《第三章【キルバレスの大地より育まれ出でし……イモたち】》 -3-
そのキルバレスでの異変をアヴァインが知ったのは、それから7日も経ってのことだった。
「カルロス技師長が、労働奴隷に?!」
いつもの様に、城の湖側にある見晴らしのとても良い広いテラスから湖の方をぼんやりと眺めていると。ファーが手を振り振りやって来て、その事を教えてくれたのだ。
「ああ、つい先ほどそんな報告が入って来てな……って。ちょっと、おい! アヴァイン!?
いや、アヴァイン隊長! どこへ行くつもりなんですか?!」
ファーにその事を聞くや否や。アヴァインは城内奥へと向かい、急ぎ足を向け歩き始めていたのだ。
そのあとを、ファーは慌てたようにして着いて来る。
「そんなの、決まっているだろう! 今すぐに、ケイに言って。キルバレスに帰らせて貰うんだ!」
「バ、バカ! そんな身勝手が許される訳ないだろう!! 叱られるだけだ! 辞めておけって!!
そもそも労働奴隷っていうんだし。今直ぐに生死に関わる、って程のことでもないんだからな。余り無茶をするなよ!」
「……」
ファーは賢い人だけど。キルバレスの内情……特に、政情というものをよく知らないのだ。
だから、そんな簡単なことが言える。
カルロス技師長は、労働奴隷とするには年齢が行き過ぎている。
かと言って、国外追放では、技師長としての実績もあるので。その技術流出によって、結果、国益を損ね兼ねない。
だから、『国内での処分』という形に留める必要があるだろう。
しかし、余りにも厳しい処分では、これまでのカルロス技師長の実績から考えて流石に反発が出てくる恐れがある。
だから取り敢えずは、労働奴隷、という形にしたに過ぎない。この件は、そう捉えるのがより自然な解釈だと思われる。
もし、評議会がカルロス技師長に対して、重い刑罰を与える気が全くないのなら、あのまま問題を保留にしていた筈だ。
だがここに来て〝そうした〟ということは、つまり……。
「じゃあ何だ? カルロス技師長の命が危ない、って事か?」
「……その可能性がある、ってことだよ。とにかく、ファー。前をどいてくれないか?」
ファーはアヴァインの行く手を阻んでいたのだ。
「だけど、そうだとしてもだ。それが何だって言うんだよ! 今のお前には、関係のないことだろう?
違うかい? アヴァイン隊長!」
ファーは単に、だから下手に首を突っ込むな、と言いたいのだろうと思う。
だけど自分にとって、カルロス技師長は、そんな簡単に切り捨てられるような人ではないのだ。
「ファーは、カルロス技師長のことをよく知らないから。そんな簡単なことが言えるんだよ。
いいから、そこをどいてくれ! 私は、急いで行かなければならない──うわ!?」
そう言い、アヴァインはファーを押し退け、行こうとするが。ファーはそんなアヴァインの肩を掴まえ、壁に押しやり当て、険しい表情をし口を開いて来た。
「ちょっと勝手過ぎやしないかい?
それだと、ケイ様の気持ちはどうなる。少しは、あの方のことも考えてやっているのか?!」
……ケイ? どうしてここで、ケイリングのことが出てくるんだよ。
「アヴァイン。アンタの話だと、キルバレスでのカルロス技師長の処分は、相当に重い。ヤバイ、ってことなんだろ?
それをお前はなんとか強引にでも食い止めようと思い、キルバレスに戻るつもりなんだろう? 違うか?!」
「ああ、そうだよ! だからさっきから、そう言って───」
「それはつまり、危険も伴う、って事なんだよな?!
そんなところへ行こうとするお前を、ケイ様はどんな気持ちで送り出すことになるのか、お前は少しくらい、想像して考えてやっているのか??」
どんな気持ちって……。
「『危険だから、注意して』とか。
『出来るだけ、早く帰って来い』とか。
そのくらいじゃないのかぁ~?」
「…………」
そんなアヴァインの呑気で見当外れな返答を聞いて、ファーはアヴァインの両肩に、手をポン☆と乗せ。つくづくとばかりに、ハァ~……と深いため息をついている。
「お前は、仕事以外のことでは、どうしてこうも疎いんだよ……」
「あら、アヴァインにファー。そんな所で二人して、なにやってんのよ?」
ケイリングだ。実に、良い所へ来てくれた。
「あ、丁度良いところに来てくれた! 実はね、ケイ」
「ん? なにさ?」
「急で悪いんだけど───うわあああああぁああぁああー?!」
「…………」
『キルバレスに一旦、帰りたい』って言おうとしたら。ファーから首根っこ掴まれて、問答無用とばかりに、後ろへと引き摺られてしまったのだ。
そんな様子を、ケイリングは呆れ顔に見送る……
なんて、素直なコトは当然にせず。
『ムッ!!』として、そのあとをズカズカと着いていった。




