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第6話 語学Lv.1は伊達じゃない



「……! フィン、どこまで行ってたんだ。随分遅かったじゃないか」

「あっ、パパ。ただいまー」


 フィンの家までついていくと、玄関先に一人のドワーフが立っていた。

 彼がフィンのパパさんらしい。


 癖の強い茶色の髪は長く、髭も胸のあたりまで伸びている。

 フィンと違って、一目見てドワーフと分かる見た目をしていた。

 最初フィンを見たときはなんの種族なのかわからなかったからな。


 それに、フィンに負けず劣らず身長が低い。

 というか見た感じ、フィンよりパパさんのほうが身長が低いのではないか。

 やはりドワーフは小柄な種族なのだろう。


「……む、そちらの方は?」


 フィンの後ろに立つ俺を見て、パパさんは訝しげな声を上げた。

 まあ娘が変な男を連れてきたら不審に思うのは当たり前か。


「この人はソーマさん。森でテンタクルフラワーに襲われてるところを助けてもらったの!」

「なんと……! 申し訳ありません、うちの娘が大変なご迷惑をおかけしたようで……。娘を助けていただき、本当にありがとうございました」

「い、いや。顔を上げてくれ。そんな大したことじゃない」


 パパさんが深々と頭を下げたので、俺は慌てた。

 でも言われてみれば、この世界では通りすがりの人が魔物に襲われていたからといって、助けるような人ばかりではないのかもしれない。


「あなたもテンタクルフラワーに連れ去られた女性がどんな目に遭うのか、知らないわけではないでしょう? それを助けていただいたのですから、感謝するのは当然のことです」

「そ、そうか。そうだな」


 また適当にそうだなとか言ってしまった。

 当たり前のことのように言われたが、もちろん知らない。


 テンタクルフラワーに連れ去られた女性はどうなるのか。

 エロ同人のようなことになるのだろうか。

 フィンがエロ同人の一歩手前くらいのところまで行っていたのは確かだが。


「ソーマさんは修行中の召喚士でね、すごく遠いところから来たらしくて。だから、助けてもらったお礼に少しうちで休んでもらおうと思って村まで来てもらったの」

「そうだったんだね。ささ、どうぞお入りください。大した家ではありませんが」

「いや。失礼する……?」


 俺は、自分の口から出た言葉に不思議な違和感を感じた。

 お邪魔します、と言ったつもりが、やたらと尊大な言葉遣いになってしまった。


「しつれい……あれ」


 言い直したが、うまくいかない。

 やはり明らかに何かがおかしい。


 というか。

 敬語って、どうやって話せばいいんだっけ……?


「失礼……しつれいする……失礼する……んん?」

「……? どうしたんですか?」


 フィンが不思議そうな表情で、俺のことを見ている。

 パパさんも少し訝しげな顔をしていた。


 俺が今話しているのは日本語ではない。

 今まで無意識で喋っていたのは、間違いなくこちらの世界の言語だ。

 それを意識して敬語に直そうとするが、どうしても上手くいかない。


「……すまないが、こちらでの敬語の使い方がわからない。少し変な言葉遣いになっているかもしれないが、大目に見てほしい」

「えっとね。ソーマさん、ずっと遠いところから来たらしくて、こっちの言葉がうまく話せないみたいなの」

「ふむ……なるほど」


 フィンのナイスフォローによって、パパさんに大して不審がられずに済んだ。

 あまり気にしなくてもいいかもしれないが、こういうことは早めに伝えておいたほうがいいだろう。

 何があるかわからないしな。


「しかし、街に向かわれると言うのであれば、敬語などほとんど必要ないでしょう。むしろずっと敬語を使っていると、相手に高圧的な態度を取られかねませんからな」

「なるほど。それもそうだな」


 パパさんの言うことには一理ある。

 どうやら、敬語が使えなくなったことはあまり気にしなくてもいいようだ。


 しかし、語学Lv.1の意外な弱点が露呈した。

 敬語だけでなく、フィンの家の中にあったメモ書きなどの文字は、意味がよくわからなかった。

 どうやら俺は日常会話はほとんど問題なくできるようだが、読み書きはもちろん、敬語などの少し難しい言語になると全く話せないようだ。


 スキルに頼っているため、どうやって勉強すればいいのかもよくわからない。

 やっぱり問題かもしれない……。

 敬語はともかく、文字が読めないのは痛い。

 それも今後の課題として覚えておくことにする。


「ふぅ……」


 コップを片手にひと息つく。

 隣では、フィンが俺と同じように息を吐き出していた。

 俺が言えたことではないが緩みきっているな。

 家に帰ってきたことで安心しているのだろう。


「そういえば、フィンはドワーフか?」


 確定的なことだろうが、改めて聞いてみた。

 一応違う可能性もあるしな。


「そうですよー」


 しかし、予想通りドワーフだった。

 ある程度、日本におけるファンタジー要素は適用されているようだ。

 ということは、やはり獣人やエルフなどもいるのだろうか。


「ソーマさんは人間族ですよね?」

「ああ。たぶんそうだ」


 異世界に転移してきたからといって、別に身体が変化しているような感じはない。

 この世界の人間族というのがどんな見た目をしているのかはまだわからないが、フィンから確認されたということは大して違いはないだろう。


「それがどうかしたんですか?」

「いや、ドワーフの作る武具は大変に優秀だと聞いたことがあるものでな。もしよければ少し見せてはもらえないだろうか?」


 先ほども、外で何かを作っているドワーフの男の姿があった。

 異世界のドワーフが作る武具。

 大変興味深い。


「そういうことでしたら、私の工房にご案内しましょう。フィンはまだ鍛冶師としては未熟なので」

「なるほど。それならお願いしよう」


 パパさんの提案によって、俺たちは彼の工房に行くことになった。


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