第一話 外の世界~カスティーナ視点・10月15日~
お兄さまに引き連れられ、私は外の世界に来ていた。何があるのかな。
「今日はカスティーナにプレゼントがあってな」
「まあ! 嬉しいわ! 」
お兄さま大好き、と抱きつこうかと思ったけれどもはしたないと感じ、やめておいた。
お兄さまは店先の宝石を一つ手に取り、私に見せてきた。ダイヤモンドのネックレス!
「ほら、綺麗だろう?」
「まあ、宝石! こんな風に売っているのね」
「カスティーナにこのダイヤモンドのネックレスをあげるよ」
「お兄さま、ありがとう!」
「誕生日だからね、当然だよ」
他の兄や姉が末の私を無視するのに、ダニエルお兄さまは無視をしない。誕生日にはプレゼントをくれる。
お兄さまは笑顔で私と手を繋ぐ。
「さ、早く戻ろう。トスカーナにバレたら大変だ」
トスカーナお姉様は私やダニエルお兄さまにとって恐怖の存在。トスカーナお姉様は第一王子であるダニエルお兄さまと結婚する気でよくくっついている。そして第五王女である私がそんなダニエルお兄さまと将来結婚するのが気にくわないのだ。
王宮に戻ったものの、元気に出迎えてくれるトスカーナお姉さまの姿はない。どうされたのかしら。
「トスカーナは? 」
「寝込んでおられますよ。お見舞いにきてほしいと言っておられましたが、流行病でうつりやすいのでご遠慮してください」
「あ、分かりました」
トスカーナお姉様は昨日、慣れない外の世界に出た。ダニエルお兄さまが外に出るからついていったというのが正しいけれども。そしたら流行病を持って帰ってきたらしい。
「トスカーナは病弱だというのになぜむきになるのだ? 女が権力を握れないというのは常識のはずだが」
「……」
嫉妬だと、私は言えなかった。
それからしばらくして、第二王子であるミハエルお兄さまが遠征から戻ってきた。お酒くさい。
「よう、トスカーナはどうだい? 」
「流行病で弱っている」
「はあ? 何やってんだよ」
「それが兄に対する態度かよ! あいつが悪いんだ」
「んまあ、そりゃあそうだろうがなあ」
ミハエルお兄さまはトスカーナお姉様の婚約者だった。優秀な騎士で国に貢献している。だが、お姉様は酒癖の悪いミハエルお兄さまを毛嫌いし、婚約を破棄した。お父様は憤慨している。
「それでミハエルはわざわざあのバカの命日を祝いに?」
「あ、ん、そうだな」
「人を勝手に殺さないで! 」
「ああ、悪い悪い」
いつの間にか現れたカスピアお兄さまはミハエルお兄さまをポカポカ叩いていた。
無能のため放置されている第四王子・カスピアお兄さまはいつかお父様に殺されると言われている。怖い。
「俺はなあ、遠征終わったというかお父様に呼ばれて戻ってきたんだ」
「え? 」
「どうせ昇格ですよね、オメデトウゴザイマス」
「きっと昇格だわ、ミハエルお兄さま」
「へへん」
すると、近くのトスカーナお姉様の部屋の扉が開いた。
「おめでとう……」
「トスカーナ! 」「トスカーナお姉様! 」
慌ててよけた。皮膚がどす黒く変色し、美しかった淡い緑色の髪はほとんどなかった。
「おとなしくしてろ」
ダニエルお兄さまが扉を閉める。先程まで明るかった雰囲気から一気に暗くなる。
「あれはなんだ? 」
「……厄介だな。遠征先でこの病気になる毒があってな、村がぼろぼろになっていた」
「え、人為的なの? 」
「じゃあ、王都で飲み物を貰ったのが……」
「ウェルズ伯爵からだろ? 」
「……! 」
最新の毒物を作り密かに敵国に撒き、有利に勝てるようサポートする。その役目を担っているのが、ウェルズ伯爵。
「ウェルズ伯爵はトスカーナが大嫌いだからな」
「そういえばダニエルお兄さまがお忙しい時に
・・・! 」
ダニエルお兄さま以外の兄妹とお父様とお母様でウェルズ伯爵にトスカーナお姉様とカスピアお兄さまが婚約することを報告しに行った。
それまでお姉様が貪欲だとは知らなかったため、お父様は王妃になると負担がかかり、病気になるかもしれない、とあえて王位継承を破棄したミハエルお兄さまを婚約者にした。しかし、それが裏目にでた。
ウェルズ伯爵の家で今まで人形の様に扱われていたことへのストレスが爆発した。人の家をめちゃくちゃにし、ウェルズ伯爵を怒らせた。こんな奴と婚約させるな、と言われ婚約解消。酒癖が悪く権力もないミハエルお兄さまがとにかく嫌いでたまらなかったらしい。
「あの時は知らなかった。一介の騎士だったからな。やっと教えてもらい、お父様に呼ばれたからついでに忠告しようと思ったら手遅れだったわけだ」
「早くお父様の元へ」
「ああ」
笑顔でミハエルお兄さまは走っていった。
後先を考えない自業自得な女。




