《第六章【仮面の商人】》 -2-
かつて、メルキメデス家が支配していたコーデリア国の旧・首都アルデバルは、人口200万人を越える共和制キルバレスでも第2位の大都市である。
共和制キルバレスへ併合され、それに合わせ新たに建設された尖塔状の高層建造物である科学アカデミービルと、キルバレスから派遣された役人が居る《政都庁舎》を中心に、街が円形を描く様にして広がっていた。
この都市は大変に活気があり、人通りも非常に多い。首都キルバレスと比べても、遜色ない程だ。
アヴァインは、この街で商売を始める為に、アクト=ファリアの闇市でそれまで身から離した事のなかった長剣を売り払い、お金に換える。流石にアナハイトのキルク・ウィックの持ち物であっただけに、無駄に装飾の多い長剣であったのもあり、予想以上の高額で売れたのは幸いだった。
そのお金で幾つかの特産品を買い、それを州都アルデバルに持ち込んでいたのだ。
アヴァインの背中に担げる位の量で、数こそ少ないが。水晶を磨き削って造られたそのアクト=ファリアナの民芸品は、州都アルデバルに持っていけば飛ぶように売れるのだという。
アヴァインは情報屋からその話を聞き、その通りにし、州都アルデバル市街の裏通りにある市にてその品を広げていた。
すると間もなく、一人の紳士が並べた品物の一つを見るなり、こう聞いてくる。
「君、その青白い水晶……銀貨3枚って、本当なのかね?」
「え?」
言われてみて改めてその商品を見ると、アクト=ファリアナの闇市で買った時の値札が、そのまま貼り付いたままだった事に気づく。
「はぁ……どうも、その様で……」
「それは安いね! じゃあ、買わせて貰うよ」
そんな訳で、銀貨3枚でそれは売れた。が……利益は0だ。輸送費分、赤字とも言える。
思わず、ため息が出てしまう話だ。まさに迂闊だった。
つくづく、ファーの言葉がしみじみと身に沁みるよ……。
アヴァインは他の品物にも貼られていた値札を剥がし。それを木板に配置通りに貼り付け、品物を一つ一つ磨いていた。
すると、次に女性の客が足を止め、聞いてくる。
「こんにちは!」
「あ、どうも……いらっしゃいませ」
「ねぇー、お兄さん。その猫の水晶は、おいくらなの?」
アヴァインは木板に貼っていた値札を見る。
そこには、銀貨6枚と書かれてあった。
「えーと……じゃあ、銀貨8枚で」
「おおー! だったら、買うわ!」
……どうやら、まだそれでも安かったらしい。
その人はそれを2個もご機嫌顔でニコニコと嬉しそうにして買っていった。
猫は、どうやら人気があるみたいだな。
そういえば自分も、これには一目惚れをしてまとめ買いしちゃったんだよなぁー。
小さいけれど、造りが良くて可愛いから、「これは売れる」と思ったのだ。
全部で6個あり、その内の4個がその日の内に売れ、次の客には銀貨10枚で売った。
それでも安いのかな? と思い、その次の客には試しに銀貨16枚と言ったら、苦い顔をされ値切られてしまい、銀貨14枚にされた。
どうやらこの商品は、この位が相場らしい。
他の商品も、その猫の水晶基準で値を付けたが、それでは全く売れなかった。倍の値段も付けられないのが殆どだ。どうもこの街の人達は、猫好きな人が多い様だ。
その他に、やはり動物などの置物と身に付けられるお洒落な飾りなどの小物がよく売れた。今度の仕入れでは、そういうものを中心に買う事にしよう。
今日一日で、12点が売れ。売り上げは、銀貨107枚。
今晩泊まる宿代と食事代で、銀貨10枚が無くなるから、残り97枚。
手元の商品はあと8点あるので、明日まであそこで売り、また再びアクト=ファリアナで仕入れを繰り返す事にしよう。
……所が、次の日は全くといって良い程に売れなかった。
残った商品は、やや高額なものばかりで、そうそう売れる商品ではなかったのだ。猫の置物だけは、直ぐに売れたのだが……。
それでも、仕入れ値プラス銀貨1枚にすると、なんとか夕方頃から売れ始め、完売した。
そんな訳で、手元の銀貨259枚。
今晩も銀貨10枚を使い、簡単な食事と狭い宿で一泊をする。それで明日は、アクト=ファリアナへ仕入れに戻ろう。
アヴァインはうとうととそう考えながら、その日はそのまま深い眠りについた。




