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1.

「オデリア・グレッグワード令嬢、君との婚約、いまこの場をもって破棄させてもらう!」


 高らかに宣言する金髪碧眼の美しい王子の隣では、小動物然とした愛らしい少女がぎゅっと震える手を組んでいた。緊張のせいか、なんども指を組み替えている。ミルクティー色のふわふわの髪に、丸くて大きな瞳。臆病そうなその表情のなかには、しかし決然とした覚悟の色も見て取れる。


ーーはいはい、そういう演技はもういいから。


 私、オデリア・グレッグワードは、ざわめく観衆をよそに、人知れずため息をついた。


 ああ、まさかゲーム通り結婚式の日に婚約破棄だなんて愚かなことをするだなんて。


ーーま、そうなるように私が誘導したことも、否定はできないのだけれど。


「マーガレットに対する数々の非道な行為、もはや捨て置くことはできぬ。いまから読み上げる罪状に、間違いはないな?」


 罪状、などという仰々しい言葉のわりに、読み上げられる罪は大したものではない。

 すべて私の予想の範疇だ。やっぱりアルベルト王子、馬鹿ね。いっそなにか偽装でもしてくれれば、もう少し楽しめると思ったのだけれど。

 出すぎた真似をしているとマーガレットに忠告した、取り巻きたちを使ってマーガレットに嫌がらせをした、などなど。


 それもそのはず。

 前世の知識からこの日が来ることを知っていた私は、最初から婚約者の第一王子であるアルベルトになんて毛ほどの興味もなかった。


 原作乙女ゲームの話は、至極単純だ。孤児院育ちだけれど膨大な魔力(この世界の貴族で魔法を使えないものはいない)が認められて男爵家にひきとられたヒロインの、シンデレラストーリー。

 血筋と同じくらい魔力が重要視されるこの世界では、多大なる魔術の才を持つヒロインにとって、王太子との結婚も夢ではないのだ。

 そして、私の役どころは、王族に加わること以外に興味はない軽薄な女。その障害である主人公を徹底的にいじめ抜き、最後にはその罪を糾弾されヒロインに魔術を使って攻撃した挙句に返り討ちにあい、北の大地へ追放される悪役令嬢。

 とはいえ、この原作でさえも、あれは悪役令嬢であるオデリアが不必要に取り乱さなければ、五分の戦いには持ち込めたと思うのだけれど、彼女はおよそ知性的な人間ではなかった。まったく、大丈夫なのかあの王家は。


 無論、そんな虚しい結末を知っている私が、アルベルト王子にみっともなく追いすがるわけがない。


 というよりむしろ、婚約者という枷から解放されることは、心の底から嬉しいのだ。ゲームでは格好良かったけど、正直、アルベルト王子はあまりにもバカすぎる。どういうわけか、いままで厳格な教育を受けてきた私と違い、彼は甘やかされすべてを許され育ってきた。


 ヒロインが彼を欲しいというのなら、どうぞお好きに、と差し上げたいくらいだ。


 だから、べつにふたりの逢瀬を妨害なんてしていない。


 ただ、さすがに他人の婚約者とみだりに親しくするべきではないと、マーガレットには令嬢として至極当然の指摘をしただけ。

 さらにいえば、友人たちがマーガレットに少し冷たく当たったことも事実かもしれない。


 しかし、彼女たちにだって十分に情状酌量の余地がある。

 私はいままで次期王妃となるべく生まれた時から厳格な教育を受けて育ち、他の令嬢には到底真似できないほどの努力を重ねてきた。そんな私のことをいつも支えてくれていた友人たちが、王子の浮気に憤りを感じるのも仕方がないのだろう。

