《第一章【カンタロスの女神】》 -21-
早朝、食事をこの宿舎の長であるガストン・オルレオールから分けてもらい。1時間ほど休憩したところで早速、水門を目指し向かうことにした。
アヴァインを含む三名は着慣れた重装甲騎兵の装備を外し、ガストンが貸し出してくれた軽装備と剣一本だけの帯刀が許され、カルロスと共に同行する。
水門までは、ここから歩いて二時間ほどの距離というが上り坂が続く険しく狭い道。そして右側はやはり断崖絶壁の渓谷でここから落ちたら間違いなくひとたまりもないだろう。
歩き始めて一時間程でまた検問を受ける。が、直ぐに通してくれた。どうやら事前に知らせが届いていた様子だ。
ガストンの話では昼前には着くだろう、との事であったが。そうは言ってもそれは歩き慣れた者の話であり、この斜面では馬に跨ってという訳にもいかない様だ。万が一にも暴れられて、そのまま右側にある谷底へ……という事も有り得る話だからだ。
その為、馬は宿舎に置いてきた。つまり、徒歩にてカンタロスの水門を目指し進んでいる。
『正直ここから先は、馬での移動はお勧めしません。単に荷物を運ぶ為だけに使う分には便利なものですが、人が乗るのは危険ですし、かえって邪魔になるもので』
「……はぁ」
アヴァインはそこでガストン・オルレオールの言葉を思い出し、今更ながらに納得した様子を見せている。
「やれやれ、お前さんはどうも一々ため息の多い男じゃなぁ~? アヴァイン」
「え? どうもすみません……今後は注意することにします」
「ふむ……」
寧ろこの男のため息の仕方というのは、その場をホッとさせる特異なものであったが。まあ本人が直すと言うのであればそれもまた良いのかの?
「あ……」
右手前方にようやく水門らしきものが見えて来た。それは想像したいたよりも大きく見事なもので、流れ出る水門の水側には綺麗な七色の虹が掛かっていた。
それにしても物凄い水量だ。水しぶきがこの距離に居てももうから飛んで来るのが肌に感じる。道理でこの辺りの植物はよく育っている筈だ。岩肌の薄暗い辺りを触ってみて気づいたが所々、苔まで生えている。
「ふむ……」
カルロスはそこで手紙を取り出し、例の目印を再び確認する。
この目印の場所を見る限り……そろそろこの近くに何かある筈なのだが……?
左手を気にしながらしばらく進むと、立ち入り禁止の札の掛かったゲートがあった。そのゲート向こう側に大きな縦幅三メートルを軽く超える穴らしきものが見える。
どうやら洞窟の入り口のようだ。
「……ふむ、おそらくはここじゃろう。まぁ間違いはあるまい」
札にはこう書かれてあった【科学者会グレインよりの許可なき者の立ち入りを禁止ずる】と。位置的にもこの手紙に記されている目印と丁度一致する。
「アヴァイン……すまぬがこれの入り口を開けてくれ」
「え? しかしここは立ち入り禁止と……あ!」
アヴァインも、そこに書かれてある【グレイン】の名に直ぐ気づいた様子だ。カルロスはそれを目聡く確認し、隙なく口を開く。
「実はグレインにここへ来る様にと生前頼まれておったのじゃ。なにやらこのワシに見せておきたいものがここにあるらしい。
言わば彼グレインの『遺言』というモノだよ。そういう訳でじゃ、すまないが頼む!」
他の者ならば分からないが、この男アヴァインの性格ならばこう言えば融通を利かせてくれるだろう。
カルロスはそう考え、遺言の部分を特に強調して言ってみたのだ。
「はぁ、そういうことでしたら……はい、分かりましたよ」
アヴァインは仕方な気に入り口の札のついた板を見ると吐息をつき、剣をスッと抜いて、その剣を板の間に差し込み堅く立て付けられてある板を手前へと体重を乗せ、グイグイッと引き剥がした。それを数度繰り返し何枚も引き剥がしてそれでどうにか人一人入れるくらいの入り口が開く。
洞窟中を覗き込むと、洞窟内はほぼ何も見えないほどに薄暗く深く続いていた。
「すまんがなぁ、アヴァイン。君たちはここに残っておってくれ。ここから先へはワシ一人で行きたいのでな」
「そうは参りませんよ! この中には何があるのか分かりませんし!! そもそも危険です!」
「――頼む!! グレインがこのワシに残してくれた遺言、それが何であるのかを確かめ、暫くそこで独り考えたいのじゃ」
カルロスが必死の形相でそう言うと、アヴァインは眉間にしわを寄せながらもそれで身を引き、それから松明を黙って不服そうに着け始めた。
「技師長がそうまで言うのであればそれに従います。但し、何かあれば直ぐにでも大きな声で叫んでくださいよ!
あと、一時間経っても戻って来ない場合には我々も中へと入ります。よろしいですね?」
「ああ、分かった。それでよい!」
カルロスは松明を片手にアヴァイン達とそこで別れ、早速、中へと入ることにした。




