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《第一章【カンタロスの女神】》 -11-

 その二ヵ月後……。


 カリエン・ロイフォート・フォスター将軍の妻であるルナの誕生日が、盛大に執り行われていた。

 首都キルバレスの中心部にある評議会議事堂パレスハレスから南へ三キロほど離れた場所に、フォスター将軍の屋敷がある。ちょっとした貴族の邸宅といった風だ。屋敷内は今、コークスがもたらす明かりで輝かしく照らし出され、ここを訪れる客をもてなしていた。


 それへ招かれたアヴァイン・ルクシードは、礼装の軍服に身を包んだ姿で馬車から吐息と共に降り立ち。その屋敷門前で豪華絢爛な屋敷本宅へと遠目に見をやり、緊張した面持ちに切り替え、招待状を確認している者が居る門前へと重い足取りでため息と共に向かう。


 どうにもまだ、こういう場には慣れないのだ。


 立場上、こうした所へは何度か来ているものの。所詮、彼はうだつの上がらない商人の小倅(こせがれ)だ。屋敷敷地内の見事な庭園、屋敷建屋内の信じがたい絢爛豪華な装飾類、そしてテーブルの上に並ぶこれまた豪華な料理の数々……。そうしたモノを見て感じる度に、生来の品格と質の違いというものを否が応にも感じさせられてしまうからだ。



 なんだか自分には、場違いな気がしてならないなぁ~……? と、つくづく思いため息をもらす。



「お、アヴァイン。来ていたのか?」

 振り返ると、フォスター将軍とその妻であるルナ様が立っておられた。


「あ、この度はお招きに預かり……」

「ハハ。まあまあ、ここはもう無礼講でいいよ。私もそういう言葉は聞き飽きた。そもそもお前からそんな改まったことを言われても、なんだか白々しいだけだしなぁ~ハハ。

まぁこのルナにだけは一言頼むよ、アヴァイン」


「あ、はぁ……。えと、では……改めまして。ルナ様、お誕生日おめでとうございます!」

「これはご丁寧にありがとう、アヴァイン♪」


 ルナ様は優しげにこちらを見つめ、微笑んでくれた。自分は思わず頬を真っ赤にしてしまう。


「おいコラ、アヴァイン! なにを顔なんか真っ赤にしてんだよ。私の妻に変な気なんか起こすんじゃないぞっ!」

「わ――わかってますよ……そんなコトくらい……」


「ハッハ! じゃあな、アヴァイン。楽しんでいけよ♪」


 ルナ様はそこでチラリこちらを見て、クスリと優しげに微笑み。フォスター将軍と共に、他の客人に挨拶をして回っていた。

 自分の目から見ても、ルナ様はとても美しい女性であった。栗毛の長い髪に、青い瞳。そして艶やかな白い肌。年齢は、自分よりも五つ上の二十四歳だ。フォスター将軍とは、十三歳以上も離れている。



 ズルイや! ルナ様は、この私との方が年齢からしてもお似合いなのに……。



 そうふてくされながらそう思い、自分は目の前に並ぶ豪華な料理を遠目の半眼でジーッと見つめたあと。悔しいので、今日はガツガツと自棄喰(やけぐ)いすることに決めた。



「これはこれは、アヴァイン衛兵隊長ではないですか。とても良い喰いっぷりで、なによりですなぁあ~♪」

「――ごほっ! ぐほっ!」


 『どこの無礼者だ!』と思い見ると、カスタトール将軍だった。

 また会いたくない時に、遭いたくない人に会ってしまったものだ。


「カ……カスタトール将軍。今晩もご機嫌がよろしいようで、なによりです…」

「ああ、そりゃあ~まあな。友人の祝いの宴だ。ご機嫌が悪い、訳がない」


 そう言って、カスタトール将軍はワインをグイグイと飲み空けていた。それから自分の肩に腕を馴れ馴れしく回して来るなり、


「それよりもお前。ルナ殿のことが好きなのかぁ? さっきの目は、それを物語ってたぞ♪」

「──え! そ、そんな訳は!?」


「まあまあ、そう心配をしなさんな。この私だって昔は、好きだったさ。なにせ、あの美貌だからなあ~。仕方がないってもんさ」


 ……それは、初耳だな。


「そんな私も、今じゃ別の女性と結婚をした。だからお前も、もう諦めておけ。

なんなら、他に誰か良い人を紹介してやってもいいぞ? どうする?」


 