 婚約者のいる身で他の女に現を抜かしたのだ。そのうえ花嫁姿の私を婚約破棄だなんて、無礼にもほどがある。


 他の没落フラグである弟のデゥークとも従者のナサニエルとも、いつだって角が立たないようにやってきた。それなりに好かれている自信はある。


 だから、いまの私にはなにも後ろ暗いことなんてない。結婚式の日にここまでの無礼を働かれる謂れなど、どこにもないのだ。


「さあ、オデリア嬢、なにか反論はあるか?」


ーーそう、だから、ここからは私の反撃の時間。


 私は一歩前に進み出ると、衆人環視のなか、堂々と口を開いた。


 この世界のヒロイン、マーガレット。

 あなたは傲慢だ。ゲームと違い、目の前には婚約者を奪われば名誉も未来も傷つくたくさんの生きた人間がいるのに、それを理解せずに原作通りの道を選んだ。

 自分がヒロインであるという確信が、あなたから「他者の人生」という言葉を消してしまったのかしら?

 ゲーム通りの選択肢を選べば容易く誰もがあなたに微笑むのだ。さぞ楽しい時間を過ごしたに違いない。


 だけど、それもすべていま終わる。


ーーそう、やはり淑女たるもの、華麗にざまあしないとね。



...........


「お言葉ですがアルベルト王太子殿下、わたくしは、グレッグワード公爵の娘として、恥ずべきことをした覚えがございません」


 毅然とした態度で前に出たオデリア嬢は、純白のヴェールを脱ぎ捨てるとそう観衆に訴えかけた。


 まあそうでしょうね、と私、マーガレット・ハートモンドは心の中で頷く。


 私のような平民では一生触ることもままならなかったであろう絢爛豪華な調度品に、繊細な金の刺繍が入った赤の絨毯、水晶のシャンデリア。思わずその眩しさに目を細めてしまいそうな神々しい部屋は、悠然とこちらを見据える美しい花嫁のためにあつらえたかのようだった。


 いま私の隣に立つこの見掛け倒しの王子とは、まるで違う。

 まさに王族としてこの国の玉座に君臨するに足る、覇者の風格。


「マーガレット・ハートモンド男爵令嬢は、常々学園を牽引する殿方たちーー生徒政会に所属される方々と、特別親しくされているようでした」


 そう、私でもまず突くとしたらそこ。

 私は権力のある生徒に取り入ろうと、必死だったからね。


 

ーーだけどね、オデリア嬢、悪いけど能ある鷹は爪を隠すものなの。



 緊張だろうか、それとも喜びだろうか。

 私が全身を駆け巡る感情を抑えるようにそっと目を閉じると、いやに長く感じるこの二度目の人生が、瞼の裏を駆け巡っていった。




 なにかを渇望しつづけ、ただそのためだけに持ちうる全ての力を注いてきた。そんな風にして求めて止まなかったものをついに手にいれる。

 それを理解したとき人間とは震えが止まらなくなるのだと、何度も指を組み替えながら、私は今日はじめて知った。


 私は、いわゆる転生者である。


 でも、ここが昔プレイした乙女ゲームだと気がつくまで、ずいぶんとたくさんの時間を要した。


 目の前の公爵令嬢と違って、生まれも育ちも、私は卑しい。

 赤子の時に孤児院の前に捨てられていた私は、包まれていた布にマーガレットの刺繍があったことからこの名がつけられた。


 十二になるまで、穀物のほとんど入っていない水っぽい粥と、ごくたまに気まぐれな貴族から受ける施しだけで育った。栄養失調気味だったせいかろくに身長は成長せず、いまでもほとんどのひとを見上げなければ会話できない。


 孤児院で育った子どもには未来がない。


 男は日がな重労働で働いて生活を切り盛りするしかない。幼少期に粗末なものを食べて育ったせいか、たいていは普通の人間よりも体が脆く、体を壊しやすいから短命だ。あるいは、開拓中の北の大地に送られ、奴隷のような扱いを受けるのがいいところだろう。


 それに比べ、女はまだ売るものがあるだけマシかもしれない。赤い光を灯して夜の街に出れば、それなりの金は手に入る。しかし、それでも、宿してしまった子を流産しようとするも医療技術が足りずに死んだり、伝染病がうつり医者にかかる金もなく死ぬのが関の山。老いたら誰も買わなくなり、今度は教会の前で物乞いになり、いつかは餓死する運命にある。

