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とりあえず旅に出よう  作者: ゆたか
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遊びも本気になると遊びじゃなくなるよね

都までの距離はそんなに遠くはない。しかし休憩のたびにヒナムギの練習に立ち会っているせいもあって距離はなかなか縮まらなかった。数日かけてようやく都が本当に近くになると辺りには広い川が広がっていた。観光用の船や貿易用の船、漁をする船もある。川を渡す橋は見る限り大きいのが三本。どの橋も色んな人が往来している。

「わぁ~すごい賑わい。なんだかわくわくしてきちゃった。」両手を胸の前で合わせ歓喜の声を出すヒナムギ。「そうだね~。これだけ都も大きくて人も多いってことは、ようやくひなたんの修行の成果を発揮できるってもんだよね。」goodポーズをヒナムギに向けながらマシィもテンションがあがっている様子だ。その後ろをとぼとぼとついていくレオナルド。かなりテンションが低い。それもそのはず、ヒナムギの練習代になって全身の針治療、全身の無駄毛剃り、髪のカットを毎日休憩の度にしているのだ。顔、形は変形していないものの精神的な疲労に加え、頭はかなり奇抜になっている。恥ずかしさと疲れでぐったりするのもいたしかたない。生気の抜けた目で川の辺りを見ていたら一人の男の姿に目が留まった。その男は水辺の中にある岩の上にあぐらで座っている。すると何かの流れを描くように手を空にゆらゆらしている。下まで動いて止まったかと思うと、勢いよく水辺に手を突き入れた。払うかのような動きをすると次々と魚を岩の上にうちあげていた。”!!この男只者ではない!”レオナルドは目が覚める光景だった。気がつけば三人とも足を止めてその男の行動を見ていた。レオナルドを見てマシィが口を開いた。「あの人に声かけてみよっか。」


その男は小麦色の肌で、充分に鍛えられた上半身であった。近付いて見るほどにできる人間だと緊張するが全く強張るようなオーラはない。声をどうかけようかレオナルドが模索しているとマシィがあっけなく声をかけてしまった。「こんにちは。お魚たくさん獲れてますね。」その声に反応した男は顔と上半身を後ろに向けた。想像とは違い気の抜けたような顔をしている。「あぁ。魚ね。修行してたらこんなに獲っちまったな。」どうやら無心でやっている内に気がついたら大漁になってたらしい。魚を網に全部入れるとこちらの岸まで歩いてきた。意を決したようにレオナルドがその男に語りかける。「流れるような腕さばき。なかなかの腕前とみた。私も鍛錬する身、宜しければお話しを伺いたいのだが。」改まって言うレオナルドに気前よく話し返してくる。「お、あんたもかい?いや〜いつまで経っても熟知はできねぇよな。戦場に赴くにはそれなりに力がねぇといけねぇからな。ホント、日々鍛錬だぜ。」お互いに意気投合したようだ。ようやく出会えた同志と呼べる人間にレオナルドは嬉々している。「俺はライメルだ。ちょうどこの魚を売ったら鍛錬の成果を試しに行こうと思ってたんだ。あんたらも一緒にどうだい?」ライメルは笑顔で誘う。レオナルドは都で腕試しができるとあって即座に同意した。マシィとヒナムギは都の見物と寄りたい所があるらしく二手に分かれて後で待ち合わせ場所に集合することになった。「それじゃ、また後でね〜」手を振る二人にレオナルドはいつになくイキイキと手を振る。「それじゃ俺たちも行くか。」ライメルがレオナルドをある場所へと案内した。


魚を売った後、ライメルはとある入り口で足を止める。チカチカ光る看板。入り口から漏れる爆音。ここはどう見てもパチンコ屋である。「え?…あの、腕試しってパチンコ?」豆鉄砲でも食らったかのような顔をしている。「んあ?そうだけど?あんたもパチンコするんだろ?」…どうやら二人は大きな勘違いで意気投合してたようだ。あの腕の流れるような動きは玉の流れをよんでいたのである。お互いに勘違いしていたことを話したが「あ〜まぁこれも何かの縁だ。おごるからよ、遊んでこうぜ?」拍子抜けしたレオナルドだったがにこやかに誘うライメルに付き合うことにした。入り口が開くと爆音と電飾と熱気で吹き飛ばされそうな感じだ。パチンコ屋は知っていたが初めてのことなのでレオナルドは唾をゴクリと飲み込んだ。いざ出陣である。


中は大勢の客で満席に近いようだ。空いている台に座るとライメルが自分の方にお金を入れた。上から流れる玉を見つめながら右手で調節しているようだ。”こんな感じ。”とレオナルドに向けて眉を上げた。レオナルドの方にもお金を入れようとしたその拍子に隣の台の画面にバンと人がへばりついた。かなり念を込めているようだ。数字が1つずつ合うたびに握り拳を振っている。あとひとつ!とはなれずでその人は画面から崩れてしまった。この脱力感、見ている側も哀れで脱力してしまいそうだ。「今日もまた一人、散っていったか・・・。」ライメルが呟く。レオナルドはその情景にゴクリと喉を鳴らした。たしかにここは戦場だ・・・!遊びだと侮っていたらやられてしまう。すると隣でうなだれた人がこちらを見て話しかけてきた。「お兄さんもしかして今日が初陣かい?」その人はツインテールの可愛らしい顔をしていた。先ほどのせいか目が虚ろで頬がこけているように見えるが。「あ、はい。」と小さく応えるとレオナルドの肩に力強く手を置いた。「戦いはよ~勝つか負けるかギリギリが楽しいのよ。ここにいる奴等はそれに捕り憑かれちまったのさ。隣のお兄さん、しっかりこの人を守ってやんなよ。」ライメルも力強くレオナルドの肩を抱いた。「こいつは任せとけ。負け戦と分かって逃げるのも勇気だってことをちゃんと俺が教えとくからよ。」何だろう。すごくきまってるんだけど何か違う気がする。よく分からないが気持ちを入れていくことにした。気がついたら三人で一台の台をワイワイ囲んでいた。


「お~い、れおたん。今日はどうだった~」マシィとヒナムギが走り寄って来た。「あれ?二人とも何か買い物したんですか?」ヒナムギがキョトンとしている。レオナルドとライメルの腕には沢山の物が袋から溢れそうになっている。マシィとヒナムギにおみやげだよとライメルがウインクした。隣でレオナルドもにこやかに笑っている。陽も落ちてきたので今日はライメルと同じ宿に泊って一緒に食事をすることにした。今日あった出来事に花が咲く。その日はみんな遅くまで飲み明かした。


今日も一人仲間が増える。旅はこうでなくては。

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