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第91回 出航準備

 一月掛け、ようやくフォン達は船を調達した。

 格安の為、ボロボロで本当に浮くのか、と疑いたくなる程の古びた船だった。

 その船の改築に高額のお金がかかり、現在ほぼ一文無し状態だった。

 完成した船は、中型の帆船。風力を利用し進むとても古い型だ。

 飛行艇などの精密機械を積んだ乗り物が主流のこの時代ではかなりの旧型と言える。

 だが、これでようやくフォーストへと渡れる。

 フォン達は早速食料など、必需品を買いそろえ、出航の準備をしていた。


「しっかし、結構時間が掛かったな……」


 頭の後ろで手を組み、フォンはそう呟いた。

 そんなフォンの隣りに並ぶメリーナは膝丈ほどのスカートの黒のワンピースに身を包み、美しい金色の髪を背中で揺らす。


「でも、これで、ようやくフォースト王国へといけますね」


 笑みを浮かべるメリーナがそう言うと、フォンは「だな」と答えた。

 フォンとメリーナの二人は買出し担当にまわされていた。

 本当ならばメリーナ一人での買出しだったが、それは危険だとフォンも一緒に行くことになったのだ。

 リオンとカインは船の調整を行い、レックは海で狩りをさせられていた。

 少しでも資金はあった方がいいだろうと、リオンが無理矢理狩りに行かせたのだ。

 本人は絶対に嫌だと言ったが、リオンに海に放り投げられた。それで、嫌々狩りをしていた。

 船からそんなレックの姿を眺めるカインは、眉間にシワを寄せ目を細める。


「アイツ、サボってる」


 カインがボソリと呟くと、リオンは肩を竦める。


「別にいいさ。適当に流していけば」

「いいのか? それで?」


 不快そうな表情を浮かべるカインに、リオンはため息混じりに「ああ」と答え、二度、三度と頷いた。


「資金は必要だが、奴も今まで大分頑張ったからな。とりあえず、ゆっくりさせてやれ」

「……そう言うなら、分かった」


 カインは不満そうだったが、そう了承し作業へと戻った。



 買出し担当のフォンとメリーナは、様々な店を回っていた。

 食料品から薬品などを買い込み、フォンは両手一杯に袋を抱えていた。

 今回は長い船旅になるだろうと、いつも以上に多くモノを買い込んでいた。

 鼻歌をまじえ、前行くメリーナはスカートをふわりと揺らし振り返る。


「次は何処に行きましょうか?」

「う、うん……とりあえず、一旦船に戻らない? 流石に、これ以上はもてないよ……」


 振り返ったメリーナの顔など見えない程の量の荷物をフォンは持っていた。

 流石に、これ以上荷物はもてないと、言うフォンの判断に、メリーナは困ったように笑う。


「そ、そうですね。流石に、これ以上は無理ですよね」

「お、おう……流石に、無理ッス……」


 震えたフォンの声に、メリーナはただただ苦笑した。



 フォンとメリーナが船へと戻ると、カインが甲板から二人を出迎えてくれた。


「おかえり。どうだった?」


 落ち着いたカインの口調に、大量の荷物を持つフォンは、


「と、とりあえず、手伝ってくれ……」


と、弱々しく声を上げた。

 しかし、カインは甲板からフォンを見つめ、小さく首を傾げる。


「とりあえず、一旦手に持っているモノを下せばいいんじゃない?」


 カインの言葉でフォンはハッとする。


「おおっ! そっか。別に、全部一気に船に運ぶ必要ないじゃん」

「じゃあ、俺、まだ掃除終わってないから」

「ああ。じゃあ、荷物はオイラが――て、そうじゃなくて、運ぶの手伝えよ!」


 手を振って消えていくカインの背中に、フォンは思わずそう叫んだ。

 何だかんだとあったが、結局荷物はフォン一人で積み込み、いつでも出航できる準備が出来た。

 船室に集まったフォン達は、今後の航路についての話をしていた。

 卓に乗せた地図を見据えるリオンは、レックへと目を向ける。


「レック。お前の考えでは一体、どの航路が一番安全だ?」

「海は何処を行っても危険だからな。天候が変りやすいし、そればっかりは、ここじゃ予想できないな」


 リオンの問いかけにレックは肩を竦め、首を振った。


「そうか……。なら、とりあえず、通常通りの航路を行くしかないわけか……」


 リオンは腕を組み、鼻から息を吐き出した。

 なるべく安全にフォーストまで行きたい所だったが、流石にそう上手くは行きそうになかった。

 複雑そうな表情を浮かべるリオンに対し、フォンは落ち着いた面持ちで尋ねる。


「けど、フォーストの何処に行くんだ? きっと、港は封鎖されてるだろうし、兵も沢山居るだろ?」


 フォンの些細な疑問に、リオンは眉間にシワを寄せ、レックへと目を向けた。


「どうなんだ? 港は封鎖されてるのか?」


 キツイ眼差しを向け問いかけるリオンに、レックは瞼を閉じ小さく頷く。


「ああ。俺がフォーストを離れた時には、すでに封鎖の準備をしてたし、恐らく今は厳重に警備されているだろうな」

「と、なると、港以外の場所から上陸しなきゃいけないのか……」

「あーぁ……それも、難しいかもしれないな」


 リオンの言葉に、レックがそう口にする。


「どうして難しいんだ?」


 訝しげな眼差しをレックへと向け、フォンが尋ねる。

 すると、レックは自分の顔を指差し、


「俺ら水呼族が海中から見張ってんだ。近づくなんて無理無理」


と、更に右手を顔の前で振った。

 呆れた眼差しを向けるリオンは、右手で頭を抱えると深々と息を吐く。

 そんなやり取りと聞いていたカインは、冷ややかな眼差しをレックへと向ける。


「お前、ホント役に立たないな」

「うっせっ! ちゃんと金稼いだだろ!」

「……お前が使った分働いただけだろ?」


 真っ直ぐに正論を言ってのけるカインに、レックは押し黙る事しか出来なかった。

 相変わらずの二人に苦笑するフォンは、右手で頭を掻くとリオンへと目を向ける。


「どうする? 流石に、オイラ達じゃ、海中じゃ戦えないし、船底やられたら終わりだぞ?」

「そうだな……。とりあえず、行ってみない事にはなんともいえないな」

「とりあえず、海中戦はアイツ一人に任せるって事でいいんじゃないか?」


 カインがレックを指差しそう言うと、レックは驚き大声を上げる。


「む、無理に決まってんだろ! 殺す気か!」

「だよな。うん。流石にレック一人じゃ無理だよな」


 鼻から息を吐き出し、フォンは何度も何度も頷く。

 リオンもレック一人でどうにかなるとは思っていないし、そうさせる気もなかった。

 その為、一層眉間に深いシワを寄せ、深々とため息を吐いた。


「その海域に行くまでに、どうするか考えるか……」

「しっかし、厳しいなぁ……船で行けば、海中から水呼族が、飛行艇で行けば、空中で風鳥族が……どうやっても上陸なんて不可能だよな」


 能天気にフォンがそう言い笑う。

 フォンの言う通りだ。

 今、フォーストに上陸するのは不可能に近い。海も空も相手の得意分野。そんな所に、どうやって入り込めばいいのか、悩みどころだった。


「とりあえず……生きて戻ってこれるといい……な」


 リオンがボソリと呟き、


「そうだな」


と、フォンは頭の後ろで手を組んだ。

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