 


 私がいた孤児院の教区長の男は、聖職者のくせに血も涙もない男だった。

 抵抗できない子どもを虐待し、反抗するものは食事を与えないか売り飛ばす。そして私が十二を迎えたとき、部屋に引っ張ると無理やり服を破ってきた。


 幸いだったのは、そのとき私の膨大な魔力が暴発したこと。そして、それに目をつけたハートモンド男爵家が、養子縁組を申し出てきたことだ。


 そのときやっと、私はここが前世にプレイした乙女ゲームの世界であること、そして自分がヒロインであることを知った。


 身分の上がった私に対して、告発されるのを恐れて泣きすがってきた教区長を見た時、私は悟った。


ーーこの世では金と権威がすべてであり、そんな世を変えられるのは私しかいないと。


 教区長には孤児に対する虐待をやめるよう強く勧告した。告発しなかったのは、他のものと代わってもどうせ同じだったから。

 そして、ひとりだけ苦しみから逃れる私を心から祝福してくれた、孤児院のかけがえのない仲間に対しては、いつか迎えに来ることを約束し、私は魔法学園に入学した。


 孤児院にいる間も、この学園に来てからも、マーガレットの刺繍がされた布を握り締めると勇気が湧いた。

 悪いのは世であって、私の親ではない。きっと、ふたりーーあるいはひとりだったかもしれないがーーにとっては、困窮の果てに選んだ道だだけ。

 おかしいのは親が子を捨てなければ生きていけない社会であり、それを黙認するこの国の祭り事なのだと、学園で王子や貴族たちに会った時、私はさらに確信した。


 ロマンチストで、世間知らずで、頭がからっぽの王太子殿下。

 乙女ゲームのヒーローとしては情熱的で素敵かも知れないけど、いずれ彼に統治されるいち国民としては、たまったものではない。


 アルベルト王子様は、お母様の溺愛によって王太子に選ばれただけの、おぼっちゃまだ。

 彼の”お友達”である、宰相や王家に近い貴族の息子たちの前では、いっぱしに政治議論をかわそうとしているが、いつも自らが暗愚であることを露呈させているばかり。


 同情はちょっぴりするし、私は実のところ嫌いじゃない。

 ちょっと褒めてあげればすぐに舞い上がるところとか、私を見かけるとぱっと笑顔になるところとか、前世で飼っていた犬に似ていてわりとかわいいと思う。


 まあだけど、プライドは高くても実力のない彼にとって、聡明で気丈なオデリア嬢と並ぶのは、さぞ窮屈だったのだろう。

 ふたりの相性が最悪なことは、想像に難くない。


 だから、そんなアルベルト王子を籠絡させることなど、私にとっては容易いことだった。


 孤児で無教養だが正しく優しい心を持つマーガレット。彼女は、王子が貴族ならば誰もが暗誦できて当たり前の詩を読んで見せるだけで、大げさに感心した。ダンスも勉強もからっきしな彼女は、下賤の出身であるばかりにみんなからいじめられ、王子様が助けてくれなければいつも泣いてばかり。


 優秀すぎる次期王女と比べられ続けて打ち砕かれていた王子様の自尊心を、私が演ずるマーガレットという少女は大いに満たしたのだ。


 アルベルト王子はすぐに、他の誰よりも私をそばに置きたがるようになった。


 といっても、そんな彼にも、私を完璧に愛しているわけじゃない。


 彼は、いつも私の手を疎んでいた。


 物心ついたときから縄を編む仕事をさせられていた私の手には、小さな傷がたくさんついていたし、手の皮も分厚かった。令嬢らしからぬその汚い手を王子様はたいそうお嫌いで、なんども治癒師に魔法で消してもらうように勧めてきた。


 けれども、昇り詰める為にはなんでもやってきた私にとってさえ、それだけは受け入れ難かった。

 凍えるように寒くひもじい冬の日、傷に冷たさが染みて、こんなところ嫌だと、前世のことを思い出しては泣いてばかりいた。そんなとき、仲間たちがなんども温めるために握ってくれたこの手のおかげで、私は現実と向き合うことができた。

