書けるようになったの」
アメリア様が領制改革で力を入れていた子どもたちへの教育のために、今ではこんな小さな村に教師がいて、週に3回、子供たちに文字や簡単な計算を教えている。教師達は怪我で引退した元軍人だったり、定年退職して暇を持て余した元文官だったりで構成されており、高度な教育は無理でも、読み書きや計算なら教えられる者達だ。身体に負担のない程度で働けるので、なかなか人気の職らしい。
「そうか、偉いなぁ」
「だって、月のお姫様が言ってたの。女の子でも、文字や計算が出来たら、もっと沢山楽しい事ができるって!私ね、月のお姫様みたいに、大きくなったらみんなの為になるお仕事ができるようになりたいの!」
その言葉を聞いて、私の胸は言いようのない衝撃で震えた。
バーンスタイン家の人々は、普通の貴族なら目を向けさえしないような、こんな小さな村の少女にまで希望と改革の芽を植えていらっしゃるんですね。
婚約を解消して、良かった。
どれほど彼女が未来の王妃に相応しいか、思い知らされた。彼女は、一領地の領主夫人ではもったいない人だ。国母に相応しい人なのだ。エリオット殿下の慧眼には畏れ入る。
理性では、そう判断できた。
しかし、感情では。あの美しく優しい人に、今更ながら溺れてしまった感情だけは、どうする事も出来なかった。
◇◇◇
一年後。学園を卒業されたアメリア様は、エリオット殿下と婚儀を挙げられた。
陞爵したばかりのバーンスタイン家、しかもそれまで知名度もあまりなかったアメリア様との婚姻に難色を示す貴族達もいたが、王太子主導で行われていた国中の治水工事が、実はアメリア様が始められたものであり、その語学力や外交力を活かし、流行病の特効薬開発のための黒炎花の取引にも貢献した才女であると知られると、反対勢力は霧散してしまった。
式は恙無く進み、一臣下として末席に参列した私は、アメリア様の神々しいまでに美しい御姿を、一瞬も見逃すまいと食い入る様に見続けていた。
そしてその夜は、乱れ狂う感情を押さえつける為に強い酒を浴びる様に飲んだ。
翌日、二日酔いの頭で考えた。
私に出来る事は何か。彼女に報いるために出来る事は何か。彼女の喜ぶ事は何か。
女性としての幸せは、エリオット殿下が余す事なく与えるだろう。そこに私が入る余地などないし、そんな事をあの殿下が許すはずもない。
だったら出来る事は一つだ。私は我が領の発展に尽くす。彼女が蒔いてくれた幸せの種を、私がこの手で大木にしてみせる。
私の全てを、彼女に、領地に、領民達に、捧げてみせよう。
それから暫くして、私は父から正式にオースティン領を継いだ。暫くは父も補佐をしてくれる事になっているが、落ち着けば母と共に王都から離れて領地で暮らすという。
あの夜会以降、ショックを受けた母が塞ぎ込みがちで、体調を崩す様になったため、父は出来るだけ側についていてやりたいらしい。あれだけ居丈高で散財好きだった母が、華やかな場所を避け屋敷に閉じこもる様になるなんて、王太子妃に高圧的に振る舞ってしまった事が余程ショックだったのだろう。
本当は母は小心者なのだ。父に望まれたとはいえ、家格の違う家から嫁いだ当時、母はとても苦労をしたという。居丈高に振る舞う事で、どうにか自分を保ってきた人なのだ。
散財癖は裕福な伯爵家に嫁いではっちゃけたかららしいが、そこは私が執務を手伝うようになってから、目を光らせるようになったので心配はないし、母も宝石やドレスに興味がなくなった様だ。
「早く貴方のお相手を見つけなくては…」
すっかり小さくなった母は、私の顔を見るたびに結婚の事を口にする様になった。
「私のせいで貴方の幸せを潰してしまった。アメリア様の様な素晴らしい方を蔑ろにして…」
二度の婚約解消と、あの夜会での失態で、オースティン領と縁続きになりたいと思う貴族は皆無だった。
だがちょうど良かった。私は妻を娶る資格などない。
「母上。私の事はお気になさらず。もし生涯独り身であったとしても、オースティン家の跡取りは遠縁の者から迎え入れたらいいのです」
「お前の幸せはどうなるのです…。生涯独り身などと、そんな…」
「全ては私の至らなさ。母上のせいではありません。私の事より、母上自身のお身体を大事になさってください」
「ルイス…。ごめんなさい、ごめんなさい…」
泣く母の背中を撫で、私は心の中で詫びた。
オースティン家に縁談がないのは事実だが、私がそれに安堵しているなどと知られるわけにはいかない。
心を他の女性に奪われたまま他の女性を娶るなど、相手の女性にも不誠実だ。私など、一生独り身のままが相応しいだろう。
◇◇◇
がむしゃらに仕事に没頭したおかげで、オースティン領は大きな発展を遂げた。
領地が豊かになると共に、オースティン家の悪い評判も過去の物として扱われるようになってきた。
領地に帰った父と母からは、早く身を固めろと催促されていたが、齢を30を越えた辺りから、それも減ってきた。最近は跡取りをどの分家から迎えるかという話が多い。
