《第三章【キルバレスの大地より育まれ出でし……イモたち】》 -10-
パレスハレスの近くにある貴族用の邸宅内に入り、中央階段を上がっていると。2階と3階の間にある踊り場で、ケイリングが頬杖をついて、こちらを不機嫌そうに半眼で見つめて待ち構えていた。
相手は、マムシ程の恐ろしさではないけど……《蛇に睨まれたカエルの気分》くらいにはなれそうだ。
「なんだか随分と、ご機嫌そうねぇ~? アヴァイン」
「……は、ハハ…。そ、そうでもないよ」
例えそうだったとしても、今のでそんな機嫌とやらは一気に吹き飛んじゃうさ……。
「そう、かしら?」
ケイリングはまるで納得した様子ではない。
不機嫌な様子のまま、半眼でこちらを見下ろしている。
なんだかこのまま180度回転して、元来た道を戻りたい心境だけど。そういう訳にもいかないだろうからなぁ~……。
仕方なく、アヴァインは吐息をついて。一段一段上がり、ケイリングの所まで来る。
するとケイリングは犬でもあるまいし、クンクンと匂いを嗅ぐ仕草をしたかと思うと、ほぅと何だか安心したような吐息をついていた。
「女遊びをして来た、って訳でもなさそうだけど……アヴァインが外でお酒を飲むなんて、珍しいこともあるものね。
どういう心境の変化? なんかあったの??」
「いや。たまたまパレスハレスで昔の知り合いに会ってさ。それで……」
「へぇ~……それで一緒に飲んで来た、って訳?」
「まあ~そんなトコ、かな?」
あー……なんかヤバイな。こりゃどうもケイリングの奴、間違いなく怒ってるよ。
今までの付き合いから、アヴァインは刹那的にそう感じた。
「ふぅ~ん……。
だけど、アヴァイン。もう忘れちゃってるのかもしれないけどさぁー。あなたの仕事って、なに?」
「……え?」
「わたしを守ること、じゃなかったかしら? それを初日からイキナリ、ここに来て放棄したんだからね。
この意味、少しは分かってる?」
「……あ」
言われてみると確かにそうだ。
今朝も『ちょっと、出掛けてきます!』の一言だけで、帰りはこの時間だ。ケイリングが不愉快になるのも頷けるよなぁ。
それに、着いて来ようとするケイリングを半場強引に説得し、そのまま置いて行った訳だしなぁ……。
「えーと……。
本当に悪かったと思ってますよ、ケイ。今は特にキルバレス内も危険だからね。我ながら、ちょっと迂闊だったと反省してます。
明日からはちゃんと守るからさ。今日のところはこれで許して!」
それを聞いて、ケイリングは機嫌を少しだけ良くしてくれたみたいだ。
ようやくいつもの笑顔を見せてくれた。
「ならば、よし! その代わり明日はさ。わたしもどこかへ一緒に連れてってよ♪」
「うん。じゃあーそうだなぁ~……明日はルナ様のところへ、一緒にいく?」
「……」
それを聞いて、ちょっとだけ悩んだ様子をケイリングは見せていたが。
「そうね……分かったわ。わたしも一緒に行く」
と言って、3階の自室へと向かい階段を上がり始めた。
「シャリルって子には、最悪なくらい嫌われちゃってたみたいだけど。ルナ様とはもう一度会って、話もしときたいしね」
シャリル様か……また、不機嫌にならなきゃいいんだけど。それだけが心配だよ。
「あ、そうだ」
ケイリングが階段を上り切ったところで唐突にこちらへと振り返り、手摺近くで両手と顎を乗せ、イタズラ心満面な表情でニヘラと笑んだかと思うと、口を開き言う。
「リリアも、明日にはここに来るそうなのよ。
なんだったらその時に舞踏会でのコト、一応、謝っとく?
わたしと一緒なら、話もし易いでしょう~?
そろそろ仲直りしてくれていた方が、私としても助かるしさー♪」
「そ……そうだね。は、ハハ…」
リリア・ホーリング様かぁ……こっちも、まだ怒ってなきゃいいんだけど。
リリア・ホーリングとアヴァインは前に一度、見合いをさせられた仲だったが。結果、とんだハプニングから、アヴァインはリリアからフラれてしまっていた。
「まあ、もっとも。会った途端、1・2発くらいビンタされる覚悟はして置いたが良いとは思うけどねぇ~っ♪」
「――?!」
ケイリングはそこで横目にも意地悪くそう言い、
「それじゃあねぇ~、アヴァイン! アディオ~ス♪」
と自室へクスクスと笑いながら入っていった。
「……はぁ~」
アヴァインはそこに一人取り残され、深いため息をつく──。




