番外編4 ハングストン事件~ベルマーグ視点・52年6月~
6/3深夜
私はベルマーグ。警察だ。王都を特に守っていたりする。
「ハングストンで事件? 確かにあそこを領地にしていた公爵は死んだが……」
「ベル、本当なのよ。警察なら出来るでしょ? 」
「うーむ」
恋人であるミーナから相談をされた。ミーナはハングストン出身らしい。
「分かった、調べるよ」
「ありがとう! 」
ハングストンは最北にあり、馬車でも地形と気候が悪いため2日はかかる。あまり行きたくないがまあ仕方ない。
「さて、と」
「ん? ミーナ、もう帰るのか? 」
「うん。お母さんに会わないといけないから」
「大変だな、頑張れよ」
「えへへ、じゃあね」
馬車を早速予約し、私は警察本部へと向かった。
6/4朝
「おや、ベル。どうしたんだ? 」
「実はですね」
報告なしに他のところへのお出かけは禁止されており、一応上司に報告する。面倒だ。
「ううむ、大変だな。どんな事件かは直接行って確認を」
「はい」
許可がおりたため、早速予約した馬車に向かう。しかし、王都も広いな。
6/5夜
途中、カーンという小さな町に泊まる。カーン公爵が治める領地の中心都市で料理がとても美味しい。
ベレツオのトマト煮込みを食べたが、ベレツオがとても柔らかく、本来味がしないベレツオにトマトの味が染み込んでおりおいしかった。
「警察の方ですか? 」
「ええ、まあ」
「大変ですね、極北の都市へ行くなんて」
「いやあ。お仕事、いいのが中々まわらないので嬉しいぐらいです」
「ははは、そうなんですか」
つい話し込んだが、まあ大丈夫だろう。
6/6朝
朝はレムアの塩焼きを食べた。カリカリとしており、リーガという野菜によく合っていた。しかも塩加減も程良くて中々おいしかった。
「さ、行きますか」
「気をつけて」
馬車に乗り、景色を眺めていると、国が所有しているはずの土地は荒れ放題。警備担当が嘆くのも当たり前だ。あとで友人に謝ろう。軽く思っててすまなかった、と。
「あら、あなたは警察のお方? 」
「あ、はい。伯爵夫人、どうされましたか」
「お友達であるリメヒダ公爵夫人とお手紙の交換が途絶えたのよ。何か知っているかしら? 」
まさか乗り合い馬車であの伯爵夫人と……。しかもリメヒダ公爵夫人と……友達!?
「リメヒダ公爵一家は行方不明との報告が少し昔、警備担当の者から来ていましたが、何せ王都からかけ離れており情報入手が困難なんです」
「あらまあ……そう……じゃあ、音信不通な理由は? そこにいたなら、の話よ」
「天気が悪化しており、という可能性もあります」
「あちらにつくまで分からないのね」
返す言葉もなく、寝ることにした。
6/7早朝
「ふう、着いた」
普段から閑散としているこの町。伯爵夫人は震えだした。
「寒いわね。たかが5℃って聞いたのだけれども」
「平均気温は-5℃です、寒いですよ」
「うーん、まあとりあえず館に」
館をノックしても誰も出ない。私は万が一、と渡されていた鍵を使う。
「埃だらけですね」
「夫人である私が入れないわ」
「私がいきます」
見たところ、何ヶ月、いや何年も放置されているようでとても公爵の家とは思えなかった。
「む? 」
人形がリビングにあった。可愛らしい。そういえば愛娘を他の公爵に自慢していたようだから、これは娘のものだろう。
しかし、この家には主の姿が見えない。仕方なく、夫人の部屋へ。
「『25日は娘とお出かけよ、うふふ』? これか、夫人宛の手紙は」
私はとりあえず外に出ることにした。
「夫人宛の書きかけの手紙が見つかりました。しかし、事件に巻き込まれた可能性が否めないので、持ってくることはできません」
「ここにも警察いるわよね? 」
「ええ。夜になれば私の友人を含めた警備隊が帰ってきますよ」
「夜まで? 私はどうすればいいの? 」
「そうですね、ここなら料理もかなり美味しい……あ、関係者として警備隊の建物に入る手もありますね」
