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第94回 歴史は変えられるのか

 結局、昼間は話を聞く事が出来なかった。

 町の人達の亡骸を弔う為に、墓を作っていたのだ。

 もちろん、そんな大層な墓ではなく、ただ土に遺体を埋め木を立てた程度の簡易的なものだった。

 多くの知人が居たのか、レックは泣き崩れ何も出来なかった。

 そして、フォン達もそんなレックに声を掛ける事は出来なかった。

 メリーナにはなるべく遺体を見せたくなかった為、フォンはメリーナにカインと一緒に食料を探しに行かせ、遺体の処理はフォンとリオン、風鳥族のエルバの三人で終わらせた。

 カインはこの大陸に来てからずっと様子がおかしい。

 それもずっとフォンは気に掛かっていたが、聞く暇はなかった。

 陽が落ち夜になった。

 フォン達は一軒の家に居た。

 暖炉にくべた焚き木が火の粉を上げ、崩れ落ちる。

 とても、静かだった。

 誰も口を噤み、何も語らない。

 キッチンではメリーナが軽い食事の支度をし、机の前にはリオンとエルバが向かい合い座っていた。

 二人共、腕を組み互いに自分の領域に入られる事を嫌っていた。

 この二人が室内に漂う険悪な雰囲気の原因の一つだった。

 肩を落としうな垂れるレックは、ベッドに座り微動だにしない。

 やはり、身内の死と言うのは相当のショックだったようだ。

 レックを気にしながらも、フォンはリオンとエルバの二人を何度も交互に見据える。

 どうにかこの場を明るくしなくてはと、考えるフォンは静かに立ち上がり声をあげた。


「え、えっと……え、エルバはどうして、ここに?」


 何とかこの空気をどうにかしようと考えたフォンが、疑問に思っていた事を口にする。

 すると、エルバは、ふむっと静かに息を吐き、細い目を真っ直ぐにフォンの方に向けた。


「自分は、この土地の――いや、自分の里、風鳥族の里の長である父が急に変わってしまわれた。故に、三種族が集められた会合で何かが行われたのではないか、そう考え、水呼族の長に会いに参った」

「だが、来てみれば、この有様だった……そう言う事か?」


 腕を組むリオンが、静かにそう呟いた。

 その言葉に、エルバは「ああ」と静かに答え、頷いた。それから、小さく息を吐き出す。


「しかし……このような状態になっているとは……」

「でもさ、それって、レックのオヤジと同じ状態じゃないか?」


 フォンがそう言いレックへと目を向ける。

 すると、レックは小さく頷き答える。


「ああ。俺の里も同じだ。オヤジが、急に変わった」

「急に……やはり、あの会合の後からなのか?」


 エルバはレックの方へと渋い表情を向ける。


「ああ。たしか、その辺りからだろうな」

「そうか……」


 レックの返答を聞き、エルバは腕を組み俯いた。

 そんな二人のやり取りに、リオンは深々と息を吐くと、右手で頭を掻く。


「と、なると……一度、王都に行く必要性が出てくるな……」


 複雑そうな表情でそう言うリオンに、エルバは静かに首を振る。


「恐らく、無駄だろう。自分はここに来る前に、一度王都へと向かった」


 静かにそう答えたエルバは、顔を挙げ真っ直ぐに目の前に座るリオンを見据えた。

 そんなエルバの眼を真っ直ぐに見据えるリオンは、眉間へとシワを寄せる。

 二人の視線が交錯し、数秒の時が流れ――


「はーい。夕飯の準備が終わりましたぁー」


と、場の空気を一切読まないメリーナの愛らしい声が響いた。

 恐らく、あえて空気を読まなかったのだろう。

 重苦しい空気の中で食事をするのは嫌だと、瞬間的に判断したのか、それとも、空気を変えたかったのかはわからないが、メリーナのその明るい声は、場の重苦しい空気を少しだけよくした。

