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《第八章【ふたりの従者】》 -1-


 カルタゴでの商売は好調で、執事(バトラー)のハマスが全て上手くやってくれていた。アクト=ファリアナからの品物もその殆どが売切れ、残りは宿屋の女将に原価割れの値段で安く売り渡した。但し、その代わりに宿代をちゃっかりとまけて貰う。


 人数が人数だけに、総額にすればそれなりのモノだ。


 そして、明日には次の交易地であるカナンサリファへ移動することに決めた。と、その前に。次の交易地で売りさばく品物をここで仕入れて置かなければならない。



 カルタゴには《ハインハイル交易ギルド》の支部が無い為、名産品を交渉しその場で値切り仕入れるしかなかった。が、ハインハイルには秘策があるらしく。ミカエルもアヴァインも苦笑いながらではあったが、そこは任せてみることにした。



「ええ? コイツが銀貨18枚!? 冗談だろう。精々、銀貨10枚ってのがいいトコだ」

「バカなことは言わないでおくれよ。こっちだって商売をやってんだ! そんな値段で売っちまったら破産しちまうよ」


「しかしこの細工モノで使っている鉱物の一部なんて、鉱山都市アユタカへ行けば1キロ銀貨120枚程度の品物だぜ。

それとここで採掘してる鉱物となら、そんなには高くはならないだろう?」

「この水晶が、1キロで銀貨120枚だってぇ? 

アンタ正気かい?? どんなに安くても、1キロ銀貨240枚はする希少価値のあるモノなんだよ。

疑うのなら、その辺りの鉱物屋へ行って確認して来な!」


 それでそこの女将さんは、『ふん!』とばかりに顔を横へ向けていた。


「そうかい? なら……」


 そこでハインハイルが目配せをし、そのハインハイルの従者である男があるモノをその女将の前に『ドン!☆』と置いた。 



 それは、鉱山都市アユタカで採掘されている《水晶の原石》だった。



「コイツを、銀貨220枚で特別に安く売るからよぉ~。その分、安くしてくれねぇかぁあ~?」


 なるほど……これは巧い商売だ。


 本当は、鉱山都市アユタカの現地では1キロ銀貨110枚が現在の相場である。

 アヴァインとミカエルさんは、そこで納得顔に顔を見合わせ互いに微笑む。



 結局、輸送コスト等も踏まえ、その水晶を銀貨200枚で約30キロ分全てを売り。今すぐに払いきれない銀貨3000枚分については、借用書を書いて貰っていた。


 更に、今後その店を足掛かりとして定期的に水晶の原石を安く売り捌き。その代わりに、同じく安くカルタゴ特産の細工物を仕入れられる様に交渉していた。


 しかもついでに《ハインハイル交易ギルド》への加入をも誘い、その《支部》として活用出来るようにも話を付けていたから大したものである。



「これまで、このルートは危険だと思いあまり開拓してなかったが。これを機に、足掛かりを作って交易の幅を広げて行くことにしようかと思ってなぁ~。ハハハ♪」


 ハインハイルは笑いながらそう言った。


 ギルドマスターのブリティッシュは、『ハインハイルには商才は無い』と言っていたが。決してそんなコトはなさそうだな、とアヴァインもミカエルも聞きながらそう感じていた。


 そうこうしていよいよ、次の交易地であるカナンサリファへと向かうことになる。




 夕方、ふと気が付くと。カルタゴの街中が一斉に活気付いていた。何事かと宿屋の女将に訊ねると、新しいこの街の代表となる評議員が今日の投票で先ほど決まったのだそうだ。



 その者の名は、オルビスク・エバーソン評議会議員。



 これまで鉱山都市カルタゴは属州国であったが、今回の評議会選挙を前に属国へと降格していた。


 前のこの地の貴族員であるグラート・ヒルズグレンは、汚職などの噂が絶えない人であったそうだ。そうした経緯もあり、余りこの地では馴染みの無い男ではあったものの、首都キルバレスから派遣されて来た現職の評議会議員に皆の評が集まり、結果として大勝したそうである。


 アヴァインは歴史的変革ともなるその者の顔を一度見ようと、宿屋を出る。それへハインハイルとミカエルさんも「どれどれ♪」といった感じで面白半分で付いて来た。


 どうやら、ついでにもしもそこに居たらだが落選したグラート・ヒルズグレンの悔しがる顔を拝んで見てみようという腹もあるみたいだ。



 実に困ったものである。



 大勢の人だかりの中どうにかこうにかして、やっとの思いで覗いて見れば、年齢的に40歳前後くらいの男で。意外にも、どうもパッとしない印象の人だった。


 実に評議員らしい笑顔で軽く手を挙げ、皆の拍手喝采に応えている。



 しかしこの何ともパッとしない男がやがて、アヴァインにとって……そしてこの国の歴史にとっても、一つの衝撃的な1ページを飾る人物となるのだが。この時は誰も、予想出来ないことであった。




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