「それがいいわ。あなたを待つ間、少しうろついたけれども、なあんにもないのよ」
「……これでも発展したんですよ」
元々、この辺については先住民のような人がいたらしい。しかし、彼らは発展することを望みこうなった。
しっかりした家、美味しい料理。彼らが求めていたのはそこまでだった。
「お、どうした、マーグ」
「そっちこそどうした? いつもより早いな」
「今日は昼までなんだ」
「そうか。ところでリー、この館はどうなっているんだ? 」
「……公爵一家は消えた。最近、誰かが消えるんだ」
「まさか、それが」
「ここで起こっている事件だ」
同日夕方
伯爵夫人の疲れもとれたところで、マーグの家(大きい)で食事をとりながら事件の概要を聞くことにした。
ちなみに食事はディアのスープ、レムアの蒸し焼き、ブレッド、リーガの和え物、木イチゴのタルトという恐ろしい量だった。(全て伯爵夫人が食べたいもの)
「あら、美味しいわ。ここのシェフも一流ね」
「いえ、僕が作りました」
「まあ、すごいわね。きっと結婚できるわよ」
「ありがとうございます」
マーグには奥さんがいたはずだ。この多忙さから子供はいないらしいが。
「マーグ、奥さんはどうした」
「僕の妻も被害者だ」
「……すまん」
「人が消えるなんておかしいわね、どういう事件なの? 」
「それが、公爵一家なんて『こんにちは』と言ったメイドがすれ違った後、振り返るともういなかったらしい」
「変だな。館なら廊下の長さからして一瞬で、というのはありえない」
「メイドにも来てもらった」
「すみません……」
いつの間にかそこにはメイドがいた。黙々と食べている伯爵夫人も顔をあげた。
「私、公爵様が魔法をお使いになるなど聞いたことがありません……」
「そういえば公爵以外は? 」
「伯爵夫人は見ていませんから分からないでしょう。リビングの人形、書きかけの手紙。二人も同時に消えたということです」
「公爵様たちは魔法により連れ去られたのですよね? 」
「あ、まあ、はい」
マーグが曖昧に頷くのは警察は魔法を認めるなという厳しいルールゆえである。もし一般人なら激しく頷いていたはずだ。
「警察は残念ながら未だに魔法が認められないのです。ですから─」
「そういえば怪しい人物っていないのかしら」
「怪しい人物、ですか? 」
空気を読まない伯爵夫人がメイドを更に困惑させる。仕方ないだろう。
「伯爵夫人、公爵一家はかなり前から行方不明なんですよ」
「あら」
「2年前のことですよ」
「それでは詳しいことはまた今度」
6/12朝
やっと王都から警察が来た。静かすぎる町に不信感を覚えたようだ。
「やあ、マーグ」
「ハインストン署長! 」
「思わず来たのだが、ここは人口が減少したのかね」
「いえ」
「我々は先日、公爵一家の骨を荒れ地にて見つけた」
「……それは」
後ろにいたメイドがお盆を落とす。いい音が響く。
「公爵様、奥様、リーナ様が……」
「君はあの屋敷にいたメイドなのか? すまないな。無事に見つけられなくて」
「いえ……」
フラフラするメイドは大丈夫なのだろうか。
6/20夜
被害者は増え続ける。しかし、事件は解決しない。
「ふう……」
「あ、ベル」
「ミーナ!? 」
「心配で見に来ちゃった」
「そ、そのナイフは……」
ミーナの手には血塗られたナイフが。ミーナはすぐに狂ったように笑い始めた。
「キャハハハハハハ!! 見られちゃったあ、殺しちゃおうかなあ? 」
「お、落ち着けミーナ……」
「はーい、私が連続殺害事件、通称ハングストン事件の容疑者でーす! キャハハハハハハ!! 」
ミーナは狂っている。なぜ、気づけなかったのだろうか。
「あなたは人を信用しすぎだよ」
ミーナはそう言い、俺を刺した。
月が綺麗な夜だった。
ハングストン事件 50年~52年
2年間にわたり、人々が殺害された事件。発端は公爵一家とされる。
犯人は未だに不明である。
55年・追記
あの公爵の手先かもしれない。




