4 その日のファッション
テニスコートの入口に六人が揃った。
ほぼ同時に。
みんな、それぞれによく似合った配色のファッションだった。
沢渡飛鳥は、深青の膝丈のワンピースに、同色のローヒールパンプス。高貴で華麗なイメージ。
オフホワイトのカーディガンが、柔らかさも醸し出していた。
セミロングのヘアーを、ハーフアップにしている。
真柴奈緒は、ベージュのシャツと黒い七分丈のタイトスカート。焦茶色のカーディガン。黒いローカットスニーカー。シックで大人のイメージに、カジュアルが混じる。
飛鳥より少し長いストレートヘアー。
少弐藍は、淡いピンクのスプリングニットに、ダークグリーンの台形ミニスカート。スカートと同系色のカーディガンとショートブーツ。
ショートヘアーに、トップスと同系色のつばの小さな麦わら帽子。
可愛い。
藍は、言うまでもなく色名だが、藍は、その色よりも明るい印象のカラーを好んだ。
藍はぽっちやり体形。ピンクは膨張色のはずだが、着こなしが上手いのか、その全体のシルエットは、スマートな印象だった。
女の子三人の今日のファッションに、統一感は無いが、揃ってカーディガン。
飛鳥のワンピースのその色は、そう、ロイヤルブルー。
その色は、別にはっきりとした決まりがある訳ではないが、エリートを象徴する色。
飛鳥は、自分がエリートであることを過剰に意識し、相手に意識させるような女の子ではない。
それに、その日その日のファッションは、ロイヤルブルーの判断、指令のもとに各端末の自動装置が身につけさせる。
個々人の趣味や、その日の深層心理も考慮されるが。
飛鳥のロイヤルブルーで決めたファッション。
間もなく誕生日を迎え、エリートクラスになれるかどうかが決まる秋月と透也に対して、そのことを明確に意識させ、がんばってね、という応援の気持ちなのかもしれなかった。
秋月は、コバルトブルーのシャツにブルージーンズ。グレーのジャケット。
爽やかだ。
秋月は、日によってかなり違うイメージのファッションを着こなす。
活発な少年イメージ。
知的な大人のイメージ。
ちょっと崩したトリックスターのイメージ。
ロイヤルブルーが選択するとはいえ、それは秋月が、色々なファッションを楽しみたいという気持ちが強いからだろう。
何を着ても秋月は似合う。
でも今日の秋月は、彼の本質的なイメージ。彼にとっての王道なのであろう。
美馬は、ワインレッドのシャツに、ダーク系のグリーンのジャケットとスラックス。同じダーク系でも、ジャケットより、スラックスのほうが、やや色は濃い。
透也は、心の中で微笑んだ。グリーンは、ピンクの補色だ。
透也は、ところどころ茶色とグレーが配色されているが、黒を基調としたシャツと黒いスラックス。ジャケットは茶色。
男の子三人の今日のファッションは、まずまず統一感があった。揃ってジャケット。
美馬冬彦と少弐藍は、やり過ぎではというくらいのペアルックだが、同じダークグリーンでも、色合いはそこそこ違った。
あとの四人、ファッション的には、飛鳥と秋月。奈緒さんと僕が合っているな。
透也はそう思った。
最近、リアルでみんなで会うとそういうことが多いような気がする。
飛鳥に合う男の子は秋月で、僕には奈緒さんが合うと、ロイヤルブルーは判断しているのだろうか。
たしかに奈緒さんとは趣味や好みのセンスが合う。話していて楽しい。
でも僕は、ずっと飛鳥のことが好きなんだけどな。
六人が、それぞれ更衣ルームに入り、テニスウェアに着替えた。
それぞれタウンファッションと同色のウェア。これが各人の今日のテーマカラーということなのだろう。
タウンファッションと同様に、テニスウェアも、飛鳥はワンピース。奈緒と藍はツーピース。
飛鳥と奈緒は、セミロングの髪を束ねていた。
久しぶりに見る飛鳥の素足が、透也の目に眩しかった。すらりと長い脚。
飛鳥は、そのスタイルも完璧…いや、胸が…あまり大きくない。と言うか平均よりもちょっと小さいのかもしれない。多分。よく分からないけど。
飛鳥も奈緒も、女性としては長身の部類に入るだろう。ふたりを比べたら、奈緒のほうが少し背が高い。
奈緒もスタイルはいい。バストも含めたトータルで言ったら、飛鳥よりも良いかもしれない。
奈緒の胸は…あまり小さくない。と言うか平均よりもちょっと、いや、確実に…大きいだろう。多分…とは言えないか。確実に、と書いちゃったんだから。よく分からないけど。
だから奈緒は、頸から下については、地味でもないし、しっとりしているともいえない。
秋月と透也も長身の部類に入る。ふたりを比べたら、秋月のほうが少し背が高い。
美馬冬彦と少弐藍の身長は平均レベル。体重も。いや、藍は平均より少しだけ重いだろう、多分。
バストは、奈緒に負けてはいない。
六人がテニスコートに入った。
準備運動、ラリー、ボレー、スマッシュ、サーブと、練習を続ける。
球拾い、球出しは、ボールパーソンロボットが、優雅な動きで効率よくこなしてくれる。
透也たちは、ボールを打つことに専念できる。
一週間ぶりのリアルでのスポーツ。
気持ちよく汗が流れる。
さてゲームだ。
美馬が、
「僕は、藍ちゃんと向うのコートで、シングルスのゲームをやるから。四人はこっちでダブルスをやりなよ」
と言って、藍とふたり、その場を離れていった。
残る四人。
ペアはどう組むのか。
飛鳥が、微笑んだ。
「今日の四人のウェアを見たら、私は槇くんとペアかな」
飛鳥は、男の子三人に対してはそれぞれ
「とっくん」
「槇くん」
「冬彦さん」
と呼ぶ。
何故なのか。と訊かれた飛鳥の答えは、
「とっくんと、槇くんは、私よりも誕生日があと。冬彦さんは、私よりも前だから」
だった。
「はい、よろしくお願いします。飛鳥さん」
必然的に、秋月は、飛鳥のことをさん付けで呼んでいる。
透也は、エリートに対して申し訳ないと思いつつ、昔のとおり、飛鳥と呼び捨てだ。
いや、幼い頃は、飛鳥ちゃん、だったのだけど、数年前から、そうなった。
ペア同士で、それぞれのコートに分かれる。
「飛鳥さんとペアになれなくて残念でしたね、透也さん」
奈緒は、飛鳥と違って、誕生日が自分よりあとの透也のことも、さん付けで呼ぶ。
「でも、一緒にがんばりましょうね」
「はい、がんばりましょう。よろしくお願いします」
ゲームが始まった。