番外編1 トスカーナ王女の生まれた日~ウェルズ伯爵視点・39年2月14日~
今回は20年前のお話。
今日はトスカーナ王女が生まれる。ダニエルたちはそわそわしている。
「ダニエル様~! 」
「どうした、そんなに慌てて」
「伯爵! ダニエル様とミハエル様がまた下級貴族の子供と遊んでいますのよ! 」
「はは、子供らしいじゃないか」
「これだからもう! 」
彼女には子供の気持ちがわからないようだ。全く、呆れる。
「あ、おじさん! 妹、まだ? 」
「ん、まだだよ」
「妹には名前どうつけるの? 」
「さあな? 」
「あー! 知ってるでしょ!」
ダニエルはミハエルに呼ばれるととんでいった。さすが子供。
「ふう、さて」
私は一冊のノートを取り出す。今日はあの人たちの喧嘩に立ち会うのか。憂鬱だ。
「リュメヒ公爵、フォルツェ公爵」
「む」
リュメヒ公爵の傍らには弟であり、次期公爵のマークがいた。
既に二人は息がぜえぜえ言っており、口喧嘩も佳境をむかえたところのようだ。
「フォルツェ公爵の屋敷は貧相だ! 」
「リュメヒ公爵の屋敷は派手すぎる! 」
「あの庶民的なところの良さが分からないのか!? 」
「派手とは失礼だな! 」
二人がこのように喧嘩をすると、下手したら1日中ずっと止まらない。そこでストッパーとして私が選ばれた。
ちなみに毎回王都の酒場で行われる。
「お互いいい加減認めたらどうだ? 」
「嫌だ! 」「嫌だ! 」
……やはり仲はよい。
「それにしても、ト・モル公爵は生まれた愛娘にべったりのようだな」
「あの親バカめ」
「北のリメヒダ公爵も文句を言ってこないなあ」
「リュメヒ公爵に呆れたんだろうな」
「何だと!? ハンゲル! 」
「本名で呼ぶな! ウェイト! 」
ハンゲル=フォルツェ、ウェイト=リュメヒに口出しをすることで有名なリメヒダ公爵。彼はあんなに寒い地を治めており、立派だ。
「リメヒダ公爵か。おら、噂聞いたぞ」
「マスター、何ですか」
「リメヒダ公爵が逃亡した、と」
「はあ?あいつ、美人な夫人とすごい可愛い5歳の娘がいて幸せだと聞いてるが」
「そうだよなあ」
リメヒダ公爵はあまり見かけないが、逃亡とは。おかしい。
「そろそろ帰ろう、マーク」
「…分かった」
マークたちが帰ると、わあっと大通りから声がした。
「王女様が生まれたそうだ」
「名前は? 名前は? 」
「トスカーナらしい」
ほう、やっとか。私が笑顔で王都の人たちの会話を聞いてると、フォルツェ公爵が泣いていた。
「そんなに嬉しいのか」
「……まあな」
二人で王宮に向かうと、ダニエルやミハエルが泣いていた。公爵と同類か?
「トスカーナ、からだちいさくてよわくてかわいそう」
「ミハエル、大丈夫だよ」
病弱か。私の予想がまた当たった。
乳母の泣きそうな顔を見て私は鼻で笑った。




