第98回 今後の進路
「ふざけんじゃねぇ!」
早朝から、レックの怒鳴り声が響いた。
その怒りの矛先は、天賦族ブライドへと向けられる。
何故なら、ブライドは進言したのだ。
「今は、行くべきではない。そう言ってるんだ」
王都に攻め入るのは、危険だと。
ブライドは王都から来たから分かる。
今の王都は危険な所だと。
しかし、里の仲間を皆殺しにされたレックとエルバにはそんな事関係ない。
怒りだけが込み上げ、もう留める事など出来ないのだ。
そんな怒鳴り散らすレックを、リオンは腕を組み静観する。
この後、何が起きるのかを大まかに理解している為、下手に口を出さないようにしていたのだ。
歴史を下手に変えるわけには行かないと言うのが、リオンの考えだった。
未来にどんな影響を与えるのか、それが不明性で、たった一つの決断が大きく世界を変えてしまうかもしれないと、思ったのだ。
リオンがそう考える様になったのは、この大陸に着いて、水呼族の里の惨劇を目の当たりにしてからだった。
歴史書で見た通りの事が、現実として目の前で起きた。
その光景に、自分達は今、歴史を歩んでいるのだと感じ、その歴史を正すべきなのだと考えたのだ。
一方で、フォンは考えていた。歴史をいい方へと変えなければいけないと。
この先の事をフォンは曖昧にしか知らない。勉強は苦手だったから、仕方ない事だった。
それでも、この後の事は覚えている。
結果として、彼らは王都に向かう事になる。
だが、そこで、自らの変わり果てた父と対面し、戦う事になる。
そんな最中、フォーストは、中立を貫く南の大陸へと攻め入る。しかも、生物兵器を作る際に生まれた失敗作の獣人と言う存在を使って。
結果、南のニルフラントは半壊滅状態まで追い込まれる事になる。
それを考えると、こんな事をしているよりも、いち早くニルフラントに行き、伝えるべきなのだろう。
複雑そうに眉間にシワを寄せるフォンに、メリーナは不思議そうな表情を浮かべる。
「どうかしたんですか?」
揉めるレック達を他所に、メリーナはフォンへとそう尋ねた。
その言葉に、フォンは苦笑すると、茶色の髪を揺らす。
「うん……ちょっとね」
困り顔のフォンに、一層メリーナは不安そうな表情を浮かべる。
メリーナにそんな顔をされ、フォンも聊か困り果て、右手で頭を掻いた。
そして、提案する。
「なぁ、じゃあ、二手に別れないか?」
フォンの提案にリオンは不快そうな表情を浮かべた。
「二手に? 一体、何の為にだ?」
眉間にシワを寄せ、睨むリオン。
そして、レック、ブライド、エルバの三人は不可解そうにフォンを見据える。
「何で二手に別れる? なぜ? 自分は、元々一人だ。お前たちの指図を受ける必要は無い」
ゆっくりと立ち上がるエルバがそう言うと、ジロリとフォンを睨んだ。
当然の言い分に、フォンは表情を険しくすると、レックもエルバと同様に、
「俺も断る。ここまで、飯を食わしてもらった恩で、一緒に来ていたけど……別に、お前達と一緒に旅をしてたわけじゃないからな」
と、不快そうに口にする。
レックとエルバの言葉に腕を組むリオンは息を吐く。
「そうだな……お前達がどうなろうが、俺達には全く持って関係の無い話だな」
肩を竦めるリオンに対し、フォンは僅かに表情を歪め叫ぶ。
「な、何言ってんだ! お前!」
「いいじゃないか。死にに行きたいと言うなら行かせてやれば」
リオンの冷めた言葉にレックとエルバはリオンへと目を向ける。
「誰が、死にに行くって?」
鼻筋にシワを寄せるレックが、濃い緑色の髪を揺らし、リオンへと掴みかかった。
胸倉をつかまれるリオンは、冷めた目でレックを見下すと、鼻で笑う。
「違うのか? 自殺願望者だろ? 仲間の下へと行きたいのなら、とっとと行くといいさ」
「リオン! 言い過ぎだ!」
リオンの言葉に、フォンが怒鳴る。
