《第一章【カンタロスの女神】》 -15-
「……どう思う? フォスター」
会議が終わって直ぐ、自室の控え室へとフォスターを招き入れソファーへと座らせるなりカスタトールがそう聞いて来たのだ。
「まあ落ち着けよ。先ずはお茶の一杯でも淹れてはくれないか? さすがに喉が渇いた」
「あ、あぁ……そうだな」
カスタトールは茶を淹れテーブルの上に置くと、見合うように自分もソファーへと座った。とほぼ同時に、口を開いてくる。
「パーラースワートロームが噂通りの不思議の国であるのは、この報告書にも上がってきている内容の通りだろうからな。おそらくはそのパーラースワートロームの『権益』をスワート候が手中にしたいとでも思ったのではないのか?」
そのカスタトールの言葉を受け、フォスターは思わず茶を口へと運ぶ手が止まってしまう。
「……評議会議員、ディステランテ・スワート候のことか?」
ディステランテ・スワート候は、ワイゼル・スワートの叔父にあたる男だ。野心家であることで有名な人物である。
「あぁ、《評議会》でも力のあるあの御仁のコトだ。もう既にこの報告書程度の内容くらいは十二分にご存知のことだろうからな」
「……まあ確かに、ふむ……」
カスタトールの言うコトには説得力を感じる。フォスターは思案顔に俯き、しばし考えてはみたが。しかし結局のところ相手がこの国を動かすほどの権力者であり、自分達の力だけではどうしようもないことを悟るとただただ肩を小さく竦めてしまうばかりである。
二人はそこでソファーに深く座り直し、互いにため息をついた。
「こういう時にアヴァインが居ると、色々とからかえて良いストレス発散になるんだがなぁ~……。
やはりアイツも連れて行くことにしないかぁ? フォスター」
「おいおぃ。そんな身勝手な理由で今さら呼び戻せるものかよ」
「だろうなぁ……そういやアヴァインの奴が、シャリル譲に色目を使った……って話は、もうしたっけかぁ?」
実際には、事実無根な話である。
アヴァインがこの場に居合わせていたら、さぞや怒り口論となっていたことだろう。
「あぁ、聞いた聞いた。耳にタコが出来るほどにな! ハハ♪」
即日、飲んだくれたカスタトールから聞かされたのだ。
そういえば、後日シャリルにそのことを冗談交じりに話すとシャリルの方もアヴァインの名を聞いて、まんざらでもない様子を見せていた。まだ七歳のクセにだ。
これだから最近の子は油断が出来ない。
「そうかぁ……もう言ったんだっけか?」
カスタトール自身は酔っていたからなのだろうな? 言ったことをよく覚えていないらしい。この酒癖の悪さは治して貰った方が良さそうだが、まぁその内でいいさ。
フォスターはそう思い、そんなカスタトールを微笑み見る。
「ハハ! あまりそぅアヴァインをいじめ過ぎるなよ。あれでも元はこの私の副官だった男なんだからな?」
「はいはぃ……どうも、すみませんでしたねぇー」
こんな時にもそんな冗談を言っていられるカスタトールを頬杖をつき隣に見つめ、何故かフォスターは気持ち落ち着き、自然とまた微笑んでしまう自分が居たことに気がつく。
実に気の休まる思いだ。
あぁそうだな、今は考えても仕方がない。打てる手は打つが、先ずは沿海都市国家アナハイトを確実に出来るだけ少ない損失で攻略することに専念するさ。
フォスターはこの時そう考え、今はそのことだけに集中することに決めた。




