《第四章 【輝かしくも楽しい思い出と……別れ】》 -1-
それは……ケイリングがオルブライトの元へ行く、5時間程前の事である。
フォスター邸へ着くなり、アヴァインにいち早く気づいたシャリルは、前みたいに元気いっぱいで
「アヴァイン! アヴァイン♪」と嬉しそうにしてはしゃぎ飛びついて来た。
が、直ぐに笑顔でその隣に立つケイリングの姿に気づくと。
アヴァインからゆるりと数歩ほど後ずさり離れ、次に怒った顔を見せ。
ツン!と横を向いて走り去り、屋敷内の2階の自室へと引き篭もってしまう。
アヴァインは、そんなシャリルを困り顔に見送り、思わずその場でため息をつく。
それから屋敷の方へと足を向けた。
その玄関口では、ルナ様が申し訳ない、といった表情をして出迎えてくれている。
そのまま屋敷内へと通され、リビングにある窓際のテーブルを3人で囲む形でお茶を頂いていた。
「アヴァイン、お久しぶりですね♪」
「はい、ルナ様」
「ケイリングさんも、お久しぶりですね♪」
「はい、ルナ様。お久しぶりです!」
それを受け、ルナはそこでニコリと微笑む。
「それにしても……ごめんなさいね?
シャリルにも、本当に困ったものだわ……」
「ハハ……まあ余り、お気になさらないでください」
フォスター将軍の件で、てっきり気落ちしているのではないか? と心配をしていたのだが。案外、元気そうで安心した。
そう思うアヴァインの隣で、ケイリングは吐息をつく。
「まあね。嫌われてるの、わたしの方みたいだしさぁー。やっぱりわたし、来るんじゃなかったかなぁ?」
見るとケイリングは困り顔に、そっと顔だけをこちらへ近づけ、そう小声で囁くように問うていた。
正直、返答に困ってしまう。
「いいえ、ケイリングさんが気にされることはないのよ。
悪いのは全て、シャリルの方!」
ケイリングの小声は、見事に聞こえていたらしく。ルナ様が慌てて、そう言って来たのだ。
「あの娘。ケイリングさんには敵わない、って自分でも分かっているものだから。ああして隠れて拗ねてるの。
だから余り、気になさらないでね。あとで私の方から、キチンと注意しておくわ!」
そう言って見せたルナ様の表情は、真剣そのものだ。
そこまで気にされてしまうと、返って気の毒に思えてしまう。
シャリル様に対しても、ルナ様に対してもだ。
思わず、ケイリングと二人して顔を見合わせ言った。
「いや……まあ、お手柔らかに」
「そうそう! 私なんて、本当に全然気にしてませんから、お気遣い無く!」
「いいえ。今日ばかりはキチンと、言って置くことにします!」
結構、いつものルナ様らしくないピシャリとした言い方だったから、
再びケイリングと2人、顔を見合わせてしまったけど。
これも躾の一環なのだろう、と納得をする。
「それで、
このキルバレスへはいつ、戻られていたのですか? アヴァイン」
ルナ様は話を変え、笑顔でそう聞いてきたのだ。
「一昨日の夕方です。
本当は、昨日の内にでも訪ねたかったのですが……」
少し含めた言い方をすると、ルナ様は思案顔をし、直ぐにこう返して来る。
「もしかして、
カルロス技師長……の件、ですか?」
「あ、はい」
相変わらず、勘のいい方だ、ルナ様は。
「カルロス技師長も、随分と苦労をされている様でした……」
「ちょっ、ちょっと! わたしそんな話、聞いてないわよ!」
ケイリングだ。
そう言って、隣で拗ねている。
「え? いや、だって。聞かれなかったから……さ」
「きか?!
聞かれなかったら、アヴァインはなんにも伝えてくれないの?
言ってくれない、って言うのぉ??!
アヴァインってさぁー、そういう冷たい人だっけ??」
「いや、まあー。落ち着いてよ、ケイ。今は、ルナ様の前なんだから」
「あ……!」
ケイリングはそれで、アヴァインの胸倉を掴んでいた両手をパッと離し。
今更ながらおしとやかに澄まし顔を見せ、お茶なんかをわざとらしく啜っている。
間もなく、それまでの出来事をポカンと眺め見ていたルナ様が
「ぷっ♪」と吹き出し笑い出した。
「なんだかもう、本当に仲が良いのねぇー? お二人共」
「──!?」
「──!!」
アヴァインとケイリングは互いに、頬を真っ赤にし、苦笑いながら顔を左右に強く振る。
「なにも、隠すことなんてないでしょう? とても、お似合いよ♪ お二人共」
「あ、ありがとうございます!」
「はぁ……そうですかぁ?」
「――なっ!?」
お似合いと言われても、別にケイリングとは付き合ってもいないので、困ってしまう。
アヴァインがそう思っていると、ケイリングの方は不愉快気な顔をしている。
「あの……ケイ? なにを怒ってんの??」
正直、理由がよく分からない。
「なにを、って……もういいわよ! バカっ!」
ケイリングはそう言い、
『ぷいっ!』と窓の外の方を向いて、
間もなく『ハぁあ~……』と、ため息をついている。
どうして自分はこうも色々な人から溜息をつかれてしまうのだろう、と思うと。
アヴァインもそんなことで、思わず自分もため息が出てしまう有り様だ。
そんなこちらの様子を見て、ルナ様はクスリと笑む。
「それにしても……やはり、カルロス技師長も御苦労をなさっておいででしたか……」
「あ、はい……」
それからアヴァインは、南東にある大農園での出来事を一つ一つ、二人に話して聞かせることにした。




