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第13話 精霊石の使い道


 一度見た覚えのある道を通って、俺たちの乗る馬車はプロメリウスへ向かっていた。

 乗り心地はお世辞にもいいとは言えないが、歩かなくていいのは大きなメリットだろう。

 車酔いにも強い方なので、このくらいの揺れなら何の問題もない。


 小川を超えたところからは、例の森が広がっている。

 少し注意しなければならないところだ。


 しかしそんな俺の意気込みはなんだったのか、小一時間ほど経ってもテンタクルフラワーどころか魔物の一匹も出てくる気配がなかった。

 そういえば俺が最初に目覚めたあたりにも、魔物などいなかった。

 案外こんなものなのだろうか。


「魔物って、意外と出てこないものなのか?」

「そうですね。今はこんな大人数ですし、積極的に人を襲うような魔物ばかりというわけでもないので」

「なるほど」


 フィンに尋ねるとそんな返答が返ってきた。

 あまり戦闘の心配はしなくてもよさそうだ。


 そう考えると、急に手持ち無沙汰になってきた。

 何か今の内にやっておいたほうがいいことはあるだろうか。

 あ、そうだ。


「暇だし召喚でもするか」


 そろそろ魔力も回復している頃だろう。

 ルナを召喚するという目標がある以上、召喚士や召喚術のレベルは上げておいたほうがいい。


「そんなに頻繁に召喚して大丈夫なんですか? 精霊石は貴重なものなんじゃ……?」

「大丈夫だ。まだまだあるからな」

「そうですか。それならいいんですけど……」


 フィンが心配そうに見つめてくるが、問題ない。

 正確にはあと5704332228個ある。

 一生かかっても使いきれるかわからない数だ。


「そうだ。早速だが、フィンに聞きたいことがある」

「聞きたいこと、ですか?」


 フィンが小首をかしげる。

 そんな仕草がまた可愛らしい。


「ああ。精霊石のことについてだ」


 精霊石について、俺はほとんど何も知らない。

 知っていることといえば、俺がそれを57億個ほど持っていることと、召喚の時に精霊石を消費することくらいだ。

 何かとんでもない勘違いをしている可能性もあるので、かなり基本的なことから聞いておいたほうがいいだろう。


「召喚一回に消費する精霊石はいくつだ?」

「……? 三個だったはずですけど。召喚に関しては私よりソーマさんの方が詳しいんじゃないんですか?」

「いや、どうやら思っていたのと少し勝手が違うようでな。しかし、三個か」


 早速とんでもない勘違いが一つ見つかったが、それはひとまず置いておく。

 フィンの話を聞いて、俺の中に一つの疑問が生まれてきたからだ。


 一回の召喚で消費する精霊石が三つなら、精霊石消費数30分の1のスキルの存在意義がわからない。

 30分の1でも精霊石を一個は消費していたので、精霊石消費数3分の1のスキルで事足りるのではないだろうか。


 ……あ。

 もしかすると、そういうことなのだろうか。


「ちなみになんだが、十回召喚というものはあるか?」

「あるらしいですけど、私は見たことがないですね……。そもそも精霊石を三十個も用意するのが大変ですし」

「そうか」


 やはり十連の概念が存在するらしい。

 となると、精霊石消費数30分の1のスキルが本領を発揮するのは、十回召喚を行ったときということになる。

 一回召喚でも精霊石が減っていたことを考えると、消費数軽減系のスキルでは、一個消費するのが最低となるのだろう。


 一回の召喚でも十回の召喚でも消費する精霊石が一個だけなのならば、もちろん十回召喚を行ったほうがいい。

 しかし、そうなると一つ問題があった。


「フィンは、十回召喚のやり方は知らないよな?」

「さすがにそこまでは……。ソーマさんもご存じないんですか?」

「ああ、残念ながらわからない」


 残念ではあるが、そこまで悲観しているわけでもない。

 おそらく、十回召喚は精霊石だけでなく、一回召喚の十倍の魔力も消費するはずだ。


 単純に、今の俺のレベルでは十回召喚をするには魔力量が足りないのではないか。

 そう考えれば説明もつく。