 料理の乗った皿が幾つかテーブルへと置かれ、焼きたてのパンが入ったカゴがその中心に置かれる。


「さぁ、どうぞ!」


 弾むような声でそう言うメリーナだが、皆、沈黙していた。

 食欲がなかったわけではなく、目の前の料理の数々に戸惑っていた。

 流石のフォンも目を丸くし、引きつった笑みを浮かべると、隣りに並んで立つメリーナへと目を向ける。


「あ、あの……メリーナ?」

「はい? 何ですか?」


 うきうきと弾むメリーナの声に、フォンは目を細める。

 嬉しそうなメリーナには非常に言い辛いが――


「コレは……一体?」

「はい? もちろん、サラダに――」


 サラダと言うのは、恐らくリオンの右手前に置かれた皿の事だろう。

 しかし、その皿には葉野菜丸々一玉。何の工夫もされていないただの丸ごと野菜だ。


「薄切り肉のカリカリ焼きと――」


 薄切り肉のカリカリ焼き。ネーミングを見る限り、こんがり焼けた薄切り肉をイメージするが、リオンの左手前に置かれたその皿に盛られているのは、カリカリと言うよりも、カチカチの黒焦げた塊だった。


「それから、キノコのスープです!」


 と、胸を張るメリーナだが、そのスープには非常に毒々しいキノコがプカリと浮かんでいた。

 沈黙する皆に、メリーナはニコニコと笑みを浮かべる。どれも自信作なのだろう。

 今に思えば、避けられる惨劇だった。

 メリーナはお嬢様。もちろん、料理なんてした事は無いだろう。

 ただ、ここまでの旅路で、一緒に調理をしてきた為、料理の腕もあがっただろうと、フォンもリオンも思っていた。

 それがどうだろう。この有様だった。

 呆然と立ち尽くすフォンは、目を細めると、右手で頭を掻く。


「え、えぇーっと……じゃあ、さっきの話の続きをしようか?」

「そうだな」

「えぇーっ! そんなぁー!」


 フォンとリオンの言葉に、メリーナは不満げな声を上げる。

 だが、そんなメリーナに、フォンは


「ほ、ほら、食事をしながら、話そう。うん。色々と今後の事を考えなきゃいけないだろ?」

「そ、そうですけど……暖かいうちに食べて欲しいです……」

「う、うん。そ、そうだね……」


 表情を引きつらせ、フォンはそう答えた。

 それから、フォン達は話し合いをしながら、恐る恐る料理を口にした。

 それはもう、この世のものとは思えぬ程の苦味、渋みのオンパレードな料理だった。

 そんな食事と、話し合いを終え、フォンとリオンは外で夜風に当たっていた。


「はぁ……災難だったな」


 腰を据え、静かに呟くリオンは、右手で頭を抱える。

 未だに頭痛がしていた。

 そんなリオンに苦笑するフォンは、一歩、二歩と足を進め、空を見上げる。

 満点の星空はとても美しく、煌びやかだった。

 美しい星空を見上げ、フォンは深々と息を吐き、やがて深刻な表情で呟く。


「今度は、風鳥族の里か……」


 眉間にシワを寄せ、唇を噛み締めるフォンは、拳を震わせる。

 この後の出来事を二人は知っていた。だからこそ、気分は浮かない。

 歴史通りならば、この後に起こるのは――エルバの最愛の人の死だ。

 そして、風鳥族の惨殺。

 今に思えば、水呼族の惨殺も、歴史書に記されていたのを、リオンは思い出していた。


「歴史は変えられる……と、思うか?」


 リオンが伏せ目がちにそう口にする。

 静かなその声の後、冷たい風が二人の間を抜け、土煙が僅かに舞った。


「さぁ……な。オイラ達は、すべき事をする。それだけだろ?」


 と、フォンは肩を竦めた。

 その言葉に、リオンは「そうだな」とため息混じりに答えた。

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