そして、奥歯を噛むレックは、拳を握り締め、
「テメェ!」
と、レックはリオンへと拳を振り抜いた。
だが、その拳はリオンが頭を傾けた事によりかわされ、遅れてレックの腹をリオンの右拳が抉るように突き上げた。
「うがっ!」
口から唾液を飛ばすレックは、その手から力が抜け膝を地面へと落とした。
そんなレックを見下し、リオンは告げる。
「俺にこの様なら、あっと言う間に仲間の下にいけるな。よかったじゃないか」
「くっ!」
奥歯を噛み締めるレックは、表情を歪める。
そんな折、フォンがリオンを壁へと突き飛ばした。
そして、その胸倉を掴み奥歯を噛む。
「何のつもりだ!」
「お前がバカみたいな提案をするからだ」
「ふざけるな! お前、自分が何言ってんのか分かってんのか!」
フォンの言葉に、リオンは右の眉をピクリと動かし、フォンの額へと頭突きを見舞った。
「うがっ!」
大きく後方へと弾かれたフォンは左手で額を押さえ、よろめく。
そんなフォンの腹部へと、リオンは前蹴りを見舞った。
「うぐっ……」
腹部を蹴られ尻餅を着いたフォンは、表情を歪めリオンの顔を見上げた。
「いいか。お前の方こそ、分かってんのか! どう言う事なのか!」
リオンがそう怒鳴った時、メリーナが二人の間へと割って入った。
「や、止めてください! こんな事をしている場合じゃないはずです!」
メリーナの言葉に辺りは静まり返る。
そして、リックとエルバは歩き出す。
「悪いが、俺は行く」
「自分もだ」
二人が歩き出すと、リオンは深く息を吐く。
「悪いが、俺も今回はアイツらと行く」
「くっ……」
奥歯を噛むフォンは俯き瞼を閉じた。
何も言わずそわそわするカインと、不安そうな表情を浮かべるメリーナ。
そして、ブライドの四人だけがその場に残された。
小一時間程が過ぎ、重い空気の中、フォンは静かに立ち上がる。
「どうする気だ?」
ブライドはそんなフォンへと尋ねた。
すると、フォンは右手で頭を押さえ、深く息を吐く。
「オイラは、南の大陸に行く」
「エッ! な、何言ってるんですか! 他の三人はどうするんですか!」
メリーナが驚きの声を上げると、ブライドは小さく頷く。
「ああ。僕もその意見に賛成ですね」
「ちょ、ちょっと待ってください! な、何で――」
「彼らの芝居に合わせてあげるべきではないですか?」
ブライドが肩を竦めると、フォンは目を細める。
この男は何もかもお見通しのようだった。
その為、何を言っているのか分からないと困惑気味のメリーナへと、フォンは深々と息を吐き頭を掻いた。
「はぁー。なんだよ。知ってたのか?」
「えぇ。おかしな点がありましたから」
「ちょ、ちょっと待ってください! い、一体、何が芝居だったんですか?」
わけが分からないとフォンとブライドを交互に見据えるメリーナに、フォンは苦笑する。
「アレは、オイラとリオンの芝居なんだよ」
「は、はいぃぃっ! し、芝居? え、えっと、ど、何処から、何処まで?」
「ハッキリ言えば、全部?」
首をかしげ、テヘッと笑うフォンに、メリーナはプクッと頬を膨らし、両手でフォンの胸を叩く。
「も、もう! ほ、ホントに心配したんですよ! ど、どう言う事ですか!」
「痛いって……ホント、悪かったって」
「でも、いい感じに二手に分かれられましたね」
「えっ? ……ハッ! た、確かに何だかんだありましたけど、綺麗に二手に……」
目を丸くするメリーナに、ブライドはクスクスと笑う。
「まぁ、私怨で周りの見えてないあの二人は騙されましたけど、本来なら、キミが行くべきだったんじゃないですか?」
微笑するブライドの言葉に、メリーナは首を傾げる。
「な、何で、フォンさんが行くべきだったんですか?」
「彼らが冷静だったなら、気づいたはずですよ。リオン。彼の行動と言動の矛盾に」
ブライドはそう言い、更にクスクスと笑った。




