第4話
「こちらへどうぞ」
茶玖さんがおばあさんをカウンターの席に案内する。
私の隣の隣の席に座る。
その瞬間ふわっと上品な良い香りがした。
「メニューでございます」
茶玖さんからメニューが手渡される。
「う〜ん・・・そうねぇ」
握った手をあごにあて
考えるその姿が、なんともかわいらしい。
「じゃあ、アメリカンコーヒーお願い」
「かしこまりました」
そして、メニューを見ていたその女性の視線が
私の方に向かう。
「こんにちわ。お嬢さん」
優しく微笑む女性。
「こ、こんにちわ」
なぜだか緊張してしまう。
このカフェに来た時の感覚と少し似ている
心地の良い緊張。
「学校の課題?懐かしいわねぇ・・」
優しげな眼を細めて、みつめるその女性に言う
「いえ・・小説を書いています」
「あら、それは素敵ね」
「コンテストに出すんですよね」
ふいに、カウンターの奥から茶玖さんが戻ってきた。
「まぁ、それは素敵ね」
さっきから、私の一挙一動に
小さく感動しているその女性。
少女のようで、可愛らしい
ふと、田舎の自分の祖母を連想させた。
「でも、全然話がふくらまなくて・・・今回は
見送ろうかと思ってるんですよ」
情けなく苦笑してみせる。
「まぁ・・・」
少し残念そうな顔をする。
茶玖さんからコーヒーを受け取り
ゆっくりと味わって、カップをカウンターにおく。
「でも、自分が納得できないものは
他の人を納得させることはできないものね」
その女性は、過去を振り返るような面持ちで
眼を伏せていた。
「まぁ、もうこんな時間。」
その女性は、フェミニンな腕時計に目を落とし
帰る支度をする。
まだ18時半くらいだが
きっと用事があるのだろう。
「コーヒーとってもおいしかったわ。
またお邪魔させてくださいね」
柔らかく微笑み、その女性はドアの鈴を鳴らしていった。