~香純視点~不思議体験その3
しばらく小吹さん視点続きます。
それから、その白犬は口に咥えた鍵束を私に突き出してきたので、
「私に他の方々の錠を外して欲しいという事でしょうか?」
思わず聞いてしまった。
普通なら犬相手に分かるわけがないだろうと一蹴してしまう事なのに、何故か目の前の白犬は『言葉を理解出来ているのでは?』と思わずにいられなかった。
「ヴォッ!」
すると、白犬は『そうだ!』とでも言わんばかりに吠えて、大きく縦に頷いた。
(あ、完全に分かってるっぽい)
その反応を見ればそう思わずにいられませんでした。
同時に、
「ホントに幻覚でも見ているのかしら……頭が痛くなってきました」
今まで培ってきた常識がガラガラと音を立てて崩れていくような感じです。
(それともこれは夢なのでしょうか?)
目の前の現実が受け入れ難いです。
「ヴォー……」
『これは現実なんだ』とでも言わんばかりにどことなく哀れみを感じる眼差しで、白犬が慰めるように私の肩に前足を置きました。
「ホントに犬なんですか?」
『妖怪とかじゃないですよね?』と思いながら聞いてみた。
「ヴォ!」
『失敬な!』とでも言わんばかりに心外そうに白犬が吠える。
(うん。この件に関しては深く考えない方が幸せになれそうです)
自らの精神保護の為にそうすることにします。
「あなたの事は良く分かりませんが、取り敢えず、やる事は分かりました」
私はそう言って白犬から鍵束を受け取ると、
「ヴォン!」
白犬は満足げな様子で鳴いて、入口の扉の前に座り込みました。
見張りをしてくれているのでしょう。
私は白犬から受け取った鍵束を使って、残りの女性達の拘束を解除作業に勤しみました。
その白犬の不思議はそれだけに留まりませんでした。
「皆さん、ここから出ましょう」
全員を拘束から解き放って私が言うと、
「ヴォン!!」
入口前に座り込んでいた白犬が立ち上がり、私達の目の前に立って行く手を遮ってきました。
「何故止めるのですか?」
その行為に不満を覚えた私は正面から聞きます。
すると、白犬は
「ヴォ!」
鳴き声を短く張上げて、私に後ろを見てみろとばかりに頭を振りました。
「?」
訳が分からず、私は後ろを見ます。
「!」
そして、分かってしまいました。
白犬が止めた理由が。
私達は一番良くてギリギリ立って歩ける程度。
最悪になると立ち上がるどころか、這いずる事すら出来ないといった状態でした。
これでは連中に見つかった場合、どうにも出来ない。
恐らくそれを懸念しているのだと思います。
混乱していたせいか、こんな初歩的な事すら見落としてしまいました。
警察官としてあるまじき失態です。
(彼女達を連れて行く訳には行きませんね)
そう判断せざるを得ません。
ですが、私は……
私だけは行かなくてはなりません。
小吹さん視点の後は、奏視点をやりたいと思っています。