「十回召喚のほうがいい品が召喚されやすくなるとか、そういうことはあるのか?」

「そうおっしゃる方もいるにはいるみたいですが、証明されていることではありません。迷信のようなものですね」

「なるほど」


 十回召喚によるボーナスは無いのだろうか。

 あまり意識していないだけで、レア以上の武器一個確定とかありそうなものだが。

 自分で十回召喚ができるようになったら、そのあたりを検証してみるのもいいかもしれない。

 まあ気長にやるとしよう。


「そういえば、精霊石は召喚以外に何か使い道はあるのか?」

「精霊石を魔力に変換することはできるらしいです。それも私は見たことがありませんが……。魔力を回復するなら、魔力回復のポーションを使ったほうがずっと安いですし」

「ポーションか。たしかにそちらのほうが安いだろうな」


 適当に話を合わせながら相槌をうつ。

 この世界にはポーションもあるのか。

 プロメリウスに行けば買うこともできるのかもしれない。


 それにしても、その情報は俺にとってはあまりにも有益だ。

 精霊石を消費し続ければ、実質ほぼ無限にレベリングを行うことができるのだから。

 早速後で試してみることにしよう。


「これも基本的なことなのかもしれないが、精霊石を手に入れるにはどうすればいい?」

「精霊石は主に迷宮で手に入ります。迷宮で自然生成されたり、まれに強力な魔物からもドロップすることがあるらしいです。あとはごく稀にですが、地上で生成されることもあるみたいです。それ以外の入手方法はほとんどないと思います。市場にもほとんど出回らないので……」

「そうなのか」


 そこまで入手が限られるものなのか。

 どうやらかなり貴重な代物のようだ。

 57億個もあるが。


 迷宮に入る予定もないため、新しく精霊石を手に入れる機会はなさそうだ。

 いや、もしかしたら日銭を稼ぐために軽く入ることになるかもしれないが、俺とフィンだけでは不安が残る。


 だからといって他の人と迷宮に入るのもどうなのだろうか。

 とりあえず今は迷宮のことは考えなくていいか。

 精霊石に困っているわけでもないしな。


「それじゃあ、精霊石をインベントリ? から出すにはどうすればいい?」


 精霊石は、やはり安くはないらしい。

 ならば、精霊石自体を切り崩して売ってしまうことも可能なのではないか。

 そんな期待を持って尋ねてみたのだが。


「えっと。精霊石は取り出せません」

「取り出せないのか?」

「はい。精霊石は人の手に触れるとその人の中に入り込んでしまって、二度と取り出せません。その上希少なものなので、商人も扱いたがりませんね」

「二度と取り出せないのか。たしかにそれは商品としては問題が多すぎるだろうな」


 ここに来て意外な事実が判明した。

 精霊石は取り出せないらしい。


 そりゃ商人も扱いたがらないだろう。

 ちょっと触れただけで盗まれてしまう上に、取り返すこともできないのだから。

 自分で触れてしまってもダメみたいだし。


「その人が精霊石をいくつ持っているのかというのを確認する方法はあるのか?」

「ありません。その人がいくつ精霊石を持っているのか、その正確な数は本人にしかわかりません」

「そうか」


 それもできないらしい。

 これは本格的に窃盗への対抗策がないな……。

 精霊石を手に入れたら、普通に自分が触れて持っておくのが一つの最適解ということなのだろう。


「取り出せないということは、人に譲渡することもできないのか?」

「できませんね。例外として、召喚士のジョブを持っていれば他人の精霊石を消費して召喚することができます。この時の召喚手数料が、召喚士ギルドの主な収入源ですね」

「なるほど……」


 俺が召喚士ギルドに入るメリットはあまりなさそうだ。

 別に安定した生活を送りたいわけでもないからな。


 とにかく、精霊石は魔力の回復か召喚にしか使い道がないことはわかった。

 それでも価値があるということは、やはり召喚で出てくるものには良い品が多いのだろう。

 召喚士ギルドにいるような召喚士は、木の棒など呼び出さないのだ。

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