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第9回 能天気な二人

 クラストを出て道なりに足を進めるフォン達。

 もう街も見えなくなり、空にはすっかり太陽が昇っていた。

 父の形見である茶色のロングコートを揺らし、嬉しそうに先頭を進むフォンの後姿を見据え並んで歩くリオンとスバルは、二人して深くため息を吐いた。能天気なフォンと違い、二人は結構現実的で、勢いでクラストを出た事を早々に後悔していた。

 今日、何度目かのため息を吐いた二人は、互いに顔を見合わせ苦笑する。


「ねぇ、リオン……後悔してる?」

「ああ……街を出て数時間……すでに後悔してる。何で、アイツの口車に乗ったんだろうって……」


 二人して肩を落とし、フォンの背中を恨めしそうに見据える。

 あの時は、ワノールの死と言うショックを受けていた為、上手く思考が回っていなかったのかもしれない。だから、フォンがこの街を出ると、宣言したその瞬間、俺達も一緒にと口走ってしまったのだ。

 今になりよくよく考えると、街を出るにしても色々と準備が足りていなかった。資金面は一番の不安要素だった。三人合わせてもそこそこのお金しか持っていないのだ。こんな状況で本当に世界を回る事は出来るのか、と二人は不安で仕方なかった。


「俺、野垂れ死にとか嫌だよ……」

「そうだな……まぁ、そうならない様に、俺らがしっかりしないとな」


 能天気なフォンの背中を見据えながら、リオンはそう自分に言い聞かせる。スバルは面倒臭そうにブツブツと言い、大きくため息を吐き伸びをする。


「んんーっ! もういいや! 俺は何も考えない! フォンみたいに、能天気に行くぞっ!」

「お、おい! おまっ……」


 リオンはそこまで言いかけて言葉を呑むと、スバルは笑いながらフォンの方へと駆け出す。そんなスバルの背中を見据えるリオンは思う。


(考えたら、あいつもフォンと同じタイプだった……)


 と。長い付き合いだから分る。基本的にスバルが能天気な性格だと。その証拠にさっきまで落ち込んでいたはずのスバルも、今はフォンと肩を組み笑いながら軽い足取りで前を歩いていた。

 そんな能天気な二人の後姿を見据えるリオンは、右手で額を押さえ深くため息を吐く。不安は二倍になり、より一層自分に責任が掛かるリオンは、眉間にシワを寄せ二人の背中を静かな足取りで追った。

 暫く肩を組んで歩いたフォンとスバルだったが、無駄にはしゃぎ過ぎた所為か木陰でへたり込んでいた。そんな二人を腰に手をあて仁王立ちして見据えるリオンは、呆れた様に付加深くため息を吐く。


「お前らなぁ……」


 怒気を含んだリオンの声に、フォンとスバルは二人して弱々しく笑う。


「つ、疲れたぁー」

「しんどぉーい」

「分かった! 分かった! ここで少し休憩すればいいんだろ!」

「流石! リオン!」

「分かってるぅー」


 横たわっていたフォンとスバルが体を起こし、リオンを持ち上げる様にお気楽な声を上げた。そんな二人にもう一度深くため息を吐いたリオンは、静かに木陰に腰を下ろす。優しく風が駆け抜け、リオンの黒髪を撫でる。起こした体をもう一度倒したフォンとスバルは、大きく息を吸い静かに吐く。

 暫しの静寂の中に聞こえる小鳥のさえずり。そのさえずりに、スバルは何かを思い出し静かに上半身を起き上がらせる。その行動にフォンとリオンは怪訝そうな表情を浮かべた。


「どうかしたのか? スバル」

「いや。今、思い出したんだけど、昨日、アカデミアでアリアさんが襲われたみたいだよ?」


 サラッとそう告げたスバルに、フォンは驚き体を起き上がらせ、リオンも表情を険しく変えスバルへと鋭い眼差しを向ける。二人の脳裏には、同じ人の姿が浮かんでいた。昨日見たベッドに横たわるワノールの姿が。

