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第99回 逃げろ

 フォン達が二手に分かれて、一月が過ぎていた。

 フォン・メリーナ・カイン・ブライドの四人はすで南の大陸ニルフラントに渡り、その頃には、カインの様子も落ち着き、いつも通りに戻っていた。

 結局、あの大陸に何があるのか、分からぬじまいだった。

 そんな四人は、現在、馬車に揺られていた。

 目指す先は、ニルフラントの中心で、メリーナの住んでいた街だ。

 そこで、会わなければいけない。時見族のクリスに。

 その為、四人は急いでいた。



 一方、その頃、リオン達は――

 すでにフォーストの王都内部へと侵入していた。

 息を潜めるリオン、レック、エルバの三人は、一塊になって行動をしていた。


「どうする? これから」


 腕を組むリオンは静かにそう尋ねる。

 三人は現在、人目につかない路地裏に隠れていた。

 高層の建物が多いこの場所では、隠れる場所が多くあり、リオン達は何とかバレずに侵入する事が出来ていた。

 ただ、疑念もあった。

 明らかに警備が薄すぎると言う点だ。

 何か意図的なモノを感じながらも、リオン達は進むしかなかった。

 濃い緑色の髪をうなだらすレックは、大きく肩を揺らしていた。流石に海で生活をする水呼族にとって、長丁場の陸での行動は辛いものだった。

 そんなレックを尻目に、エルバはゆっくりと空へと浮かぶ。灰色の髪を風に揺らすエルバは、高層の建物の屋上を越え、更に上空に行く。上空は突風が吹き荒れているが、エルバには全く影響はなかった。

 やはり、人の気配が無い。無人の街だった。

 まるで、三人を待ち受けているような印象を、エルバは感じていた。

 そんな折だった。風を切る鋭い音と共に、鋭利な斬撃がエルバの頬を裂いた。


「ッ!」


 皮膚が裂け、鮮血が派手に飛び出す。何が起こったのか分からず、エルバは目を細めた。

 風鳥族はとても耳の良い種族だ。風を切るその音が聞こえ、反射的にエルバは体を傾けていた。それが無ければ、頬を掠めた程度ではなく、首から上が軽々と吹っ飛んでいただろう。

 目を凝らすエルバ。だが、その斬撃が飛んできた方向には何も見えない。

 一体、どれ程の距離からその斬撃を飛ばして来たのか、と疑問を抱く。

 と、同時に、急降下し、リオンとレックの下へと急いだ。

 その理由は簡単だ。先程の斬撃が明らかにエルバを狙ったものだったからだ。

 アレは間違いなくエルバ達が侵入した事を知っている。知っていてここまで泳がせていたのは、恐らく彼らを逃がさない為だ。効率よくこの自分達が優位に立てるフィールド内で片をつけようと言うところだろう。