 ……カスタトール将軍。またかなり酔ってるなぁ……? 参った。この人、絡み上戸だからどうも苦手なんだよ。それでなくたって普段からひどいのに、堪らないよなぁ~。


「そもそも今日のこの場には、多くの《評議員》や《貴族員》のご令嬢だって来ている。ホラ見てみろよ! あの娘なんか、堪らなく綺麗じゃないか」

「…………」


 カスタトール将軍からそう言われ、勇み心にも喜んで指さす方を眺め見ると。確かにそこには、見目にも可愛く綺麗な女の子が二人、愉しげに談笑し合っている。

 ただ、その二人、どう見てもまだ子供だから参った。流石に恋愛対象に成り得ようもない……。


 ――と、その時。その内の一人が自分の視線に気がつき、こちらをしばらくジーッと……驚いたような表情で目を見開き真顔なんか向けていた……が、間もなく『プイっ!』とあからさまな程に視線を反らし、もう一人の女の子と再び会話をわざとらしくも愉しげに始めている。


 その様子を見て、つくづくため息だよ。


 アレはきっと、『アナタになんか興味なんてモノはこれっぽっちも沸いてないんだから、勘違いしないでよ!』と、態度で伝え表そうとした結果なのだろうなぁ?

 子供のやるコトとはいえ、流石に今のは傷つくよ……もう少しやり方・伝え方っていうモノがあるだろうになぁ?


 そう思い、再び深いため息をついてしまう。

 ところがその後も、その娘がまるでこちらを気にしているかの様にチラチラと横目を偲ばせ向けて来る……しかしその目の色が何故か、目が合う度に凄く真剣過ぎて怖い。


「あれは大国《属州国コーデリア》を治めていた、メルキメデス家のケイリング嬢だなぁ~。《貴族員》の中でも、有力な筆頭株だぞ!

但し、まだ十三歳っていうのが惜しいところだが……間違いなくアレは将来、美人になるね!

しかもこのオレの目から見て、今のは《脈あり》と読んだ! ダメ元でちょいと試しに声を掛けてみたらどうだぁ? アヴァイン」

「…………」


 カスタトール将軍、また他人事だと思っていいように楽しんでるなぁ……?


「ハハ……貴族員のご令嬢が相手では、話しかけるだけ無駄ってモンですよ。しかも相手はまだ、子供です」


 そもそも今、それとなくフラレた直後な訳であって、つまるところ脈なんて有り様もない。


 アヴァインはそう思い込み、軽くため息をつく。


「お前は色恋沙汰だと、どうも諦めが良すぎるな。そんなことでは何一つ、実る恋も実らないぞ」

「ハ、ハハ……」


 大きなお世話です。


「……そういや、ルナ殿はあれで。娘をひとりだけ産んでいたっけなぁ? 

お前くらいの年齢なら、まだまだギリギリセーフでいけるんじゃないのかぁ~?」

「あ……!」


 そういえば……一度だけ、お会いした事がある。シャリル様だ。


 確か……もう六歳か七歳になるんじゃなかったかな?? ってことは……あと十年後には、十七歳で。私が二十九歳かぁ……ン~確かに、何とか出来ないこともなさそうだけど。


 ――いやいや!


 十七歳の娘に、二十九歳の私が求婚なんて出来るものか!! そもそもフォスター将軍が、お許しになる筈もない。



 ──ゴンンツッ☆



「お前っ、アヴァイン。なにをそこで真面目な顔してロリってんだ。ぶわあぁ~~~か! じゃあ~なぁあ~♪」



 ──くっそぉ~~~ッ!! 今に見てろよぉ──っ!



 こうして……この件でもまた、カスタトール将軍から後々まで散々からかわれることとなる。




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