夢
――――久しぶりに、夢を見た。
辺り一面真っ暗闇の世界に、たった一人で佇んでる夢。
何処に行くのか、何をするのかもわからないまま、ひたすらその場に立ち止まっている。
1時間か、はたまた1分か、時間の感覚も分からなくなってきたころ、どこからか声が聞こえてきた。
上手く聞き取れないが、ひどく寂しそうな生き物の鳴き声。
耳を澄ましてみると、どうやら声の主は暗闇の少し先。目では見えない場所に居るようだった (目で見えるところに居たとしても、この暗さでは分からないだろうが)。
私は鳴き声を頼りに暗闇の中を手探りで歩いて行った。
段々と近づいてきたようで、声は明瞭さを取り戻していく。
これは・・・猫だ。猫の鳴き声だ。
だが、正体はわかってもその姿を捉えることができない。
私は自分の手の感覚を頼りに、声のする辺りを探る。すると、毛に覆われた生き物特有の暖かい感触が肌を撫でた。
怖がらせないようにそっと抱き上げると、猫は喉を鳴らしながら私の腕の中にすっぽりと納まった。
依然周りは暗闇のままだけれど、一人ではないという安心感からか、この空間がなんだか落ち着ける場所のように感じた。
・・・そんなことを、思ってしまったせいだろうか。その瞬間はなんの前触れもなくやってきた。
眩い光が辺りを照らす。私は咄嗟に猫を抱えていない左手を自分の視界へともっていき光を遮る。
光に包まれて数分が経つと目が段々慣れてきた。
久しぶりに感じる光の暖かさに安堵した私が最初に目にしたのは、何処までもつづく真っ白な空間だった。
唖然。その一言に尽きた。
この時の私はすでに、ここが夢の中だということを忘れていた。
(こんな何もない空間で、私は生きていけるのだろうか)そんなことを考える私は大馬鹿者だ。
ある意味、浮かれていたのかもしれない。初めて見る不可思議な空間に。久しぶりに沸き上がった自分の好奇心というものに。
ふと、異様なまでに静かになった猫のほうに目を向ける。
「・・・・・・・・・・え?」
そこにいたのは、猫とは別のおぞましい『何か』だった。