 ドクッと激しく脈打つ心臓にフォンは唇を噛み締め拳を握り、リオンは僅かに俯くと震える右手を自らの左手で押さえつける。


「あ、アレ? ど、どうしたの? 二人とも? 怖い顔して?」

「それより、スバル! 詳しくその話聞かせろよ」


 今までと違うフォンの殺気立った雰囲気に呑まれ、「う、うん」と小声で呟き頷いたスバルは、腕を組み思い出す様に瞼を閉じる。


「深夜……何時位かな? アカデミアに忘れ物したから、取りに行ってたんだけど、屋上から激しい衝撃音がして、窓から見上げたら、アリアさんの姿がチラッと見えたんだよ」

「それで、何でアリアさんが襲われてるって思ったんだ?」


 リオンがスバルの話を聞き不思議そうにそう尋ねると、スバルは眉間にシワを寄せ記憶を辿りながら、


「いや、他にもローブを着た二人組みと、もう一人誰かが居たのが見えたんだよ……」


 と、付け加えた。その返答に、訝しげな表情を浮かべるリオンは、口元へと左手を持っていくと、考え込む様に俯く。一方で、フォンは相変わらず殺気立った雰囲気を体から放ち、怒りにも似た感情をその顔にあらわにしていた。


「ローブを着た二人組み……。それにもう一人誰かが居たのか?」

「うん。俺の見る限り、ローブを着た二人組みがアリアさんと交戦してて、もう一人はアリアさんと一緒に戦ってくれてた……様に見えたけど?」

「だとすると、そのローブを着た方が、ワノールさんを殺した可能性があるってわけか?」


 フォンが静かにそう呟くと、リオンも声のトーンを落とし「そうだな」と呟く。それと同時にスバルは更に何かを思い出し、パンと手を叩いた。その音に驚き、フォンの殺気が消え、考え込んでいたリオンも、その思考を停止させスバルの方に視線を向けた。

 驚き目をパチクリさせるフォンは、スバルを見据え僅かに声を荒げる。


「な、何だよ。いきなり、手なんて叩いて?」

「いや、思い出したんだよ!」

「思い出した? 何を思い出したんだ?」


 明るく笑みを浮かべるスバルに、真剣な表情を向けるリオンが問うと、スバルは顔の横で人差し指を立て自信満々に答える。


「あの人、ルナさんの家に居た人だよ!」

「…………」

「…………?」


 フォンとリオンが顔を見合わせ、首を傾げる。スバルが何を言ってるのか分からず、小さくため息を漏らすと、二人して肩を竦め首を振った。


「何言ってんだよ? ルナさんは一人であの家に暮らしてるんだぞ?」

「全くだ……。何を言い出すかと思えば……」

「ちょ、ちょっと! 二人も会ったろ? ワノールさんに会いに行く前に……」


 あの時の光景を思い出し、辛そうな表情を見せるスバルに、フォンとリオンもあの状況を思い出す。ワノールの死の印象が強過ぎて、二人は忘れかけていたが、確かに玄関で一人の男と会っていた。黒髪の若い男に。その男の顔を思い出し、二人は声をそろえ「あぁーっ」と、声をあげ頷いた。


「居た居た! そう言えば居た!」

「居ただろ? あの人だよ。アリアさんと一緒に戦ってたの」


 ようやく、フォンとリオンに伝わり、ホッと胸を撫で下ろしたスバルは、安心した様に笑顔を見せる。一方で、リオンは腕を組み考え込む。何かを思い出そうと僅かに唸り声を上げるリオンは、首を傾げた。


「なぁ、あの人……何処かで見た事あるよな?」

「えっ? そりゃ、ルナさんの家でしょ?」

「いや、違う。もっと前にだ」

「そりゃ……会うだろ? 同じアカデミアの生徒だったんだし」


 能天気にそう返答したのはフォンだった。当然だろと、言いたげなフォンの顔に、唖然とするスバルとジト目を向けるリオン。そんな二人の視線に、フォンは訝しげに首を傾げ、眉間へとシワを寄せる。


「二人も覚えてるだろ? 五年前にアカデミアを卒業した――」

「あぁーっ! そ、そうだ! あの人!」

「くっそっ……そうだった……なんで、フォンに言われるまで気付かなかったんだ!」


 驚き歓喜の声を上げるスバルに対し、悔しさを全面に出すリオン。

 あの人はアカデミアでは有名な人で、フォンもスバルに言われてルナの家の前であった時の事を思い出した時に、その人の事を思い出したのだ。ワノールに認められ、黒刀・カラスを受け継いだアカデミアの卒業生にして、過去最高の成績を残した男。

 フォン達は彼が在学中、下級クラスだった為面識は殆ど無かったが、それでも覚えていた。圧倒的な彼の戦いぶりを。

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