第十四話 疑念~ミハエル視点・7月1日~
お父様が亡くなったことを悲しむ者はいたが、誰もその死に関して疑問を抱くものはいなかった。確かにお父様は素晴らしい建国者だっただろうが、税のことについて不満もあったはずなのに。
そこである考えにたどり着いた。
「お前か、ミーナ」
目の前に静かに現れたミーナはゲス顔で話し始めた。ポケットからナイフを取り出している。
「ええ。王族に関わるからねえ。感謝というかリーアを世話してくれてありがとう、みたいなぁ?」
「確かに助かるが…」
「文句でもあるわけぇ? 」
「…」
ミーナは笑い声をあげている。狂っている。とても、危険だ。
「文句ないのね? さあて、情報圧制してこようかなぁ? 」
一刻も早く立ち去りたい。この王宮から。
リーアがやってくると、早速提案した。
「どうしたの? ミハエル」
「フォルツェに逃げよう」
「え? 」
リーアは驚いた顔をしていたが、ミーナの笑い声が聞こえたようでゆっくりと頷いた。
「フォルツェならミーナの義父…というか戸籍上父の家から遠いから安全だわ」
「つまり、両親が縁を…」
「違うわ。ミーナがあの人達に懐いたの」
「ミーナの性格が違いすぎるのも処刑されたあの領主のせいか」
「そうよ」
フォルツェに行くことをお母様に伝えると笑顔でただ頷いた。
「お母様はいいのですか? 」
「ええ。ダニエルを支えるのが私の役目だから」
「そうですか…」
フォルツェは王都の西にあり、自然豊かなところ。フォルツェ公爵はカスピアを嫌っており、仲良くする気はないので数少ない味方である。
「御者、フォルツェまで行くぞ」
「はい」
不安そうなリーアの手を握り、安心させることにした。
…2時間ほどだろうか。フォルツェ公爵の屋敷に着いた。
「これはこれは」
趣味であるガーデニングを楽しんでいたらしく、公爵にしては随分ボロボロの格好をしていた。
「突然申し訳ありません。実は」
「私も聞いてるよ。伯爵、トスカーナ王女、国王が殺されていてカスティーナ王女は理不尽な追放処分を受けた、と」
「誰からそのようなことを…」
「ミーナがいるだろう?彼女に勝る諜報員を王宮と王都に…な」
「…なるほど」
昔から張り合うフォルツェ公爵とリュメヒ公爵。諜報員のことでも張り合うのか。
「まあとりあえず応接間に行きたまえ。ユイ、お茶を出しなさい」
「はい」
応接間はリュメヒ公爵の屋敷と違い、庶民的な部屋でとても落ち着ける。
「どうぞ」
「おっ、これは」
「まあ」
「フォルツェ公爵のお庭で育てられた最高級のものです」
公爵は着替えてやってきたらしいが、どこからどう見ても公爵というより下級貴族のような…。
「すまないな。本来なら娘がいるはずだがまた出かけたようだ」
「そうですか…」
「しかし、あの男め、まるで鏡写しのような人を残すとはな」
「ミーナですか……」
ミーナについてはリーアが一番詳しい。しかし、リーアは黙っていた。
「貴族としてよりも、暗殺者として生きたい気持ちが私には理解できないな」
「俺もです」
カスピアがこれ以上何もしないことを祈った。