 この傷だらけの手は、例え誰もが触れることを躊躇したのだとしても、私にとっては誇りであり、勲章でもある。


 原作ゲームでのマーガレットも、思えば、いつもパーティのスチルでは真っ白な手袋をしていた。前世の乙女ゲームに固執することなどもはや無意味であるが、彼女も、存外私と同じだったのかもしれないとたまに考える。


 なにはともあれ、そんなふうにだいたい完璧に進んでいるように見える私の計画にも、ひとつだけ原作通りとはいかない懸念材料があった。


「フレデリカ・カラマン公爵令嬢、コーデリア・ローレンス伯爵令嬢、エイダ・ウェルシュ伯爵令嬢、みなさんマーガレット・ハートモンド男爵令嬢のお隣に普段いらっしゃる殿方たちの、婚約者です」


 それこそが、いま目の前にいる気品満ち溢れる公爵令嬢ーーオデリア嬢の存在だ。

 オデリア嬢は至極冷静に王子の並べ立てた”罪状”をはね退けると、次々と友人の名を口にする。と、名を呼ばれた令嬢たちは、少しも怯まずに前に出る。あらかじめ、オデリア嬢がなにか言い含んでおいたのだろう。


 そう、原作通り、権力欲の妄執に取り憑かれるばかりのただの公爵令嬢であったのなら、彼女は取るに足らない存在だった。


 だが、オデリア嬢はおそらく私と同じ転生者だ。そしてこのゲームの結末を知っており、今日この日のために入念に対策をうってきた。

 さらにいうのならば、オデリア嬢は王子と私のことを「ざまぁ」したくてうずうずしている。


 オデリア嬢は表には出さなかったが、わざわざ学園で王子の劣等感を煽っていた。


 私としては穏便にことを済ませたかったのだけれど、当のオデリア嬢にその気はまったくないのでは仕方がない。

 おそらく、大勢の前で王子にカウンターパンチを食らわせたいのだ。まあ、気持ちはわからないのでもないけどーーともかく、結果的にまんまと乗せられた王子は、結婚式でオデリア嬢との婚約を破棄するといって、頑なに譲らなかった。


 王子は私を守りたいというよりも、オデリア嬢に恥をかかせたくて仕方がないのかもしれない。

 とはいえ、どれだけ客観的に見て理にかなった事情があろうとも、このやり方じゃあ王子の評価の失墜も免れないんだけどね。



 なんとなくだけど、私には、オデリア嬢が理解できる気がする。


 彼女は必死に努力を積み重ね、その美貌に比肩する品性と知性を身につけた。

 きっと彼女は、どう行動したら王子が自分を愛するようになるのかも、よく理解していた。取り繕うことも媚びることも、彼女にはできたはずだ。


 しかし実行しなかったのは、オデリア嬢の高潔さゆえ。同じ女として、いや、人間として、いずれこのように陥れられる日がくることを分かっていてもそうしなかったことには、素直に敬服の念を抱く。


 だけど、その高潔さゆえーーいや、高慢さゆえに、オデリア嬢は今日私に敗北する。


「わたくしは、自分にはマーガレット嬢を咎めるだけの正当な権利、いえ、義務があると考え、殿下が仰せになられた行動を取りました。しかし、わたくしの忠告は受け入れられることなく、このような結果になってしまったこと、非常に残念に思います。もちろん、言葉足らずだったわたくしにも非があるのでしょう。どうぞなんなりと、おっしゃってください」


 まあ、ようは、「私は止めようと頑張ったけどあんたたち人の言うこと聞かないせいでこんな大恥国が掻いちゃったじゃん。なにか反論があるならいってみろ、絶対無理だけどね、ぷーくすくす、バーカバーカ!」だ。


