番外編3 あなたの手~ミーナ視点・50年9月25日~
今回は9年前のお話。
私は本当の両親なんて知らない。知りたくもない。今の両親が本当でいい。
「あ、う……」
今日は初めて人を殺した。お父様と同じような領主。幸せそうな姿がにくかった。
「酒場で休憩しようかな…」
コートを脱ぎ捨て、私は酒場へ向かう。足取りは少し重い。
「遠征だ、いえーー!! 」
「……」
バカを尻目にナイフを拭く。遠征して何の意味があるの?
「リーア? 」
「……」
「あれ? リーア、だよね? 姉妹のこと聞いたことないし」
「赤の他人です。構わないでください」
「それにしては似てるなあ」
「邪魔です」
その男の胸元をよく見れば、遠征隊隊員バッジが。しょんぼりする男は酒が入っているらしい。
リーアは私の姉らしいが、知らない。見たこともない。
「おうおう、可愛いなあ」
「……」
私は拭き終わったナイフをなおす。はあ、とため息をつく。
「お? 帰るのかい? 」
「あなたには関係ない」
公爵の遺体のそばに向かう。コートを拾い、魔法で綺麗にし、羽織る。ここは寒い。
「寒そうだな」
振り返ると、私の姉を知るという男がいた。ついてきたのね。厄介。
「文句あるわけ? 」
「ほら、手がこんなに冷えている」
「っ~! 」
初めて手を握られた。とても暖かくて大きな手。
「少しは暖かくなった? 」
「……少しなら感謝してあげる、ミハエル」
「あれっ、名前、知っているのか」
「当たり前でしょ、父親は公爵よ」
「あ、そうか……それで」
「あなたはこれからどうするの? 」
「んー別の町に行くよ」
「そ。私の目的地と被らないといいわね」
「ひどいこと言うなあ、もう」
こういう他愛もない会話、憧れていた。私の顔はどんな風なのだろう。
「あ、やっと笑った」
「フフ、こんなに楽しいの初めてだから」
「じゃあ、また」
もう二度と会うことはない初恋の人。ありがとう、感情を思い出させてくれて。




