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《第七章【カルタゴの奇跡】》 -3-


 結局……出発は翌日に延期され。交易品目を痛々しいほどにボロボロな顔のハインハイルと共に買い集め。傭兵20名と契約をし。総勢35人の商団で鉱山都市カルタゴを先ずは目指すことにした。


 今回の商団には、ハインハイルの他にミカエル・カンパウロという50歳のベテラン商人も参加してくれることになった。


 なんだか優しい感じの人で、常にニコニコと笑顔を絶やさない。《ハインハイル交易ギルド》でも常に上位の売り上げをキープしている人らしく、そういう人と一緒に行商が出来るなんて、実に幸運な話だ。



「いいかい、アーザイン。このミカエルさんの(あきな)いモンを、しっかりと学ぶんだぞ」

「ハハ。そうさせて頂きます」


 事実、ミカエル・カンパウロの話は、実に為になるものばかりであった。



「一つ問題があり、一度、それが上手くいかなかったからといって。その行動そのものを否定的に考えるのは、余り巧い考え方だとはいえません。

大事なのは、その試した行動の中で何が問題であったのか? どこを正せば良いのか? どうすれば、それは解決出来るのか? その場合の、メリットとデメリットは何か? 是正後、どうで。結果はどうであったのか? 次に、今なにが求められているのか? そうした事、一つ一つを積めていく事なのだと私は思います。

そうした日々改善の積み重ねが、何よりも大事なのです。

そして……人は、生き物である……という事は。人を相手とする商売もまた、生き物なのです。

『これで満足』という事はないのですよ」


「なるほど……大変、勉強になります」



 ミカエル・カンパウロからすれば、今いった様な事は経験として当たり前なことなのだろう。スラスラとそういった事を自然に笑顔のまま教えてくれていた。


 一方、隣に座るハインハイルの方は、分かった様な、分からない様な表情を浮かべ。時折、ため息をつき眠たそうにして聞いている。そんなハインハイルを見て、アヴァインは思わずクスリと笑む。



 アヴァインは共和制キルバレスの政治の中心近くで長いこと色々なことを見聞きし、自分なりに考え生きてきた。今、ミカエル・カンパウロが言った、『人は生き物である……ということは。人を相手とする商売もまた、生き物なのです』という言葉は、つまり。

 人を相手とする『国』にも通じるものがあるのではないか? と、アヴァインなりにふと考えさせられていたのである。


 だから常に、『そうあって欲しい』と願う方向へと導く努力が指導者には欠かせないのだと感じた。



 しかし共和制キルバレスは、議会制の民主国家である。

 色々な人の声に耳を傾け、相談し合い、決めていく。

 そうした議会制のこの国では限界もある。それを続けていくのは恐らく、大変で困難なことだろう。思う様にいかないことも、当然に多い筈だ。それが恐らく、この議会制民主主義のデメリットでもある。


 しかしミカエルさんの話からすると、デメリットが在るということは、メリットも在るということだ。漠然とだが、それはとてもよく分かる様な気がする……。


 多くの妥協の中に、一つひとつ自分の意見を組み入れていく。それはきっと中々思うように進まず苛立たしいことであるが、それが恐らくミカエルさんが言う所の『日々改善の積み重ね』であり、今のこの国が執れる最善の方策なのかもしれない。



 アヴァインはそう感じていた。

 


 ◇ ◇ ◇


 アクト=ファリアナから鉱山都市カルタゴまでは、7日程で到着した。


 カルタゴに近づいて来ると、途中途中で頻繁に人と擦れ違うようになり、その皆が手に大きな水筒を携えている事に気付く。


 このカルタゴは、カンタロスの大水源に近いこともあり、街には水道も通っている。何もわざわざ街の外へ水を汲みに行く必要はない筈なのに、なんだか不思議な光景だ。



「……どうして皆、大きな水筒なんて持ってるんでしょうね?」


 馬車の中からそんな外の様子を眺め、アヴァインは誰にという訳でもなく一人そう零していた。


「実をいうと私も、ずっとその事が気にはなってはいたんだが……やはり変だよなぁ? もしかすると、街の水道が壊れてんのかぁ?」


 前の席に座るハインハイルがそう言い、次にやれやれといった感じで吐息をついている。

これから向かう街の水道が壊れているというのは、何かと不便だからだ。


「いえ……例え水道が壊れたとしても、この街には昔からの古い井戸があった筈です。なので、それが理由であるとは少々考え難いですね……」

「あ、そうか。そういえば、そうでしたなぁー」


 ミカエルの言葉に、ハインハイルは『そうだった』とばかりに思い出した様な顔を見せている。


「しかし、だとすれば尚更に珍妙な光景じゃないですか。どうして水筒なんぞ持っているのです?」

「さあ……それは流石に私にも」


 ハインハイルの問い対し、ミカエルは困り顔を見せ肩を竦ませている。


「まあ、我々が幾らここでこうして考えていた所で、答えなど何一つ出ないでしょう。何事も分からないことは聞いてみるのが一番ですよ」


 (もっと)もなご意見だ。


 

 そんな訳でミカエルさんが丁度近くを通っていた人に事情を聞いてくれた。

聞いてみるとなんてことはなかった。


 この鉱山都市カルタゴ周辺の地下は多くが固い岩盤に覆われていて、カンタロスの大水源から流れてくる水が行き場を無くし、その岩盤伝いに『湧水』として各所で溢れ出しているのだが。最近、その中の一つの湧水から病をも治す程の効能を持った変わった性質の水が溢れ出しているのだそうだ。



「……本当なんですかね? 今の話……」


 馬車を再び走らせて間もなく、アヴァインはハインハイルにそう聞いた。

ハインハイルの方はそれに対し、肩を竦め見せている。


「さぁてなぁ~……まぁ~大方(おおかた)、温泉交じりの水でも湧いた、なんてオチじゃないのかぁ?」

「ハハ。そういえば温泉も、この辺りには多いですからねぇー」


 カルタゴは温泉が多く、療養で訪れる人も居るくらいだ。ただ、旅時の治安の悪さからそれほど多く訪れる者の数は居ないが。


「まあその辺りも含め、今晩泊まる宿の主にでも一度聞いてみることに致しましょう」

「それもそうですなぁ~。酒の摘み程度に、聞いてみることにしますか♪」



 ハインハイルは陽気に笑いそう言い、それを聞いてアヴァインも思わず笑む。




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