 うーん、この表情、ノリノリである。

 オデリア嬢の心の中には、すでに勝利の凱歌が流れているに違いない。


 そしてその慢心こそが、彼女の敗因。


 おそらく、オデリア嬢もまた、私と同じように今日という日を渇望していた。

 あんな馬鹿な王太子の婚約者という影に追いやられ、自らの才能を十分に発揮できる機会もない、挙げ句の果てにはいずれ婚約破棄されるという未来が確約されているのだ。いまここで王太子と私を貶めることは、いわば彼女にとっては積年の鬱憤を晴らし、ついに脚光の中自らの真価をしらしめる、絶好の機会。


 だが、私と彼女では、賭けているものが違う。


 オデリア嬢は生まれた時から、なにもかもに恵まれた環境で育った。ここで私に破れたところで、彼女に待っているのは謹慎処分程度。原作では北の大地に送られたものの、そこでもまだ衣食住は保証されている。いまのオデリア嬢なら、労せず新しい婚約者も見つかるだろう。


 それに対して私は、いま持ちうるすべてを賭してここに立っている。 

 一介の下級貴族、それも平民の出だ。魔力の強い血筋を足すために引き取られたのだから、少しでも家の足を引っ張れば、すぐに切り捨てられる。貴族界の顰蹙を買った私は、まずこの国では生きていけないだろう。私が進言して採用された孤児院や貧困層に対する施しもなくなり、何千人という人間がまた飢えることになる。

 

 では、初めは反対していたとはいえ、なぜわざわざ結婚式で婚約破棄などという馬鹿げた行いを王子に最終的に許したのか。

 それは、オデリア嬢だけでなく、第一王子・アルベルトにもここで失脚してもらわなければ私が困るからだ。


 陛下と王妃殿下は、目に入れても痛くないほどにアルベルト王子のことを気に入っている。アルベルト王子が世継ぎになることを覆すのは、難しいだろう。ゲーム内でさえ、あの非常識な行動の後に許されたのだ。

 

 だが、アルベルト王子の権力を削ぐことはできる。

 彼の才覚のなさがここで陽のもとに晒されば、当然臣下たちの心は離れていく。そして、自然と将来王子に近い臣となるものーー生徒政会のメンバーに、王子の手綱を握ることを期待する。


 喜ばしいことに、生徒政会の面々は、愛だの恋だのに現を抜かし、破滅の道に突き進んでいくような考えなしではなかった。

 王子に近づく私を、まず最初に咎めたのが彼らである。しかし、王子のことを気持ち良くおだてながら、正しい方向へ誘導できるのは、私しかいないと最後には納得してくれた。


 はたから見りゃ逆ハーかもしれないけど、要するに利害が一致していたのだ。

 後ろ盾が欲しい私と、自分たちの指示通りに王子を動かすお人形さんが欲しい彼ら。


 『王子をうまく誘導する』という意味では、私がオデリア嬢よりも優秀であると、三年かけて彼らに認めさせたのだ。


「さあ、どうかご遠慮なさらずに」


 そう挑発するオデリア嬢の目は、笑っている。

 確かに、観衆はいま彼女の味方だ。学園のご令嬢方は私を疎んじているし、オデリア嬢の言い分はすべて正論だ。明らかにこちらに部が悪い。


 でも、ここまでのすべては私の計画通り。

 ここでみっともなく取り乱して、あなたに舞台を譲ったりはしないわ、オデリア嬢。


 あなたはヒロインである私、悪役である自分を見て不公平だと感じるかもしれない。


 でも、あなたはとても傲慢な人間だ。

 たとえ私が本当に無知で非常識な平民の女だとしても、暖かい寝床と安らぎと食事を求めて何が悪い?

 媚を売らなければ生きれない人生なのだ。生きたいと、ひととして尊厳のある人生が欲しいと、そして自分の友にもそんな人生を送って欲しいと、そう願うことは誤りだろうか。

 王太子のことを、あなたは微塵も愛してなんかいないのだ。多少恥を掻いたところで、あまりある輝かしい人生が待っている。ならば、ちょっとくらい私に譲ってくれたっていいだろう。


ーーそう、だから、お生憎様だけど、やはり淑女たるもの、愛らしく「ざまあ」しないとね。

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