前王の退位により、正式にエリオット殿下が王位に就き、我がデジェネレス王国はますます盛えている。世継ぎの王子を始め、後に生まれたクライス王子、アルフレッド王子、ルルカ王女も健やかにお育ちだ。アメリア王妃は4人のお子の母とは思えぬ程、未だに少女の様に若々しく美しいが、王妃に相応しい風格を備えている。
ある日私はエリオット陛下に呼ばれた。陛下の印章が捺された正式な呼出状を断る事もできず渋々登城すると、苦虫を噛み潰したような顔の陛下に出迎えられた。
「オースティン伯爵。貴君の貢献に応じて侯爵に陞爵とする」
「は?」
「慎んで受けろ」
「お、お待ちください、陛下。私は!」
「アメリアの意見でもある。既に議会も承認している。貴君の功績を考えれば妥当だ」
ふんっとエリオット陛下は息を吐く。
「いつまでも他人の妻に懸想してないで、これを機にさっさと身を固めろ。縁談も来ているだろうが。何年も一人の女を追っかけるな」
「陛下に言われるとは心外です」
他人の婚約者に懸想して婚期を遅らせていた人に言われたくない。
「ふっ。俺は運が良いんだ」
「将来、私の粘り勝ちということもあります」
「ない。他の野郎の付け入る隙など与えん」
「いい歳して余裕がないと愛想を尽かされますよ。過剰に囲い込み過ぎて嫌がられているでしょう」
「ぐっ。お前、どこでそれを…」
「色々と噂を聞かせてくれる方が多いもので」
しれっとした笑みを浮かべれば、エリオット陛下は額に青筋を浮かべている。
「私の妃は魅力的過ぎてな。未だに未練がましい昔の男だとか、用もないのに手紙を送ってくる隣国の王とかがいる。用心するに越した事はない」
エルナン国のシュデト殿下は、アメリア様と良く交流を持っていると聞くが、あの方はもう老年といってもいい年だろうが…。それも警戒しているのか、この人は。
「お前がいつまでも独り身だと、未婚の令嬢が増えて困る。お前とあわよくば結婚できるかもしれんと、娘が他の縁談を嫌がるそうだ」
「は?何かの間違いでは?」
私の言葉に、陛下は嫌そうに顔を歪めた。
「お前、歳は喰っているが、王子様然とした見た目だし、ストイックだとか一途に一人の女を想い続ける誠実さが堪らんとか、娘達に騒がれているだろうが!オースティン領の経営も順調だし、嫁に行かせたい親も多い。お前が一考もせずに縁談を断るせいで、アメリアにお前との仲を介してくれという貴族どもからの要請が増えているんだ。アメリアの言葉ならお前も耳を貸すだろうとな。惚れた女からそんな事を言われるのは酷だろうと止めてはいるが、これ以上断り続ければ、お前とアメリアの仲を勘繰る阿呆も出てくるかもしれん。オースティン伯爵。後継を儲けるのも貴族の義務。逃げていないで検討するんだな」
下がれとの仰せに、私は臣下の礼を執った。
まさか私が独身を貫く事で、アメリア様にご迷惑をかけていたとは。
先日お会いした時も、そんな様子は全く見せず、新規事業の報告を笑顔で受けておいでだったのに。申し訳なさで一杯になった。
去り際の、陛下の言葉が耳に残った。
「いつまで逃げ回るつもりだ。そろそろ己を許してやれ」
◇◇◇
その晩、私はワインを呑みながら、一人考え込んでいた。
あの婚約解消から、もう10年以上経つ。
あの頃の学友達の殆どが家庭を持ち、子どもを持ち、継ぐべきものを継いでいた。いつまでも独り身の私を揶揄い、家庭の愚痴を溢してはいるが、彼らは皆幸せそうに見えた。皆口々に、もう彼の方の事は忘れて、早く身を固めろと言ってくる。
私のアメリア様に対する想いは、年月を重ねるに連れ、熱く己でも御せぬどうしようもないものから、彼女の幸せを喜び願う真摯な想いへと変わりつつあった。彼女の綺麗な笑顔に胸が締め付けられるような時もあるが、それも時間が経てば癒える痛みだった。
「己を許せか…」
陛下のお言葉を思い出し、私はグラスの中身を見つめた。
私は独り身を貫く事で、己を罰していたのだろうか。
アメリア様を傷つけたことを償うため、家庭など持つ事は許されないと。
私が勝手にそう思い込んでいるだけで、アメリア様はそんな事を望んだりはしないだろう。
結局私は、アメリア様への想いを断ち切る自信が持てず、妻として迎えた人に真摯に向き合う事が出来ないと、逃げ回っているだけではないのだろうか。
情けない気持ちになって、私はグラスの中身を一気に呷った。
エリオット陛下には、私の人生の節目に合わせて叱責されている気がする。私の気持ちの変化も何もかも見透かされている気がして、恋敵として全く敵わぬと思い知らされる。アメリア様に関してはあんなにポンコツのくせに。
私は、家令を呼ぶ為のベルを鳴らした。
私の幼い時から仕える家令は、口には出さぬがこの屋敷に、早く女主人を迎えたいと熱望している。
その家令に、今来ている縁談の申し入れに目を通す手伝いを命じたら、どんな顔をするだろう。
こんな情けない私でもいいと言ってくれる、心の広い奇特な女性が見つかる事を、願うばかりだ。
以上にて完結となります。
最後までお付き合い頂き、ありがとうございます。
お気が向いたら、感想など頂けると嬉しくなります。
活動報告に、蛇足の説明があります。
モヤモヤしている方は、こちらもご覧ください。