《第一章【カンタロスの女神】》 -12-
一方、それで遠ざかりゆくアヴァインの後ろ姿を、遠目にも追い駆けるかの様に女の子は見つめ続けていた。
「急に黙り込んだりしてどうかしたの、ケイ? アナタらしくもないよ、そういうの」
「……ねぇ、リリア。あのさ、一つだけ素朴なコト聞いても、いいかなぁ~?」
「それはいいけど、急になに? どうしたの??」
「あの人……誰だか知らない? さっきね、あのフォスター将軍やカスタトール将軍とも親しく話していたのよ。しかも随分と仲よさそうだった!
きっと、それなりの身分の人だとは思うんだけど。私にはまるで見覚えがないから、『どうなのかな?』と思ってさ。理由はわからないんだけど、ずっと気になってて。名前はね、どうもアヴァインって人みたい。さっきね、たまたまそう聞こえたのよ。
ホラ! わたしってさ、耳が凄くいいから!!」
「ふぅ~ん……耳ねぇ?」
『決して耳が良いからだけではないな』と思いながらも、リリアはその友人が見つめ続ける方を同じくそれとなく相手に気付かれない様に横目に眺め、間もなく正面を見つめ困り顔に肩を竦めて見せた。
「ン~……残念だけど、私にも記憶に無い人ね?」
その友人リリアの返答を得て、ケイリング・メルキメデスは軽く吐息をつき。それでようやくいつもの彼女らしい笑顔を浮かべ、その友人と同じく肩を竦め見せた。
「まさか……一目惚れ、ってヤツだったり?」
「――!?」
普段のケイリングらしくもない慌てた様子と反応を見て、リリアは思わず吹き出し笑いそうになる。
「ちょっ―――ま、待って! 今の、そういうんじゃないんだからさあー!!」
「はいはい。解ったわ。もう今ので十分に、解っちゃったから♪」
「いや、違うしさ! そもそも、何にもわかってないでしょ?! 大体がわたし自身、よく解って無いし! つまり絶対勘違いだし、それーッ!! あーもう待ってよリリア、待って!」
だけどもう何を言ってもクスクスと笑い続け追い回しても上手く逃げ回る友人リリアを見て、ケイリング・メルキメデスはその足を止め、諦め顔にその場で静かに溜息を零す。
そして再び、アヴァインという人の後ろ姿を遠目に偲びながら眺め。しかしそれでこちら側から声を掛けるという機会が訪れることもなく、この日はこのまま別れることになる……。
『どうやら〝運命の出逢い〟というモノではなかったみたい』と思い、そんな自分に今さらだけど呆れ吐息をつき。どこか寂しげに夜空の星を見上げ、それを遠目に見つめていた――。