 勢いよくエルバは地上へと降り立つ。衝撃が広がり、地面が砕けた。

 何事かと、リオンとレックは瞬時にエルバに目を向ける。


「どうした?」


 リオンが訝しげな目で尋ねる。すると、エルバは顔をあげ、右手の甲で頬の血を拭う。


「敵だ……。恐らく、私達の所に来るぞ!」


 エルバの言葉に、リオンは眉間にシワを寄せる。やはり来たか、と思ったのだ。

 こうなる事は分かっていた。だからこそ、冷静に考える。


「相手は?」

「分からない。ただ、すでに動き出しているのは確かだ」

「いいじゃねぇか、迎え撃とうぜ」


 ゆっくりと腰を上げたレックが静かに笑む。しかし、エルバは表情を険しくする。


「得策ではないな」


 あの一撃で、エルバも気付いたのだ。自分達が相手にしようとしている者の実力を。

 だが、レックは納得行かないのか、不満げに声を上げる。


「んな事やってみないとわかんねぇ――」

「なら、やってみますか?」


 レックの声を遮るように、静かな女性の声がそう答えた。

 その声に、三人は振り返る。その視線の先には一人の女性が佇んでいた。

 両手に鎖で繋がった二本の剣を握るその女性は、腰まで届く美しい真紅の髪を揺らし、深々と息を吐き出す。

 華奢な体格に似合わない寒気を感じさせる殺気。それが、彼女の体格を一層大きく見せていた。

 鎖をジャラジャラと鳴らす女性は、右手に持った斬る事に特化したであろう鋭利で刃の薄い剣を構え、左手に持った突く事に特化した鋭く尖った剣を構える。

 何故、鎖で繋がれているのかと言う疑問が生まれるが、そんな疑問を考えている余裕などない。

 それ程、その女性は恐ろしい雰囲気を出していた。

 息を呑むリオンは眉間にシワを寄せる。

 見覚えのある顔だった。だが、彼女がここに居るわけがない。

 その為、リオンは静かに尋ねる。


「お前……アリアか?」


 不意のリオンの言葉に、レックとエルバは顔を向ける。


「し、知り合いなのか!」


 レックが声をあげ、


「どう言う事ですか! まさか!」


と、エルバはリオンを睨んだ。

 はめられたんだと、考えたのだ。

 だが、二人の反応とは裏腹に、リオンがアリアと呼んだ女性は、訝しげな眼差しを向ける。


「どなたですか? あなたは? わたすのすりあいではありませんが?」


 “し”を“す”と発音する妙な訛りのアリアは首を傾げる。

 そして、剣をゆっくりと構え、警戒心を強めた。

 目を細めるリオンは息を呑む。

 やはり、自分の知るアリアではなかった。

 しかし、持っている武器も見た目もアリアその者だった。

 困惑気味のリオンに対し、アリアは小さく首を振るう。


「わたすにはさっぱりですが、あなた方にはすんでもらいます」


 そう言い、アリアは地を蹴る。

 後塵だけを残しアリアの姿が消えた。

 いや、消えたわけではなく、三人の目では彼女の動きを追う事が出来なかった。

 それ程彼女の動きは速かった。

 彼女の動きにレックは槍を出し、エルバは両手にガントレットを装着する。

 二人の行動にやや遅れ、リオンも剣を抜いた。

 刹那――閃光が瞬き、金属音と火花が散り、エルバが弾かれる。


「ぐっ!」


 一瞬だった。ガントレットを装着したその腕に、アリアの右手の鋭利な刃の剣が振り抜かれたのだ。

 ガントレットには深い傷が刻まれる。硬いはずのガントレットを一撃で傷を付けたその鋭い刃に、エルバは険しい表情を浮かべる。

 一方、アリアは瞬時にエルバの背後へと回り込む。


「もう一発!」

「ッ!」


 エルバが声を漏らすと同時に、アリアは左手の剣を突き出す。

 だが、その瞬間、リオンの剣がアリアの剣を上へと弾いた。

 眉間にシワを寄せるアリアは瞬時に距離を取る。自分の一撃が防がれるとは思ってもいなかったのか、聊か驚いた様子だった。だが、すぐに剣を構える。


「逃げるぞ!」


 リオンが叫ぶ。ここで、レックとエルバを失う事は歴史を変えてしまう。当然、それは悪い方へと。

 だからこそ、リオンは逃げると言う選択肢を選ばざるえなかった。アリアに勝てる可能性が限りなくゼロに近いこの状況では。


「逃がすと思いますか?」


 アリアは身を屈め、足に力を込める。その静かな声はリオン達三人の耳にシッカリと残り、三人を逃がす気などない、とハッキリと認識させられた。

 そんなアリアに、背を向けるのは危険だと、後ろ向きのままリオンは下がり、レックとエルバに怒鳴る。


「コイツを相手にするのは危険だ!」

「でも、どうやって逃げんだ!」


 リオンの言葉に、レックはそう声を上げた。

 逃げる為の策など無い。

 それでも、どうにかして逃げなければならないと、リオンは声を上げる。


「考えてる暇はない! 全力で逃げろ!」


 リオンの言葉にレックとエルバは「くっ」と声を漏らす。

 そして、走り出す。

 ここから逃げる為に。

 お久しぶりです。

 一年以上、更新停止していて申し訳ありませんでした。


 ゲート二作も無事完結しましたので、更新再開したいと思います。

 最後まで付き合ってもらえると嬉しいです。

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